わが歴史グッズの話(11) ブッシュグッズ 2003年9月8日

連加盟国は191カ国ある(2002年9月の東チモール民主共和国が最新)。そのなかには、独裁国家や人権侵害常習国家がゴロゴロしている。そこから特定の国を選別して、マスコミを通じてその酷さをアピールする。その上で、その国の元首をWANTED(お尋ね者)として笑いものにしながら、それを叩くというのが米国お得意の手法である。「勧善懲悪」明快なハリウッド映画のノリで、「悪漢」はどこまでも悪く醜く、「いいもん」は常に清く美しく、必ず勝つ。それを国際政治の現実に応用した一例が、1989年12月のパナマ侵攻作戦だった。パナマの指導者ノリエガ将軍を麻薬密売容疑で逮捕するという名目で、2万余の海兵隊をパナマに侵攻させた。その時もメディアは、「WANTED・ノリエガ」情報を連日垂れ流し、公然たる侵略行為を、FBI と連携した「警察行動」であるかのように演出した。その手法は湾岸戦争でも大規模に繰り返された。コソボ紛争ではドイツを巻き込む必要上、「ノー・モア・アウシュヴィッツ」のトラウマを巧みに刺激した。ドイツに最も効果的と思われる言葉、「民族浄化」をキーワードとして流布させたのは、米国の広告代理店だった。「ミロシェヴィッチ(セルビア元大統領)=ヒトラー」というレッテル貼りも功奏した。今回のイラク侵略では、その手法はさらに派手になった。

  例えば、「WANTED・フセイン」。そして、フセイン大統領の2人の息子、閣僚、高級軍人たちもトランプの形で「お尋ね者」に擬された。便乗して、「ヒーロー・トランプ」まで出てきた。ブッシュや閣僚だけではなく、制服軍人の少将クラスまで載っている。人だけでなく、巡航ミサイルや新型爆弾なども「ヒーロー」として扱われている。だが、最近入手したトランプは違っていた。ブッシュ政権を痛烈に批判する過激な反戦トランプ。何種類かあるが、そのうちの一つをゲットした。「最もお尋ね者の体制――大量破壊の偽善者たち」である。
  ダイヤやハートの代わりに、血、爆弾、石油、目玉という4種類のマークがあり、それぞれエースからキングまである。「血のエース」は21世紀研究所などネオコンの研究所やキリスト教原理主義の団体が並ぶ。次いで、ブレア英国首相、ブッシュ米大統領、パール前国防諮問委員長、ウォルフォウィッツ国防副長官、等々。「爆弾のエース」は、ボーイング社やレイセオン社などの軍需産業。「爆弾のキング」はラムズフェルド国防長官、クイーンはマイヤーズ統合参謀本部議長、ジャックはフランクス中央軍司令官だ。「石油のエース」はエッソやモービルなどの石油資本。次いで、チェイニー副大統領、ライス安全保障担当補佐官…。目玉は「マインド・コントロール」を意味する。そのエースはCNNやFOXテレビ…。テネットCIA長官やフライシャー大統領報道官もここに入る。「血の3」がブッシュ大統領。写真は「ヒーロー・トランプ」と異なり、妙に寄り目で「気が抜けた」顔が使われている。彼は、5月1日に洋上の空母(CVN72)エイブラハム・リンカーンにS-3Bバイキング機で着艦。首から酸素マスクをつけた飛行服姿で、「戦闘終結宣言」を行った。愚かなパフォーマンスである。核のボタンを押す立場にある合衆国大統領が、危険な空母着艦を行うなど言語道断という声は米国内にもあった。その「とんでも大統領」の人形を入手した。赤い水玉模様のネクタイをしている(そう言えば、青の水玉模様が好きな日本の首相もいたっけ)。背中のボタンを押すと、本物の演説が17種類も聴ける。「テキサスから来ました」という有名な大統領就任演説や、「私はアメリカを敵国とは見なさない」という言い間違いまで入っているから笑える。彼の英語の特徴の一つは、単数・複数で動詞を区別しないこと。例えば、Is the children....?と平気でいう。childの複数形なら、動詞はareでなければならない。さすがブッシュ。憲法や国際法だけでなく、英文法までも変えてしまう「無法大統領」である。

  「ブッシュ・ネタ」では、不気味なTシャツもゲットした。「ジョージ・ブッシュ。生死にかかわらず、賞金1京ドルをゲット」。生死不明でもいいから捕まえろ、とはビンラディンに対してブッシュが使った言葉だ。このTシャツはタイ・バンコクの反戦団体が作ったもの。FBIがビンラディンにかけた賞金は500万ドルだから、賞金のスケールではこちらの方がはるかに上だ。そのオサマ・ビンラディンの人形も入手した。。迷彩戦闘服を着ており、手足も腰も動く。裸にすると肋骨が浮き出ていて、妙にリアルだ。

  ブッシュ紙幣にもいろいろなバリエーションがある。米国帰りの人のお土産などで、すべて入手できた。まず、2000年の米国大統領選挙の最中に巷に流れたブッシュ200ドル紙幣(ゴア6ドル紙幣とセット)。これは米国帰りの学生から譲り受けた。今年になって、2001ドル紙幣も一部に出回った。とぼけたブッシュの顔写真の下に、司令官ブッシュとある。裏は世界貿易センタービルと国防総省(ペンタゴン)が対になった絵。創造性が感じられない、安易な構図だ。この種のグッズはさらにエスカレートして、ついに2500万ドル紙幣を入手した。警官の帽子をかぶったブッシュ。顔は2001ドル紙幣と同じ。その下にザ・ハンターとある。裏はフセイン大統領とオサマ・ビンラディンの写真に、戦闘機のシルエット。これもあまりおもしろい構図ではない。批判する側も、もっと創造性を望みたいところだ。

  それにしても、日本にはなぜ、こういう政治グッズがないのだろうか。国会内の売店や、国会図書館近くの国会見学者用売店などで「政治家グッズ」や「国会グッズ」が売られてはいる。歴代総理の顔の入った湯飲みや写真たて、議事堂の形をした文鎮等々。でも、全然面白くない。小泉首相が誕生した頃、ライオンをあしらった各種グッズも出てきた。わが研究室に届いた小泉Tシャツも、今はビンラディンTシャツと仲良く並んでいる。いっそのこと、小泉2003円紙幣なんてのを出して、透かしで田中真紀子元外相の巨大な顔が浮かびあがる、なんてのもいいと思うけど(←冗談)。かつて、自民党総裁選での小泉勝利の流れとムードを作ったのが田中氏であったこは誰しも認めるところだろう。小泉首相が彼一人の人気で今度の総裁選と総選挙を乗り切れるかどうか。それに向けて、これからどんな「小泉グッズ」が出てくるだろうか。でも、政治家グッズの「賞味期限」が短いので、すぐに歴史資料になってしまう。そう言えば、昔もらった村山首相テレカなんてのがあったっけ。テレカだから電話をかけるのに使えるはずだ。でも、研究室の資料の山に紛れ込んでしまい、どこにあるか記憶にない。探す気もない。

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