わが歴史グッズの話(28) 裁判員と自衛官のキャラクター  2008年12月15日

 

のところ、わけのわからないキャラクターが目白押しである。一番驚いたのは、裁判員制度の「サイバンインコ」という法務省キャラクター。鳩山邦夫前法務大臣がその巨大きぐるみに入って笑顔をつくっている写真(『読売新聞』2008年5月24日付夕刊)は、死刑ベルトコンベアー発言の一方でのパフォーマンスなので、ちょっと寒くなった。検察庁の裁判員PRキャラは地方色を出したつもりらしいが、いかがなものだろうか。

甲府地検「信ちゃん」。武田信玄と裁判員制度の関係がわからない。函館地検は、イカが法被を着て「ハッピー」。千葉地検の「らっか正義君」は、千葉名物の落花生からくる駄洒落だろう。京都地検の「まこと君」に至っては、新選組の羽織。「誠」のかわりに「真」「実」とあり、隊旗に「裁判員」とある。佐幕派の暴力装置で、薩長の浪士を多く斬り殺した新選組が裁判員とは穏やかではない。裁判員制度のキャラPRに一番熱心なのは、法務省・検察庁ということになる。

  キャラクターグッズは、それによって何かが象徴されたり、イメージされたりするものである。裁判員という制度を導入するのに、こんなキャラで人々の理解が深まると考えているのだろうか。「サイバンインコ」をはじめ、検察庁グッズはいずれも意味がさっぱりわからない。これらのキャラを通じて、裁判員制度への理解や支持が高まるとは誰も考えていないのではないか。ただでさえ問題の多い制度だけに、これらのキャラがブレイクする可能性がないことだけは確実である。なお、12月13日、裁判員制度反対のグループが、「裁判員制度はいらないインコ」というキャラクターを押し出した。

  さて、キャラクターに異様に力を入れているのは自衛隊も同じである。雇用状況の悪化のなか、自衛隊も人集めに苦労している(昔は不況時に自衛隊だったのだが)。自衛隊青森地方協力本部によると、青森県内の採用予定者は、昨年に比べて半減したという(『朝日新聞』2008年12月10日付)。そこで、広報は子どもの時からとばかり、近県の秋田地方協力本部では、このほど県内の6つの地域事務所の広報用イメージキャラクター「広報戦隊アドレンジャー」を制作した。「甘口カレーが好き」「趣味はバスフィッシング」など個性的な6人の陸海空自衛官キャラクターが登場。なまはげをイメージする「男鹿はぐや」、秋田犬をあらわす「大館けんすけ」等々。しかし、これらのキャラを見て、自衛隊に入ろうという意欲が起きるかどうか。自衛隊の制服試着コーナーのそばにこの「アドレンジャー」を置いたところ、「多くの子どもたちが興味を示し、『(ミニ制服より)こっちが着たい』と話す子も出るなど人気だった」という(『朝雲』2008年12月4日付「募集・援護」欄)。10数年後の採用予定者をターゲットにした「作戦」のようである。

  自衛隊グッズといえば、「自衛隊限定キューピー人形」がある。ハローキティの「ご当地モデル」と同じで、キューピーがさまざまな職業の洋服を着ている。準公式的なマスコット人形もある。陸海空の男女自衛官のマスコット人形である。

研究室には、まだまだ奥の方に自衛隊関係のマスコット人形や子ども用グッズがあるが、このくらいにしておこう。それだけ、税金を使って「広報活動」を展開しているわけである。自衛隊の広報は単なるPRではなく、独立した一つの「作戦」である

   研究室には米軍のグッズもけっこうある。最近、これが一気に増えた。いずれいろいろな場面で紹介していきたい。今回は、この夏にゼミ合宿で沖縄に行ったとき、偶然に入手した海兵隊キャラクターを2つだけ出すことにしよう。自衛隊のように「愛らしい」ものではない。無骨で恐ろしい形相をしたブルドッグである。

かなり人相が悪い。海兵隊のモットーは"First to fight"。まっさきに手を出す。自衛のための対応ではなく、まず殴り込みをかける。海兵隊の本質を実に見事に象徴している。いまにも噛みつきそうなブルドッグ。それを下士官人形にしている。腕組みしているのも威嚇的である。顔はそれを象徴している。

もう一つのブルドッグは、首から、海兵隊の部隊のチャレンジコインをぶら下げている。これもすさまじく人相が悪い。擬人化やデフォルメを媒介にしてキャラクターはつくられるとすると、この凶暴なブルドッグは、「殴り込み部隊」たる海兵隊を最もよく象徴しているといえるだろう。前空幕長の「論文」問題や、「はなむけ」事件なども起きた。海外派遣の本務化により、「専守防衛」でない自衛隊に変貌していくのか。それに伴い、自衛隊のマスコット・キャラクターもしだいに強面になっていくのだろうか。

 

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