大学に託児所をつくる 2002年4月29日

ウジ(有事)の話が続いたので、今回はイクジの話をしよう。18歳人口が重要な意味をもつ「業界」が二つある。軍隊と大学である。先週は徴兵制の話をしたが、そこでも少子化の問題が密接に絡んでいた。一方、少子化は大学にとっても死活問題である。2002年入試の結果、定員割れ大学が続出している。この傾向はさらに進むだろう。厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の将来の推計人口」によると、女性一人あたりの生涯出生数は2000年が1.36人で、2007年には1.31人まで低下するという。毎年オギャーと生まれる赤ちゃんの数で言えば、2000年の119万人に対して、2014年は100万にまで落ち、2050年には66万人強にまで落ち込むという予測だ。憲法施行の年(1947年) が268万人(ベビーブーム)だったから、憲法施行60周年にその4割程度しか子どもがいないことになる。ベビーブーム世代の子どもたちが大学を去り、大学入学者はひたすら減少の一途をたどる。こうなると、大学が18歳人口だけをターゲットにするのでなく、「生涯学習機関」としての面を打ち出し、「いま、学びたい人々」を受け入れていく方向が有力になりつつある。
 こうしたこともあって、近年、大学の構成員はますます多様になっている。日本の大学は世界的にも、平均年齢が低いという意味で「幼稚」である。ドイツの学生たちの顔と比べると、日本の学生たちの幼さは歴然としている。米国の大学も、30歳以上の占める割合が高い。子育てをしている母親が大学に学びにくる。あるいは、結婚した女性が大学生活のなかで妊娠・出産をする。これは自然なことである。私が学生だった30年前は、「マタニティドレスを着た学生が授業に出ていたぞ」というように、学生の妊娠はスキャンダラスに語られていた。いまは違う。当然、保育所に関する発想にも転換が必要である。「保育に欠ける」乳児・幼児・児童(児童福祉法24条)のために保育所を置くというのは、専業主婦たる母親が自宅で子育てをすることが「原則」であって、それが種々の事情で「欠如」したとき、例外的に保育処置が必要になるのだという発想に基づく。「保育に欠ける」という例外的・消極的位置づけではなく、より積極的に、「子育て中の両親」を支援するという視点が大切だろう。「せっかく勉強が面白くなってきたのに、子どもができたので」というのでは、子育ては常にマイナス要因になってしまう。
 不況とリストラの嵐のなか、熊本のある民間企業が社内保育園をつくった。保育士や看護師も常駐し、病児保育も受け付けるという、かなりレベルの高いものだ。彼(彼女)の能力が子育て中に中断されないような形で、育児と仕事を両立させる。社内保育室に子どもを預けて、安心して働けるようになれば、仕事にもプラスになる。長い目で見れば、企業活性化の大きな力になりうる。そこを見抜いた経営者は偉い。大学も同じだと思う。
 早大教員組合の02年度執行委員会は、学内託児所設置を今年度方針に掲げ、昨年11月、「託児所問題プロジェクトチーム」を立ち上げた。他大学や文部科学省内託児室の実地調査、全学的なアンケート調査も実施した(2月〜3月)。アンケート調査の結果、91%以上が託児所の設置に賛成し、子育て中の方々の85%が「設置されれば利用を考える」と回答している。かつて職員のなかで「学内保育所」要求が出たことがあるが、「朝のラッシュアワーに赤ちゃんをおぶって大学まで来るのか」という声は巨大だった。保育所要求は地域でやるべしという考え方がベースにある。しかし、執行委員会の議論のなかで、一人の若手男性教員が、「私も賛成です。妻が職員ですので、もし学内に託児所ができれば、今より長く大学で仕事ができます」と発言。この教員の発言がプロジェクト立ち上げを決断させた。かつて「若手の女性の教職員」の要求だったものが、いまや三つの要因すべてが変化した。女性の問題でないことは、先の男性教員の参加で明らかだろう。私のイメージでは、娘夫婦から幼児を頼まれた年輩の教授が、学内託児所に預けて研究室で仕事をする(私の数年後の姿?)。こうしてみると、託児所は若手の問題ではなく、全世代的な要求となりうる。さらに、子持ちの留学生や院生が、文学部を中心にかなり存在する。オープンカレッジやイクステンション教育で、たくさんの主婦や高齢者がキャンパスで学んでいる。子どもの世話に関わりながら学ぶ人々は多い。
 私は春闘の要求書提出の団体交渉の席で総長に訴えた。「学内に託児所を置くことは、大学の品位の問題である」と。総長からは、「いい提案である。大賛成だ」という前向きの「一発回答」があった。4 月中旬の団体交渉で理事会は、「労使一体となったワーキンググループの立ち上げ」を回答。4 月下旬まで毎週のように行われた団体交渉で、具体化に向けて労使の合意が成立した。連休あけからワーキンググループが発足する。組合はメンバーの男女比を2対3 とした。理事会側も女性が多く参加することになろう。私もメンバーに入るが、20数年ぶりに再び保育所問題に関わるのも何かの縁だろう。なお、学内に、緊急に対処を必要とする学生が複数以上いることもわかった。4月中旬、地域の保育所に入れず、私設保育室は高額のため、やむを得ず大学に子どもを連れてはきたが、授業中に泣いて困ったという事例について、学生から相談を受けた学生課は、「教員組合の保育所プロジェクトの○○先生に相談するように」と学生に「指導」したのだ。直ちにプロジェクトチームが対応し、当該学部に応急対策をとらせた。だが、応急策では限界がある。私たちは理事会メンバーと一致協力して、今年度中の遅くない時期に託児所が実現するよう、連休あけから企画・立案・調整に入る。ますます忙しくなるが、20年数年前を思い出しつつ、楽しくやりたいと思う。これを読んだ学生や院生、留学生の皆さん、「こんな保育内容にしてほしい」とか「利用時間帯についての希望」など、具体的イメージや意見を是非お寄せください。