わが歴史グッズの話(47)「アベノグッズ」の店じまい
2020年8月31日

《おことわり》
8月28日17時、安倍晋三首相は病気を理由に辞意を表明した。二度目の「政権投げ出し」の唐突感がある。本稿は8月26日に書き上げていたので、そのまま掲載する。安倍辞任について29日付新聞各紙の1面である(『日刊スポーツ』のみ、2007年辞任時の写真を並べたデスクのセンスはいい)。「安倍辞任」の各紙号外も全国から入手しつつあるので、地方紙を含めて、来週の直言冒頭でお披露目したい。「病気で辞任」を前面に押し出した手法により、メディアの批判がかなり鈍っているのが気になる(首相に敬語を使うアナウンサー!)。



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8カ月ぶりの「わが歴史グッズ」シリーズである。前回は、「不発弾をつくる「悪魔の計算」―クラスター弾」だった。年を越すと、新型コロナウイルスの感染拡大により、2月以降、「クラスター」といえば「集団感染」を意味する言葉として急速に一般化していった。たまたま感染症の患者となった個人が「感染物体」として括られ、複数の人々と同時期に感染すれば、「クラスター」と呼ばれる。私はクラスター弾(集束爆弾)しか頭になかったので、この半年あまり、「クラスター」という言葉の頻用に違和感を禁じ得なかった。

さて、2週間前に直言「在任期間のみ「日本一の宰相」」を出して、「安倍政権の終わりの始まりのスタートである。」と結んだ。その後の2週間で、事態は急速に動いた。そこで今回は「わが歴史グッズの話」として、「アベノグッズ」の数々を紹介して打ち止めとしよう。

第1次安倍政権時代の「アベノグッズ」を一つだけ挙げておこう。それが冒頭左の写真である。イラク戦争後の2007年5月、安倍首相が、航空自衛隊・イラク復興支援派遣輸送航空隊(第1輸送航空隊(愛知県小牧市)基幹)をクウェートの基地に視察したときの記事と、同航空隊の隊員がかぶっていたキャップ、この派遣の記念につくられたワッペンの数々である。イラク戦争は、米国による、国際法上正当化し得ない「先制攻撃」によって始まった。日本の関与については、「復興支援活動」という名のもとに、実質的には米国による国際法違反の侵略行為への関与という性格が強い(直言「「復興支援活動」の実態が見えてきた」参照)。とりわけこの輸送航空隊による武装米兵らの輸送の活動については、名古屋高裁により憲法9条違反という判決も出ている(直言「空自イラク派遣に違憲判断」)。

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2012年12月に発足した第2次安倍政権を象徴する「アベノグッズ」を一つ挙げるとすれば、「アベノマスク」ということになろう。4月1日(エイプリルフール)、日本の全所帯を対象に、一所帯あたり2枚の布製マスクの配布が政府から伝えられた。全世帯向けに1億3000万枚、介護施設などに6000万枚の計1億9000万枚で、費用は全世帯向けが260億円、介護施設等向けに247億円と見込まれていた。最終的にどのくらいの金額がかかったかは不明である(直言「科学的根拠なき政治―議事録も記録も、そして記憶もない」参照)。

まともにコロナ対応を考えているなら、マスクを必要なところに、必要なだけ緊急に届けるというのが、おそらくどの国の政府も真っ先にやっていることである。国民全員ではなく、所帯単位ですべて送るというのは、費用対効果や感染予防の効果などを総合すれば、よくぞ思いついたなというレベルの愚策である。傲慢無恥で知られる佐伯耕三秘書官(通産省98年入省)が、「全所帯に配れば国民の不安は消えますよ」と首相に進言して実現に向かったものだが、これはおかしいと抵抗した人はいなかったのだろうか。

そもそもなぜ、布マスクだったのか。首相は洗って何度でも使えるというが、布マスクが感染予防に効果があるのか。感染リスクから、使い捨ての方が安全である。配布中に虫や糸くずなどの混入が発覚し、それを調べるのにさらに税金が使われた。5月中に終える計画だったが、配布の完了は6月15日だった(政府公式発表)。遅れに遅れ、私の家に届いたのは5月22日だった。その頃は家にマスクはたっぷりあったので、ただちに「わが歴史グッズ」の仲間入りをした。「アベノマスク」こそ、この国のコロナ対策を象徴するものとして歴史に記録されるだろう。なお、とうの安倍首相は、8月に入って「アベノマスク」から「ホカノマスク」に変更したようだ。まだすべての所帯に届いているわけではないのに、安倍首相は「アベノマスク」の使用をやめてしまった。

「アベノグッズ」のなかで二番目に記憶に残るのが、「アベノマグネット」だろう。冒頭右の写真がそれである。厳密には「アベノマグネットシート」というべきか。2018年3月25日の自民党大会で代議員に配られた「記念品」である(直言「安倍首相が壊した「もう一つの第9条」――森友学園問題と財政法」参照)。中部地方の自民党県連の関係者から入手したものである。「書いて消せる!」とわざわざトップに入れてあるのがすごい。試しに書き込んでみたが、わざと消さないで撮影した(笑)。公文書も「書いて」(改ざん)、「消せる」(隠蔽)。大会当日、党本部職員の一人は、「見た瞬間、「まずい」と思った」。国会議員の秘書からは、「このタイミングでは冗談にならない」という声もあがったという(『朝日新聞』2018年3月27日付)。

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「アベノオカシ」も何度か紹介してきた。衆議院の売店で売られているものを、そのつど、ゼミ出身のマスコミ関係者が送ってくれている。そのなかから3つだけ紹介しよう。

まず、この写真は「ねじれ解消餅」(2014年9月販売)である。黒胡麻をたくさんまぶしてあり、裏箱には「決める政治を力強く進めます」とある。「アベノオカシ」ではこれが一番美味しかった。7年8カ月前に誕生した第2次安倍政権にとって、民主党が多数をもっていた参議院を制するために、2013年参院選は決定的な意味をもっていた。当時メディアが使った「ねじれ解消」という言葉は、実にミスリーディングだった。衆参両院の多数派が一致することがノーマルで、「ねじれ」はよくないというイメージが内包されていて、メディアが自民党有利の空気をつくる結果につながった。自民圧勝により「ねじれ解消」となったが、朝日新聞と東京新聞だけがこの言葉をトップ見出しに使わなかったのは適切だったと思う

「アメノミックス(AME no MIX飴)」(2014年7月販売)。「疲れた体に一服の抹茶味」「汗をかいたら塩分補給 塩味」「眠くなったら酸っぱい梅味」の三種類を「アベノミクス」の「三本の矢」にひっかけている(直言「安倍政権が史上最長となる「秘訣」―飴と鞭(アベと無知)」)。全然おもしろくないし、すでに「アベノミクス」は破綻し、首相自身も語らなくなった。「アベノオカシ」は他に、「晋ちゃんトランプラッキーせんべい」もあるが、ここでは省略する(直言「非立憲のツーショット」参照)。

最近のものでは、「第4次安倍第2次改造内閣饅頭」がある。でも、お菓子としては、これはパサパサして劇的に美味しくなかった。孫が一口食べてから、すぐに「もういらない」といって戻してきたのには驚いた。食えない閣僚ばかりを任命し続けた、「アベノ人事」のひどさを思う(不適材不適所)。辞任した閣僚に白い顔を書いた紙をはった(河井法務大臣も)。詳しくは、直言「安倍政権の滅ほろびへの綻ほころび―総裁3選党則改正の効果」を参照いただきたい。

これは国会見学者用の売店にあった「アベノカップ」である。3年前の10月、安倍首相は臨時国会の冒頭で衆議院を解散した。自ら「国難突破解散」と名づけたが、私は、「「モリ・カケ」問題の追及から逃げたいという、端的に言えば「自己都合解散」である」と批判した(直言「「自分ファースト」の翼賛政治―保身とエゴの「暴投解散」」)。一体、衆議院の解散により克服する「国難」とは何か。安倍首相はその中身を、北朝鮮のミサイル問題と少子高齢化にしぼって訴えていた。しかし、北朝鮮問題はトランプの金正恩に対する融和的対応で局面が変わり少子高齢化は解散理由としては意味不明だった。国民の関心は低く、結果、史上2番目の低投票率だった(直言「低投票率と「低投票所」―二人に一人しか投票しない「民主主義国家」(その2)」参照)。思えば、選挙の直前、「希望の党」(小池百合子代表)が民進党(前原誠司代表)を飲み込もうとして失敗。小池代表に「排除いたします」といわれた枝野幸男氏らにより立憲民主党が結党された。このマグカップからは、「モリ・カケ」の追及を避けて、野党を弱化させることに成功した安倍政権の「危機突破」の中身が見えてくる。これでコーヒーを飲む気にはなれない。

安倍政権の怪しげな関係を示すグッズもある。韓国の統一協会とも深い結びつきがある。直言「介入三昧・安倍的「国家先導主義」―賃上げから「就活」まで」でも書いたように、この政権は普通の保守政権とは性格が異なり、経済過程から教育、メディアなどのさまざまな自律的な社会領域に過度に介入していく、一種の国家社会主義的な手法も多用している。びっくりしたのが、2013年4月19日、安倍首相が官邸で、経団連、経済同友会、日本商工会議所の首脳と会談し、大学生の就職活動の解禁時期を「大学3年生の12月」から「大学3年生の3月」と、3カ月遅らせるよう直接要請した。理由のなかに、留学に行った人を不利にさせないためというのがある。「親のコネで一流製鉄会社に就職して「就活」の経験が皆無の安倍首相に、この学生たちの苦労が理解も実感もできるはずはない。」 安倍政権は、発足後数年の間、「アベノミクス」「官製春闘」などを通じて経済過程に過度に介入した。介入好きの「国家先導主義」といわれている。昨年秋以降の入試改革の迷走・失敗で、高校生もまた、不安な日々を送らされてきた。いまコロナのもとでの大学入試が控えている。政権の迷走の犠牲になるのは、いつも若者たちである。

最も恥ずかしいグッズがこれだ。読売新聞社がプレミア(非売品)で提供したもので、巨人「軍」の長嶋茂雄、原辰徳、松井秀喜との写真がカード化されているが、安倍首相の背番号は96番である。その頃、安倍首相は憲法改正条項である憲法96条の「先行改正」という奇妙奇天烈な主張を展開していた。「両議院の総議員の3分の2以上」を「過半数」に下げるというものだ。巨人のユニフォームを着て、背番号96番で審判をやって喜んでいる写真には驚いた。そもそも中立であるべき審判(アンパイヤー)が巨人のユニフォームを着て、「ストライク!」なんてやっている構図がおかしい。「96条先行改正」はあまりに評判が悪く、安倍首相もすぐに沈黙してしまい、二度とこの論点には触れなくなった。なお、安倍首相は国会で、自分の主張は「読売新聞を熟読していただきたい」と答弁で述べたことは記憶に新しい。なお、読売新聞社との安倍首相との特別の関係については、直言「読売マッチポンプの罪――安倍流「憲法改ざん」と前木政治部長」参照のこと。

「外交のアベ」だの「アベノ外交」だのと、外務省の頭越しに行われたこの7年8カ月の「官邸外交」の粗雑な交渉、安易な譲歩、先をみない妥協によって、北方領土は0島返還で、3000億円のロシアへの援助だけが残った。「拉致の安倍」とイキがってきたが、トランプに金正恩との会談の際に「拉致問題に触れてください」と頼むのが精一杯。金正恩に完全に馬鹿にされていた。詳しくは、直言「安倍政権の「媚態外交」、その壮大なる負債」、直言「「外交の安倍」は「国難」――プーチンとトランプの玩具」、直言「安倍政権の「媚態外交」、その壮大なる負債(その2)−忖度と迎合の誤算」と、そこで使われている「歴史グッズ」をご覧いただきたい。

韓国との関係は、安倍政権7年8カ月で、日韓の歴史のなかで最悪の状況を迎えている。2カ月近く記者会見もせずに引きこもっていた安倍首相は、「日韓国交断絶」を説く花田紀凱の『月刊 Hanada』9月号で「安倍総理闘争宣言」をしている。『ニューズウィーク』に「フェイスブック宰相」と書かれた安倍首相は、これで、ネトウヨレベルの頭で外交をやってきたことがわかってしまった(直言「「フェイスブック宰相」の靖国参拝」)。

まだまだ、「アベノグッズ」は紹介しきれないが、そろそろ店じまいとしよう。最後は「アベノ号外」である。2007年9月12日の号外は何度も使ってきたが、これで最後かもしれない。2020年バージョンの号外が出るX-Dayはいつになるだろうか。

(2020年8月26日脱稿)


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