イージス・アショアの「もったいない」(その2・完)―グローバル安保からスペース安保へ?「宇宙作戦隊」新編
2020年6月22日

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かと話題の多い人物である。《河野太郎 山本太郎》で画像検索をかければ、9年前の主張を確認できる。左の写真は、今年1月10日、米国とイランの対立が激化するなか、護衛艦「たかなみ」(DD110)とP3C哨戒機の中東への派遣命令を、防衛省設置法4条18号(「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究」)という「裏技」で出した数時間後のツイートである。右の写真は、北海道の第7師団第71戦車連隊(北千歳)所属の10式戦車の天蓋から笑顔(真顔)を見せる河野防衛大臣である(直言「馬鹿が戦車でやって来る」参照)。この2枚の写真にコメントはしないでおこう。

日米安保「還暦」の風景

その河野大臣が、6月15日にイージス・アショア計画の突然の停止を発表したのには驚いた。2年前に書いた直言「イージス・アショアの「もったいない」」の続編として、今回、「その2・完」をアップすることにしたい。

明日、6月23日、「新」日米安保条約が「還暦」を迎える。この条約には、安倍晋三首相の祖父、岸信介首相(当時)の強引な政権運営のもと、条約承認の国会の手続を、衆議院での強行採決のあと、参議院で審議にも入れず、30日間待って「衆議院の議決を国会の議決とする。」という憲法61条による、いわば「片肺承認」(「自然承認」という言葉は不自然)で何とか通したという異様な出自がある。この経緯については、ちょうど10年前の直言「日米安保改定から半世紀」のなかに、拙稿「迎合、忖度、思考停止の『同盟』」(『世界』(岩波書店)2010年6月号88〜96頁)が収録されているので参照されたい(「忖度」が流行語になる前から指摘しておいた)。そこでも指摘したように、通常、国際的な条約は、基本的には各国の憲法上の手続きに従って承認され、対等な主権国家間の合意という形式をとる。だが、日米安保条約については、旧安保条約締結から1960年の新安保条約をふくむ全てのプロセスにおいて、日本側の過剰なまでの迎合と忖度が作用して、米軍駐留の条件、期間、中身の交渉すらやらず、「全土基地方式」という、普通の国ならあり得ない方式がとられている。

「還暦」を迎える日米安保条約は、条文は一文字も改められていないが、その運用によってまったく別物になってきている。在日米軍基地の使用条件は条約本文では、「日本国の安全」と「極東における国際の平和及び安全」の維持である(6条)。しかし、日米安保は90年代に「アジア・太平洋安保」に拡大され、今日では「グローバル安保」にまで変質している。森英樹・渡辺治・水島朝穂共編『グローバル安保体制が動き出す』(日本評論社、1998年)を出版してから20年になるが、2015年の安保関連法の制定により、まずは「捜索救助活動」からグローバル化が始まるだろう

「迎合」と「忖度」の日米安保の歪み

安倍政権の7年半で、「迎合」と「忖度」の日米安保の歪みは極大化している。例えば、1978年に金丸信氏が62億円で始めた「思いやり予算」(地位協定上に根拠のない米軍の経費負担・便宜供与)は、2020年度予算案では1993億円になっている。だが、トランプはさらにその4倍払えという理不尽な要求をしている。他国の軍隊の駐留経費を、これほどまで野放図に負担している国は他にない。

米兵犯罪をはじめとする基地被害についても、60年間、地位協定の改定交渉もしないで、協定の解釈運用でやってきた。米軍の「好意的配慮」に依存する状態をいつまで続けるのか。詳しくは、直言「なぜ日米地位協定の改定に取り組まないのか―「占領憲法」改正を説く首相の「ねじれ」」をお読みいただきたい。また、山本章子「在日米軍の「特権」を定めた日米地位協定の60年越しの問題」WEBRONZA )も参照のこと。

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「トランプ・安倍」コンビによる、米国製兵器「爆買い」が加速度的に進んでいることへの危惧は、与党内からも出てくるようになった。2017年11月の安倍訪米の際、トランプは、「非常に重要なのは、日本が膨大な兵器を追加で買うことだ。・・・米国に雇用、日本に安全をもたらす」と、本音むきだしで語っていた(直言「トランプ・アベ非立憲政権の「国難」―兵器ビジネス突出の果てに」)。安倍官邸がトランプとつるんで、次々に高額兵器を買い急ぐなか、さすが自民党国防部会のメンバー(防衛大臣経験者を含む)からも批判の声があがった。同年12月12日午前8時の国防部会(自民党本部1階101会議室)では、地上配備型イージスシステム(イージス・アショアという)の導入について質問が相次ぎ、「どこで決まったのか」という野次まで飛んだという(直言「変わる自民党国防部会の風景」参照)。

イージス・アショアは本当に日本の「防衛」に必要なのかについては、『軍事研究』誌にもこれを疑問視する論稿が掲載されている。「高額兵器」の購入の方法についても重大な疑問がある。直言「国政の「放漫運営」―高額兵器の「爆買い」が国を滅ぼす」でも書いたが、これら超高額兵器の「爆買い」には、「対外有償軍事援助」(FMS: Foreign Military Sales)が適用される。「援助」は誤訳で、「売り込み」(セール)である。米国から「言い値」で、しかも納期もすべて米国政府まかせ、日本に圧倒的不利な条件である。安倍政権下の2015年度からFMS調達が急激に増加して、2019年度は7013億円に達している。

イージス・アショアの「もったいない」

2年前に書いた直言「イージス・アショアの「もったいない」」では、政府部内でも、こんな装備がなぜ日本に必要なのかという検討が十分行われないまま、導入だけは「スピード感」をもって決まったことを指摘している。単価も当初は1基800億円だったものが、レーダーLMSSR搭載で1340億円となり、2基購入で2679億円となり、2020年現在では4500億円に跳ね上がっている。

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イージス・アショアの配備地が秋田県と山口県に最初から決まっているのもおかしい。直言「「日米同盟」という勘違い―超高額兵器「爆買い」の「売国」」でも書いたが、その理由は、秋田配備の「イージス・アショア」はハワイの米軍基地に向かう弾道ミサイルを日本上空で迎撃し、山口配備のそれはグァムの米軍基地に向かうものを迎撃する。日本防衛のためでなく、米太平洋軍の拠点を防御するのを日本国民の税金でやろうというのである。まさに「亡国のイージス・アショア」である。

ところが先週、突然、河野防衛大臣がイージス・アショア計画の停止を発表したのである。新聞各紙の一面トップがこれだ。この問題についてスクープを連発して世論を動かしてきた『秋田魁新報』の一面トップは一段と鮮やかだ。この段階で、はっきりと「首相了解」と大見出しを入れている。河野大臣の口から停止の理由が説明されたのだが、これまた驚いた。山口配備の場合、迎撃ミサイルを打ち上げた際に切り離す推進装置「ブースター」が市民生活の場に落下する可能性があるというのだ。それまでの説明とまったく違う。もっといえば、こういう理由で計画全体を停止するのは、私でも不自然だと思う。河野大臣は「コストと期間に鑑みて、イージス・アショアを配備するプロセスを停止し、国家安全保障会議に防衛省として報告をして議論をいただいて、その後の対応を考えていきたいと思う」(『朝日新聞』6月16日付)と語ったが、河野大臣だけの判断で、これだけの計画の停止を決断できるとは思えない。米国市民のデモにまで軍を投入しようとしたトランプの暴走により、政府のなかに、トランプへの過度の迎合と忖度を続けることのリスクとデメリットが大きいという判断が生まれてきたからではないか。

「守りから攻めへ」―イージス・アショア撤回の裏で

ところで、『産経新聞』について、私は「官邸機関紙」と見ている(『読売新聞』は「政権機関紙」)。産経記者は6月18日の首相官邸1階での記者会見で、安倍首相にやらせ的な質問をして、憲法改正への決意を引き出した。さらに、「「敵基地攻撃能力」保有なら攻勢的専守防衛への転換 首相の検討表明」という見出しで、敵のミサイル発射基地を攻撃し、発射を抑止する「敵基地攻撃能力」の保有を検討する意思を示したと書いた(『産経新聞』6月19日付デジタル)。『産経』記事は、「保有すれば抑止力のあり方が根本的に見直され、「専守防衛」の方針は守勢的から攻勢的なものへと大転換する。」とあけすけに書いている。敵基地[策源地]攻撃能力について、『産経』は、「政府は敵基地攻撃能力について「他に手段がなければ自衛の範囲で、憲法上認められるが、政策上保有しない」と解釈している。だが、実際には、艦艇などを攻撃する射程500〜900キロの長距離巡航ミサイルの導入を狙っている」と、安倍首相の言葉をさらに踏み込んで「解説」している。これは、イージス・アショア計画撤回について、安倍首相への責任が及ばないようにする「論点ずらし」の効果を狙うと同時に、過度に防禦的なイージス・アショアをやめて、これを契機に、より「攻勢」的な戦略に転移するという狙いがあるのではないか。

そうしたなかで、中谷元・元防衛大臣は6月15日、BS-TBSの番組に出演して、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設についても見直しが必要だと語った。「十数年、1兆円かかる。完成までに国際情勢は変わっている」と述べ、辺野古移設の不合理性を説明したという。これぞ正論である。イージス・アショアが撤回できるなら、辺野古移設も撤回すべきだろう。自民党内では絶滅危惧種かもしれないが、「自由」「民主」党を名乗るならば、こういう声がもっと党内からあがってもいいのではないか

宇宙作戦隊とスペースウォー?

河野防衛大臣のもとで、5月18日、宇宙作戦隊なる部隊が編制完結した。この日、部隊の新編に当たり、大臣から宇宙作戦隊長(二等空佐)に対して隊旗の授与が行われた。宇宙作戦隊は、府中基地において約20名で編成され、宇宙状況監視システムを運用するなど、宇宙空間の安定的利用の確保に資する活動を実施する予定という。

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先日、拙宅からほど近い航空自衛隊の府中基地(宇宙基地ではない)に行ってみた。14年前に書いた直言「体験的「米軍再編」私論(その2・完)」は、基地周辺を散歩しながら写真を撮って書いたものである。私が子どもの頃は米第5空軍司令部で、高校生の時に「関東計画」で米軍は横田基地に移り、ここには空自の航空総隊司令部が置かれた。その後、主要な機能が横田基地に移ったので、航空支援集団司令部や航空保安管制群や航空気象群の本部機能などが残るだけである。そこに突然、「宇宙作戦隊」が常駐することになった。基地正面に看板が出るわけでなし(写真は2006年撮影)、基地のホームページにも6月21日現在、「宇宙作戦隊」の記述はない

トランプは昨年8月、宇宙軍の創設を発表した。陸海空軍、海兵隊と同格の5番目の軍であるが、人員は当面「わずか287人」である。もっとも、日本の宇宙作戦隊の20人に比べれば、14倍である。宇宙空間でも、米軍への忖度を繰り返すのだろうか。

1969年に国会で、宇宙利用を「平和目的に限る」という決議が行われ、科学技術や研究に限定する姿勢を明確にしていた。だが、2008年に制定された宇宙基本法では、宇宙開発の目的に「安全保障」が盛り込まれ(3条)、「平和利用(非軍事)」から「防衛利用(非侵略)」への転換がはかられた。今年に入って、政府が「航空宇宙自衛隊」への名称変更を検討していることがわかった(『産経新聞』1月5日付)。米軍は「宇宙軍」、日本は「航空宇宙自衛隊」。日米安保条約の「還暦」は、「グローバル安保」から「スペース安保」への契機となるのだろうか。

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