協議の中身は「例外なき事後承認」――『ライブ講義』を応用して嘘を見破れ            2015年4月27日

ライブ講義

日28日、『ライブ講義 徹底分析 集団的自衛権』(岩波書店)が全国発売される。コンセプトは、「護憲」「改憲」を越えて、現状をまず「専守防衛ライン」に引き戻そうというものである。安倍内閣の「7.1閣議決定」という狼藉に対して、あえて内在的に従来の政府答弁などを逐一示し、法の論理と軍事の知識を車の両輪のようにして徹底的に分析・批判したものである。全6回の講義形式をとり、読みやすく、理解しやすいように図表なども多く使用しながら、集団的自衛権行使をめぐる問題について詳しく論じた。「7.1閣議決定」、「安保法制懇」2008年・2014年(平成の「5.15事件」)報告書、与党協議会が政府に提示した「政府の15事例」の主な論点をほとんどとりあげており、安保関連法制の審議に応用可能で、政治家や記者の皆さんにも是非お読みいただきたいと思う。なお、長年にわたり収集してきた怪しげな「歴史グッズ」の写真も満載である。その一例(12頁)はこちら

さて、4月21日の各紙夕刊は例外なしに、「『例外ない事前承認』合意」という見出しを一面にもってきた。写真の左下が『朝日新聞』のその21日付夕刊で、写真では切れて見えないが、「自民、公明に譲歩」という小見出しを打った。公明党は本当に「譲歩」引き出したのか。翌22日付の各紙朝刊はものの見事に分かれた。右の写真の黄色いマーカーを引いてあるところに注意してご覧いただきたい。

4/22の新聞各紙

まず、中下の『読売新聞』は「自衛隊派遣 例外なく事前承認」。この見出しだけを見ると、すべての自衛隊派遣に国会の事前承認が求められているかのように見える。それに対して、左上の『毎日新聞』は「国会承認 法案で差」「恒久法『例外なく事前』 事態[対処法]では『事後』容認」と法案ごとの「差」をそのまま見出しにしている。一方、右下の『朝日新聞』は「後方支援、恒久法では『例外なく事前承認』」という一面見出し。「では」がくせもの。つまり自衛隊の出動に対して国会の事前承認が必要なのは、「後方支援」と「恒久法」ということになる。最後に『東京新聞』である。「『例外なき事前承認』は一部 国際貢献の他国軍支援のみ」。そして、「他国守る集団的自衛権の行使 日本に重要な影響米軍等支援 事後承認も」という見出しを打つ。

この協議内容を最も明確に示したのは『東京新聞』の見出しだろう。どう読んでも、自衛隊のすべての出動形態について、国会の「事前」承認をかませるはずもない。協議で公明党に「一本」とらせるために、まずは「例外なき事前承認」を目立つように押し出したのであろう。そもそも、安倍首相の好きな(山口昇元陸将あたりの刷り込みによる)「切れ目のない」(seamless)安全保障法制というのは、むしろ、事前承認のような「鈍重な」手続きを外していくところに本来の狙いがある。よく見れば、「例外なき事前承認」は「国際平和支援法」における「他国軍」(つまり米軍以外の軍隊)に対する支援(これは最も可能性が低い)だけであって、逆に言えば、米軍に対する各種の協力については事後承認でもOKということが決まったわけである。このように、協議で実際には何が決まったのかは、作られた言葉から実態を引き算し、裏返して確かめなければならない。内容は端的に言って、「例外なき事後承認」の決定である。ことほど左様に、公明党の「最後の抵抗」は、昨年と同様、与党の当初の内容に限りなく近づいている。

先週の「直言」でも批判したように、公明党は与党協議のなかで、集団的自衛権行使の「条件」として、関連法案に「他に適当な手段がない」という一文を設けるように主張したが、それ以前に、「他国」を入れた瞬間、もはや「歯止め」は存在しなくなっていたのである。「『新三要件』を認めておいて、いまさら『他に適当な手段がない』の文言を入れるなど、まるで巨大ダムを決壊させると決めておいて、川下に小さな堤防を造るようなもので、ダム決壊という狼藉を正当化するものでしかないだろう」という先週の「直言」での批判が、この「例外なき事前承認」にも妥当する。

憲法記念講演会

それにしても公明党が自民党に求めた「例外なき事前承認」というのはいい得て妙である。この言葉には既視(聴)感がある。「聖域なき関税撤廃」である。2012年の自民党政権公約(マニフェスト/PDFファイル)のなかに、「政府が、『聖域なき関税撤廃』を前提とする限り、交渉参加に反対します」という一文が入っていた。2012年総選挙で自民党の候補者はこれを公約とし、TPP交渉に反対して当選した。だが、選挙からわずか3カ月後の3月15日に方針変更。「アベノミクス」に絡めた「攻めの農業政策」ということで、「聖域なき関税撤廃」を前提とするTPP交渉への参加を決定してしまった。公約違反として地方や農業関係者は怒ったが、後の祭りだった。保守系を含む地方の反対をけちらして進められていく点でも共通である。

今回の「例外なき事前承認」の賞味期限はTPPの際の3カ月よりもずっと短く、すでに先週、4月24日の安保関連法の条文案提示の際、公明党が何の異論もなく同意したことで終わっている。この関連法条文案は、「国際平和支援法」という新法が1本、あとは自衛隊法、PKO等協力法、周辺事態法改め「重要影響事態法」、武力攻撃事態対処法など改正法が10本である。

最も問題なのは、集団的自衛権行使の「新3要件」を具体化した武力攻撃事態法改正案だろう。『朝日新聞』4月24日付によれば、その2条4項(存立危機事態)はこうなっている。「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう」。「他国」防衛を「幸福追求」とリンクさせたことで、国土への武力攻撃という判別可能な「外形的事実」を捨て去り、まさに「幸福のための武力行使」をも可能とするもので、日本という国がこれまで維持してきた平和国家性を大きく損なうことは避けられない。

連休あけ以降、こうした条文を含む安保関連法案の国会審議が始まる。この国のトップの座にある「幽霊ドライバー」は、憲法との整合性などまったく意にかえさない。やっかいである。新著『ライブ講義 徹底分析!集団的自衛権』は、「幽霊ドライバー」(「Geisterfahrer」)をなくすためにも有益である。そして、「幽霊ドライバー」から日本を取り戻す!そのための手段としていただければ幸いである。

なお、5月3日(憲法記念日)は、私が代表をつとめる全国憲法研究会の「憲法記念講演会」が開催される。講師は作家の保阪正康さんと、AKB48の内山奈月さんと『憲法主義』を出した南野森(九大教授)である。是非、立教大学までおこしください。私は冒頭の挨拶をいたします。

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