

東でAfD、首都で左派党(Die Linke)――9月の3つの州議選
ドイツの3つの州議会選挙は、日本を含めて世界各国で注目された。結果は三者三様であった。まず、9月6日のザクセン=アンハルト州議会選挙について。私は、9月2日にSNSの「平和憲法のメッセージ」で予告したほか、直言「ロシアでも進む「歴史改ざん主義」」の末尾でその重要性を指摘していた。結果は予想通り、極右の「ドイツのための選択肢」(AfD)が第2投票(政党票)で43.8%(23.0ポイント増)を獲得して第1党となった。第1投票(選挙区票)でも44.3%に達した。政権与党のキリスト教民主同盟(CDU)は第2投票で17.2%と、前回の37.1%から半減以下の惨敗となった(冒頭の図はSüddeutsche Zeitung Digital9月7日より)。
ザクセン=アンハルト州の人口は210万人。全ドイツの8347万人の2.5%程度で、日本でいえば茨城県の人口割合に近い。とはいえ、16州のうちの1つで極右政権が誕生する意味は重大である。それについては後述する。
なお、投票率は前回(2021年)の60.3%から78.0%へと急上昇していることも注目される。この州で選挙権をもつのは18歳からである。

メクレンブルク=フォアポンメルン州ではAfDが38.2%(21.5ポイント増)を獲得して第1党となった。だが、他方で社会民主党(SPD)が35.5%(4.1ポイント減)で踏みとどまった。特筆すべきは、連邦政府の政権与党であるCDUが4.9%(8.4ポイント減)という壊滅的な結果となったことである。人口157万人(1.89%)の州で議席を失ったことは、日本との対比でいえば、宮城県議会で自民党がゼロ議席になったようなものである。
ドイツには選挙法に5%条項というのがあって、第2投票(日本でいう比例)で5%以上得票しないと議席配分を受けられない仕組みになっている(「5%阻止条項の問題性」参照)。少数政党が乱立して政権が安定しないことがヒトラーの一党独裁を許したという「ヴァイマルの教訓」ということで、「大政党」のCDUが、1953年に導入をはかったものだ。ところが、その73年後に自らそれに引っかかって議会から消えるとは。何たる歴史の皮肉だろうか。ドイツ中に衝撃が走ったのは言うまでもない。
他方、全国的に落ち目のSPDがここで健闘した原因は、2017年から州首相を務めるマヌエラ・シュヴェーズィヒの魅力によるところが大きい。2018年8月に州都シュヴェリーンを訪れた際、白い首相官邸の建物の前で、背の高い女性が数名の護衛に囲まれて階段を降りてくるのに出会った。ほんの数メートルの距離だったが、絵になるような姿だったので印象に残っている。当時44歳。9年間、州首相の地位にあり、今回、激しくAfDと競り合った。この州では彼女を中心に、「赤(SPD)、赤紫(Die Linke)、緑(緑の党)」の連立政権ができるかどうかが、これから焦点となる。
なお、メクレンブルク=フォアポンメルン州の選挙の投票率は78.1%ときわめて高かった(前回2021年は70.8%)。また、この州はザクセン=アンハルト州と異なり、16歳選挙権である。

ザクセン=アンハルト州での極右政権獲得の意味
戦後ドイツの州政治では経験したことのない局面である。選挙翌日には、この政権誕生による「国家安全保障上の脅威」が語られている(SZ 9月7日)。まず、AfDの内務大臣になれば、州憲法擁護局を監督する立場になるから、現在の局長は即座に解任されるとみられている。この州の憲法擁護局は他州に先がけ、2023年末段階で、AfDを「自由な民主主義的基本秩序(FDGO) の根本原則、とりわけ人間の尊厳の保障および民主主義の原則に反している」と認定しているからである。また、16州の内務大臣の会議は全会一致の原則を採用するので、1州が反対・棄権すれば、国内治安政策を決定することができなくなると、内務省幹部はあわてているという。そして何より、AfDの内務大臣が国家機密にアクセスすることができる。このことが、AfDのトランプとの親密さと相まって、危険視されている。
対外的には、AfDはロシアと緊密な関係をもつとされている。ザクセン=アンハルト州AfD党首ウルリヒ・ジークムント(35歳、ドイツ統一後生まれ)は、プーチンによる「ウクライナ戦争」を「解放」と呼んで評価しているからだ。AfDは、また、トランプ政権が積極的に支援する政党でもある。そのトランプは選挙当日、SNSに「うわぁ、ドイツのポピュリスト政党は本当に素晴らしい夜を過ごした」と打ち込み、「MAGA」にひっかけて、「MGGA」(ドイツを再び偉大に)とまで書いた(SNSの写真参照)。
AfD政権ができれば、政府の機密性の高いデータ、例えば連邦軍の詳細な配置やドローン対策などをトランプやプーチンに流すことも危惧されている。また、AfDを「極右」と指定するための調査結果や情報源の名前まで、AfDの手に渡るおそれがある、と。
「典型的なAfD支持者を見ると、35歳から69歳の労働年齢層の男性、労働者や自営業者、そしてインフレの重圧の下で経済状況を「悪い」と冷静に評価している人々が挙げられる。彼らは抽象的な過激派ではなく、ドイツの熟練労働力の基盤である。ブリュッセル(EU)は地政学的利益や気候変動のドグマのために、彼らの産業資本や家族財産を冷酷に犠牲にしてきたのである。注目すべきは、AfDの得票急増の大部分が、以前は選挙を棄権してきた市民によるものであり、彼らが実体経済における自身の雇用の存続をかけて、今回初めて投票所に足を運んだという点である」と。
同評論はさらに、次のような強い言葉で旧東の36年間を描く。「この危機のより広範な原因を考察するにあたっては、36年間にわたりベルリンが磨き上げてきた『統一ドイツ』という神話を解体する必要がある。旧東ドイツは、連邦内において真の意味での対等なパートナーとなることは決してなかった。むしろ、西側の州による一種の国内的な「保護領」へと追いやられ、原材料や熟練した人材を体系的に搾取され続けた従属地域となっていたのである。…実際、ザクセン=アンハルト州の平均年収は全連邦州の最下位である。…まさに連邦政府の中心部からの植民地主義的な見下しこそが、ザクセン=アンハルト州を灼熱の政治的フィルターへと変貌させたのである」と。
AfDは「文化」を変える?!!
「ドイツは病んでいる。その特効薬とは?文化だ!」。AfDの文化担当の理論家ハンス=トーマス・ティルシュナイダーは、現代ドイツの知の巨人としてのユルゲン・ハーバーマスを「ドイツ国家の最大の敵の一人」と見なす。そして、 ヴァイマル共和国時代に東部に広がった「バウハウス」のモダニズム建築を否定して、戦没者記念碑の維持管理を強化することで、州民に誇りを植え付けようとしている。この州のAfDは、政権公約全17章のうちの3章を「文化」にあて、移民排斥(「再移民政策」)とドイツ文化との統合を強調する。ドイツは憲法上、「文化」は州の管轄事項であるため、連邦の管轄である移民問題や国境警備よりも迅速に、自らの実績を示すことができるというわけである。
AfDは「ドイツ的思考を!」というスローガンを掲げており、トランプの「アメリカ・ファースト」と同じように使われていくだろう。すでに指摘したように、特に危惧されるのは大学である。ドイツの大学は州立大学が主で、ザクセン=アンハルト州立マグデブルク大学とハレ大学は危機感をもっている。冒頭の地図をご覧いただきたい。すべての選挙区でAfDが当選しているが、州都マグデブルクとハレだけは赤くなっていて、SPDの候補が当選している。いま、リベラルな大学街は恐怖にかられているだろう。
AfDは、ジェンダー主義、ポスト・コロニアル主義、その他のポスト構造主義的な科目を廃止して、「ドイツ的」な学問に一元化していくことを狙っている。学校法に「祖国愛を盛り込め」といっているので、愛国主義教育が大学でも始まるだろう。教員人事や大学予算にもAfDは介入してくる可能性が高い。
「ヴァイデルの国」への道を阻止できるか?
ドイツにおける政権連立合意では、「あらゆる政治レベルにおける反憲法的、反民主主義的な右翼過激派政党とのいかなる協力も排除する」という「防火壁」(ファイアウォール)が確認されてきた(直言「ドイツ新政権の「防火壁」」)。だが、今回の選挙でAfDは39議席を獲得し、単独過半数まであと3議席に迫った。CDUから3人程度が離党してAfDに加われば、「防火壁」は崩れていくだろう。左派党から飛び出した左派ポピュリストのザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)の5人がどう動くかで、AfD州政権の成立が決まりそうである。戦後ドイツで初めて極右と位置づけられる政党が州政権を主導する可能性が、現実の政治日程に上った。
冒頭の写真は、『南ドイツ新聞』に掲載された「もう一つの現実」「AfDとその権力への道」を「ヴァイデルの国」(Weidelland)とする特集記事である。AfDの共同党首であるアリス・ヴァイデル(47歳)の政治的歩みと権力への道筋を追ったものである。
ベルリンでどのような政権ができるか――若い世代の半数が左派党支持
3月から4月にかけてベルリンに短期間滞在したが、ベルリンはとにかく多民族、多文化、多様性に満ちた大都市であることを実感した。政治的色模様もきわめて多彩である。今回、ベルリンで左派党が躍進したのには、ザクセン=アンハルト州とはまた違った背景がある。
ベルリンの最大の問題は住宅問題である。とにかく家賃が高い。若者たちは住宅問題に苦しんでいる。左派党は家賃高騰に対し、基本法15条を根拠とする「社会化」立法により、3000戸超を保有する巨大不動産会社の約22万戸を補償のうえ公共的管理に移すことを掲げた。2021年の住民投票で59.1%が賛成したにもかかわらず実施されていない政策を、今回の選挙で「家賃問題」への具体策として再び前面に押し出したのである。これが家賃に苦しむ若年層に圧倒的な支持を得たわけである。 ちなみに、左派党共同党首のハイディ・ライヒネック(38歳)は、ローザ・ルクセンブルクのタトゥーを彫り込み、議会やメディアでの圧倒的な弁舌で若者に人気がある(右の写真)。

ベルリン左派党に「反ユダヤ主義」非難――ユダヤ人が声明
しかし、連立協議が始まろうという段になって「事件」が起きた。左派党の議員がハマスの関係者と接触があるという非難が巻き起こり、同党への「反ユダヤ主義」の攻撃が激しくなったのである。
また、ベルリン左派党には「パレスチナ連帯州作業部会」があって、その中心人物が武力を含むパレスチナ側の「抵抗権」を主張した。これを問題視した党員がその人物の除名を申し立てたという事件である。目下、同党の州仲裁委員会で審理されている。ドイツの政党法は党員の除名手続について執行部の恣意的除名を許さないため、党内に三審制の仲裁委員会を設置することを義務づけている(直言「ドイツ政党法と党員除名手続」参照)。
「反ユダヤ主義」問題は、もともとベルリン左派党内での対立の火種になっていた。だからこそ、ベルリンの連立政権の組み合わせにおいて、この問題が重要な焦点に浮上したわけである。この問題の複雑さについて詳しくは立ち入らないが、ドイツはいま、イスラエル擁護の姿勢により世界から孤立しており、連邦政府も早晩、軌道修正を迫られるだろう。詳しくは、直言「イスラエル批判は「反ユダヤ主義」なのか―ドイツ政府の異様なイスラエル擁護の背景」をお読みいただきたい。
ドイツの主要なユダヤ人代表機関であるドイツ・ユダヤ人中央評議会は、ベルリンにおける左派党主導の連立政権樹立に対して明確な反対姿勢を示している。だが、ここへきて、ベルリン在住のユダヤ人が左派党を擁護する声明を出した(rbb 9月24日)。
9月23日、著名な作家デボラ・フェルドマンやエヴァ・メナッセらを含む150人のユダヤ人が連名で発表した公開書簡には大要、次のように記されている。
…とりわけ左派が絶えず反ユダヤ主義の非難を浴びせられているという事実は、単に冷笑的な政治的利用にとどまらず、イスラエルの政策に対するあらゆる批判を反ユダヤ主義と同一視することにもつながる。…こうした非難の嵐は、異なる意見を封殺し、国際法そのものを骨抜きにすることを目的としている。至る所で高まりつつある反ユダヤ主義を背景に、ある民主的な左派政党を標的にすることは、単なる中立的な観察ではなく、注目をそらし、方向転換させるための政治的手段である。…家賃の高騰、不安定な雇用、学校や医療制度の過負荷、そして拡大する社会的分断は、まさにユダヤ人への憎悪を助長するような社会的緊張を生み出している。…赤・赤・緑の連立政権であれば、社会的緊張の根本的な原因に取り組む力を持つだろう。…




