「どうか日本に来ないでください!」――東京五輪中止の呼びかけ
2021年4月19日

二階俊博幹事長の五輪中止発言

「二階から目薬」は、「効果のおぼつかないこと、迂遠なことのたとえ」(広辞苑)である。安倍・菅政権のコロナ対策はまさにこれである。「アベノマスク」と中途半端な「持続化給付金」、「アベノアプリ」(COCOAの無策)、「イソジン吉村」(大阪府知事)、「雨ガッパ松井」(大阪市長)等々。これに「井戸のうちわ」が加わった。いずれも、「トップダウン」で的外れとなった愚策として記録されるだろう。


ここへ来て珍しく、「二階から直球」が届いた。自民党の二階俊博幹事長が4月15日のTBSの番組で、「これ以上とても無理だということだったらこれはもうスパッとやめなきゃいけない」と発言し、「オリンピックでたくさん蔓延させたということになったらなんのためのオリンピックかわからない」と述べたのである(『朝日新聞』4月16日付)。各紙ともあまり大きな扱いではなかったが、冒頭の写真にあるように、同じ16日付の『南ドイツ新聞』は二階幹事長の写真入りで大きく報じた。見出しは、「五輪の代わりに第四の波」である。ドイツでも、与党のGeneralsekretär(幹事長)の地位は高く、発言は重く扱われる。この82歳の幹事長の従来からの発言の特徴を指摘しつつ、「東京の政治エリートは、五輪がキャンセルされる可能性を徐々に考慮しなければならない」と書き、開催に否定的な世論が72%となった先週の共同通信の調査について紹介している。緊急事態宣言解除後に感染者が増え、政府分科会の尾身茂会長が「第四の波」と語るほどに増加していると書く。「準緊急事態」(「まん延防止等重点措置」のこと)にあるから、およそ五輪の準備という空気ではないことを伝え、二階の発言の背景を解説している。

一方、菅義偉首相は、4月14日の参議院本会議で、新型コロナウイルスの感染再拡大について「現時点で全国的な大きなうねりとまではなっていないと考えている」と述べて「第四波」との見方に否定的な考えを示した(『東京新聞』4月15日付)。これに対して、女性週刊誌『女性自身』(2021年4月15日)も、「コロナ対策の“トップ”である菅義偉首相(72)は危機感が薄いようだ」として、16日(現地時間)にワシントン・ホワイトハウスで行われるバイデン大統領との日米首脳会談のため15〜18日まで訪米することを批判的に伝えている。「3月の緊張事態宣言解除時、会見で感染抑止のために「できることはすべてやり抜く」と語っていた菅首相。しかし、目立った陣頭指揮も見られないままの“バイデン詣で”に、SNS上では批判の声が多くあがった」として、《第4波の非常事態に 渡米してる場合じゃないだろう》《コロナ禍を放置して訪米の菅首相。バイデンとの親密さを誇示し、オリンピックにこだわる。国民の生命は二の次といわざるを得ない》などの声を紹介している。

海洋放出は「放射性五輪」イメージを確定

この右の写真は、『南ドイツ新聞』4月14日付で、見出しは「冷却水の紛争」。破壊された福島原発の汚染水を海に排出することが、「近隣諸国だけを憤激させているだけではない」として、漁業関係者の声などを含め、その影響の大きさを伝えている。先週の直言「「マンボウ」と「汚染水」の海で」でも書いたように、欧州でも周辺諸国でも南米のチリでも、福島第一原発の汚染水問題への関心は非常に高く、4月13日の海洋放出決定は「五輪の終わり」のとどめのようなメッセージとなったのではないか。特にドイツでは、直言「「幻の東京五輪」再び」で紹介したように、「東京2020:放射性オリンピック」に反対する署名運動も存在する。

開催中止を求めるアピール

冒頭右の写真は、スイス・チューリヒの一流新聞Neue Zürcher Zeitung紙で、見出しは、「どうか日本に来ないでください!」(Kommen Sie bitte nicht nach Japan!)である。20人の日本人学者や知識人のアピールを紹介している。これを呼びかけたのは三島憲一氏(大阪大学名誉教授、哲学)。ドイツ語圏諸国の世論に訴えるため、関係するメディアに独文のアピールを送付したものだ。そのなかにこうある。「グローバルに感染の爆発的増大につながるオリンピック・パラリンピックは、やってはなりません。問題なのは人の命そのものです。国家の威信や経済的利益などは二の次のはずです。われわれはスポーツ関係者の理性に訴えたいです。また選手団を派遣する国々の世論に、この記事の場合にはドイツ語圏諸国の世論に訴えたいです。どうか日本に来ないでください!」

五輪開催100日前のタイミングで、同種の記事が、この写真にあるドイツのルール地方のWestdeutsche Allgemeine Zeitung (WAZ)やWestfälische Rundschau、ハイデルベルクやマンハイムのRhein-Main-Neckar-Zeitungなどにも載った。一番掲載されそうな緑の党系のtaz(tageszeitung)は、写真抜きのベタ記事扱いだった。まだ掲載紙がすべて確認できておらず、これから増えていく可能性もあるので後日、補充したい。

さて、これらの新聞が記事にしたアピールの全文を下記に掲げておこう。

【訳文】
ドイツ語圏の皆さんへ

3月25日に日本でのオリンピックの聖火リレーがはじまりました。場所は、原発事故で世界的に有名になった福島です。もちろん鐘や太鼓の大騒ぎではじまりました。今回福島は、地震、津波、原発事故の三重の破局から復活した日本の象徴として悪用されています。今でも地域の町や村には至るところ破壊の爪痕、貧困と悲惨が見られます。ところどころの駅前広場などがきれいに再建されていて、聖火リレーのルートはそういうところだけ見せて、お茶の間のテレビにはきれいなところだけが映るように仕組まれています。

誰でも知っているようにこの聖火リレーなるものは、1936年のベルリン・オリンピックの盛り上げのために始められたものです。このいまわしい過去が今回は新たに、それも決してポジティヴとは言えない形に変容されています。かつては、ヴァルター・ベンヤミンの表現するところによれば、政治の美学化が試みられたわけですが、今日では、スポーツを通じて政治の商業化が推し進められています。有名芸能人やオリンピックのメダル保持者などの多いランナーの前には15台から20台にもなる巨大な宣伝カーが走ります。最初の車はコカコーラの広告で埋め尽くされ、その屋根には司会者が乗って、マスクをつけずに大声で「世紀の事件」を囃し立てています。トップを走る車はコカコーラ、トヨタ、日本生命、NTTといった最優遇の格付けをされた会社の宣伝カーです。

とはいえ、このスタートの儀式も大騒ぎのわりにはどこか暗い影がさしています。例えば、沿道の両側に立ってスマホで写真を撮っている見物客は、誰でも知ってのとおり、声を上げてはなりません。往来で手を振る人々も、心なしかいまひとつ気がのっていないようです。本当のところ、日本の市民のほぼ3分の2が、この点では各種世論調査がほぼ一致しているのですが、この夏のオリンピック開催に反対しております。反対のほぼ半分はさらなる延期を望み、残りの半分は、開催権の返上を求めています。

目下コロナ・パンデミックの真っ最中です。この数日の新規感染者数の増加を見ていると、第四波が来ているのは火を見るよりも明らかですし、波はそのつど高くなっているようです。にもかかわらず政府も、そしてスポンサー資本も、そして忘れるわけにはいきませんがメディアも、いかなる常識にもさからって、なにがなんでも夏季オリンピックを断行したいようです。

たしかに東京都、日本政府、IOC、そしてIPCは、外国からの観客を受け入れないことにしました。旅行産業はがっかりしているようですが。とはいえ、選手は来ます。コーチやトレーナー、そして取材関係者も来るでしょう。その数は数万にはなるはずです。飛行機に乗る前の隔離、飛行場での検査、また母国での検査証明の提示などなどの予防措置を取ったとしても、感染の危険がゼロになるということはまず考えられません。その上、日本の市民でワクチンを接種したのは、目下のところたったの0.8パーセントに過ぎません。主として医師と看護関係者、それに近いうちにアメリカに行く予定の菅総理です。ヨーロッパもアメリカも納入契約にもかかわらず、ワクチンに関しては自分たちの手元にとどめ、輸出を渋っているためでもあります。それゆえ、来日した関係者のたとえ一部であっても、ウィルスを吸い込み、そのまま自国に持ち帰る可能性はきわめて高いと言わざるを得ません。結論としては、今夏のオリンピックとパラリンピックが日本国内およびグローバルに感染の爆発的増大につながることになりかねません。オリンピックおよびパラリンピックは、やってはなりません。問題なのは人の命そのものです。国家の威信や経済的利益などは二の次のはずです。われわれはスポーツ関係者の理性に訴えたいです。また選手団を派遣する国々の世論に、この記事の場合にはドイツ語圏諸国の世論に訴えたいです。どうか日本に来ないでください!

スポーツにおいて実績を積んでいる国々のどれかひとつが、パンデミック状況を考慮して、選手団を派遣しないという思いきった決定をするならば、それはかならずや諸国民の間に連鎖反応を生み、JOC、IOC、JPC、そして東京都も、譲らざるを得なくなるのみならず、オリンピックとパラリンピックを―それが選手の方々にはどんなにつらいことであろうとも―少なくともこの夏に関しては、やめるべきだという認識に至るはずです。


2021年4月2日 東京

署名者:阿部潔(メディア論)、アライ=ヒロユキ(美術批評)、安藤隆穂(社会思想史)、井谷聡子(ジェンダー研究)、大久保奈弥(海洋生物学)、初見基(ドイツ文学)、川本隆(社会思想史)、三島憲一(社会哲学)、三浦まり(政治学)、水島朝穂(憲法学)、牟田和恵(社会学)、中野晃一(政治学)、中野敏男(社会学)、西谷修(思想史)、大貫敦子(ドイツ文学)、小笠原博毅(カルチュラル・スタディーズ)、佐藤学(教育学)、玉田敦子(フランス文学)、多和田葉子(作家)、鵜飼哲(フランス文学) (アルファベット順)


【原文】
Aufruf an die deutschsprachige Öffentlichkeit

Am Freitag, dem 25. 3. hat in Fukushima, der durch die Atomkatastrophe weltbekannt gewordenen Region in Japan, der olympische Fackellauf begonnen, mit viel Tamtam und Jubelgeschrei. Fukushima wird als Symbol des aus der dreifachen Katastrophe wieder auferstandenen Japan missbraucht. Denn auch jetzt noch sieht man überall in den Dörfern und Städten von Fukushima Ruinen und Elend, hie und da auch ein gut restauriertes Bahnhofsviertel. Die Route des Fackellaufs ist so gestaltet, dass auf der Mattscheibe in den Wohnungen nur Schokoladenseite erscheint.

Bekanntlich wurde dieser Fackellauf 1936 zur Stimmungsmache für die Berliner Olympiade eingeführt. Die lästige Vergangenheit erfährt hier eine Transformation, die die Propaganda von einst nicht unbedingt ins Positive wendet. Während damals frei nach Walter Benjamin die Ästhetisierung der Politik erprobt wurde, wird heute über den Sport die Kommerzialisierung von Politik angestrebt. Dem jeweiligen Läufer, oft einem prominenten Schauspieler oder einer olympischen Medaillenträgerin fährt ein Konvoi von 15 bis 20 übergrößen Bussen voran. An dem ersten großen Wagen mit Laufsprecher sieht man überall Coca-Cola-Werbung. Und auf dem Dach des Wagens verkündet ein Showmaster ohne Schutzmaske in voller Lautstärke den Beginn eines Jahrhundertsereignisses. Diese Führungsposition ist für die nächsten Tagen auch den als exzellent eingestuften Sponsorfirmen Toyota, NTT und Nihon Seimei zugesichtert, (NTT ist das japanische Pendant zur Deutschen Telekom. Nihon Seimei ist eine gigantische Lebensversicherungsfirma). Nur diese vier Firmen genießen das Privileg dieser pole position.

Jedoch: In dieser Startzeremonie sind der Jubel und Posaunenton irgendwie getrübt. Jeder spürt das. Dem Publikum, den Leuten, die an beiden Seiten der Straße stehen und mit ihren Smartphons knipsen, ist das Jubeln verboten, aus den bekannten Gründen. Viele Passanten winken mit der Hand, aber doch sichtbar halbherzig. Eigentlich sind mehr als zwei Drittel der Bürger in Japan --darin sind sich diverse Umfragenergebnisse einig-- grundsätzlich gegen die olympische Veranstaltung in diesem Sommer. Darunter votiert etwa die Hälfte für eine nochmalige Aufschiebung, die andere Hälfte für die definitive Rückgabe des Veranstaltungsauftrags.

Wir sind mitten in der Pandemie. Einschlägige Fallzahlen aus den letzten Tagen zeigen mehr als deutlich: Uns steht unmittelbar die vierte Infektionswelle bevor und mit jeder neuen Welle wird die Woge höher. Trotzdem wollen die Regierung und das Sponsoren-Kapital (Coca-Cola und Co.), nicht zu vergessen die Medien, die Sommerolympiade gegen den gesunden Menschenverstand über die Bühne gehen lassen, komme, was es da wolle.

Zwar haben sich die Stadt Tokyo, die japanische Regierung, IOC und IPC geeinigt, das Land gegen die Zuschauer aus dem Ausland zu sperren-zur großen Enttäuschung der Reiseindustrie. Aber es kommen doch die Spieler, ihre Coaches und Trainer, auch Sportfunktionäre und Presseleute. Die Gesamtzahl dieser Mitglieder der Sportwelt dürfte mehrere zigtausend betragen. Undenkbar, dass sämtliche Maßnahmen wie Quarantäne vor dem Reiseantritt, Test am Flughafen, Vorweisen vom Zertifikat von einem zu Hause durchgeführten Test die Infektionsgefahr auf die Null reduzieren. Außerdem: In Japan sind gegenwärtig gerade einmal 0.8 Prozent der Bürger geimpft, hauptsächlich Mediziner, Pflegepersonals und der Ministerpräsident, der für den bevorstehenden Amerikabesuch gewappnet sein muss. Die Europäer und US-Amerikaner behalten trotz klarer Vertragslage ihre Impfstoffe weitgehend für sich selbst. Man muss also die Wahrscheinlichkeit hoch einschätzen, dass ein, wenn auch noch so kleiner, Teil der sportlichen Besucher im Gastland die Viren einatmen und nach Hause bringen. Fazit: die Olympiade und Paralympiade können zu einer weiteren Explosion der Infektion sowohl in Japan als auch weltweit beitragen. Die Olympiade und die Folgeveranstaltung für Körperbehinderte dürfen nicht stattfinden. Es geht ums nackte Leben, nicht ums nationale Prestige, und natürlich nicht um den ökonomischen Profit. Wir appellieren an die Vernunft der Sportbranche. Wir appellieren aber auch an die Öffentlichkeit der Besuchernation, konkret mit diesem Artikel, an die deutschsprachige Öffentlichkeit: Kommen Sie bitte nicht nach Japan!

Wenn sich eine der durch ihre bisherigen sportlichen Leistungen ausgewiesenen Nationen dazu aufraffen könnte, angesichts der Pandemie-Situation ihre olympische Mannschaft zu Hause zu lassen, würde diese Nicht-Entsendung eine Kettenreaktion unter den teilnehmenden Nationen auslösen, so dass die JOC, IOC, POC und die Stadt Tokyo nicht nur zum Nachgeben gezwungen würden, sondern einsähen, dass die olympischen und paralympischen Spiele --so schmerzhaft das für alle Sportler auch ist-- zumindest diesmal abgesagt werden müssen.


Tokyo, den 2. April 2021

Unterzeichnet von:
Kiyoshi Abe (Medinetheoretiker), Takaho Andô (Ideengeschichtler), Hiroyuki Arai(Kultursoziologe), Satoko Itani(Genderforscherin), Nami ôkubo (Meeresbiologin), Motoi Hatsumi (Germanist), Takashi Kawamoto (Sozialphilosoph), Kenichi Mishima(Sozialphilosoph), Mari Miura (Politologin), Asaho Mizushima (Verfassungsrechtler), Kazue Muta (Soziologin), Kôichi Nakano (Politologe), Toshio Nakano (Soziologe), Osamu Nishitani (Ideengeschichtler), Hiroki Ogasawara(Kulturwissenschaftler), Atsuko Onuki (Germanistin), Manabu Satô (Erziehungswissenschaftler), Atsuko Tamada (Romanistin), Yôko Tawada (Schriftstellerin, Trägerin des Kleist-Preises), Satoshi Ugai (Romanist)

その後、ドイツのメディアでこの声明が紹介された。『ドイツ・国際政治雑誌』の資料編に全文収録された。『ベルリン新聞』(Berliner Zeitung)でも紹介されている(PDFファイル)。
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