戦争の世紀への逆走? 2003年1月6日

年もよろしくお願いします。年末年始もない生活のため、年賀状欠礼をお詫びします。
  さて、新春第1号の直言は、いろいろと夢を語ってきた。ドイツで過ごした2000年の正月「21世紀の『ホラ話』」。昨年は学内問題について抱負を語った。今年は暗いスタートである。イラクに対する戦争が切迫しているからだ。ブッシュ政権は1月末を目指して、勝手にカウントダウンに入っている。「大量破壊兵器」の査察の結果がどのようなものであれ、米国は「最初に戦争ありき」だった。3カ月前に「『ブッシュの戦争』パート2に反対する」を出したが、マスコミの論調は、米国の単独行動には批判的なものの、イラク攻撃それ自体は仕方がないという気分が蔓延している。長期にわたる経済制裁の結果、イラク市民、特に子どもたちの状況は悲惨である。新たな戦争が起きれば、これら最も弱い立場の人々がたくさん死ぬことになる。ブッシュ政権の突出に対して、欧州諸国は英国を除き距離をとっている。ただ、ドイツのシュレーダー政権の対米独自路線も大分トーンダウンしてきた。そうした欧州と米国との関係を、フランスの『ルモンド・ディプロマート』(2002年10月号)のラモネ編集長は「主従関係」と皮肉って、こう書いている(北浦春香訳)。
  「帝国は盟友を持たず、封臣を従えるのみである。EU加盟国のほとんどは、この歴史的事実を忘れてしまっているようだ。我々の目に映るのは、EU諸国を対イラク戦争に巻き込もうとするワシントンの圧力の下で、本来の主権国家か衛星国家に成り下がった姿である」。そしてラモネは、米国の単独行動主義を、「ヒトラーが1941年にソ連に対し、また同年日本が真珠湾の米国に対して仕掛けた『予防戦争』の再来である」と断ずる。それは、1648年のウェストファリア講和条約によって採用された国際法の大原則の一つである「国家は他の主権国家の内政に干渉しない。とりわけ軍事的に干渉しない」という原則の廃棄であり、その意味するところは、第2次大戦が終わった1945年に確立され、国連を監督役としてきた国際秩序が終焉を迎えたことだ、と。ラモネによれば、米国の対イラク戦争の主要目的のひとつは石油である。米国の長年の仇敵である石油輸出機構(OPEC)に対抗すると同時に、イラクを直接に支配すれば、イスラム過激派の聖域であるサウジアラビアから距離をとることができる。サウジを解体して、主要な油田地帯のあるハサ地方にシーア派主体の親米の首長国をつくることが狙いだ、と。
  鋭い指摘である。昨年12月4日、PEWリサーチセンターが世界44カ国38000人に対して行った調査(What the World Thinks in 2002) の結果、欧州を含め世界に反米主義が広まっていることがわかった。米国がイラク攻撃をする理由を問うた質問に、「米国はイラクの石油をコントロールしたいのだ」と答えた人は、ロシア76%、フランス75%、ドイツ54%は当然としても、英国で44%、米国で22%という数字は何だろう。「ブュシュの戦争」は石油のための、真っ黒な戦争だということは見抜かれている。この戦争には何の正当性も合法性もない。サダム・フセインの行いは非難されて当然だが、イスラエルだって35年間、国連に対して挑戦的な態度をとり、大量破壊兵器を保有しているし、パキスタンも国際条約に反して核兵器を持ち、カシミール地方で暴力行為を行う武装勢力を支援しているではないか。いずれも米国の同盟国である。イラクだけにあまりに厳格な基準を適用することが「正義」なのか。加えて、米軍はまたぞろ劣化ウラン弾を使うだろう。その使用が特に子どもたちにどれだけ悲惨な傷痕を残すか。それを知りながら再び使用するのだから、まさに犯罪的とさえ言える。
  すでに米国はドイツ政府に対して非公式に、ドイツ国内の米軍施設警備のため、1月末に連邦軍2000人の派遣を要請したという(Die Welt vom 21.12.2002) 。現在、ドイツには71000人の米軍が駐屯している。特にラムシュタイン空軍基地はイラク攻撃の際には拠点となる。国連安保理決議1441号は、イラクに対して、国連査察に対する実質的な違反は「重大な結果」を招くと警告しているが、これは自動的に武力行使を授権するものではない。1月27日に安全保障理事会が査察チームの報告書について審議する予定であり、1月28日にブッシュは重要演説を計画中という。危ない1月末が迫っている。
  ここへきて、フセインを育てたのは国連常任理事国を中心とする諸国とその企業だということが資料で裏づけられた。ドイツの新聞die tageszeitung紙12月19日付は、「武器提供者の秘密リスト--サダムフセインのビジネス・パートナー」という見出しで、「すべての国連常任理事国はイラクに兵器技術を売却していた」事実を明らかにした。5つの常任理事国のうちの「少なくとも2カ国の企業」が国連決議に違反して、イラクとの直接的な軍事協力関係をもっていた。ロシアの3つの企業、中国の1つの企業が1991年の湾岸戦争後もなお、さらに1998年12月中旬の国連査察チーム(Unscom)の撤退以降も、イラクに軍事物資を提供していた。同紙は、70年代中期以降にイラクの軍拡に関与してきている5常任理事国すべての企業名を明らかにした。それを見ると、米国24社、中国3社、フランス8社、イギリス17社、ロシア(旧ソ連)6社、オランダ3社、ベルギー7社、スペイン3社、スウェーデン2社、日本5社である。なお、taz紙によれば、日本企業はすべて核兵器プログラム関連の企業にランクされている。具体的企業名は以下の通り。ファナック(FANUC)(本社・山中湖畔)。CNCという工作機械を自動制御する頭脳部などのFA商品とロボット商品の専門メーカーである。それから浜松ホトニックス(本社工場・静岡県浜松市)。電子管製品のメーカー。NEC・日本電気(本社・港区芝)。言わずと知れたコンピュータ、通信機器、電子デバイスを作る一流メーカーだ。そして、和井田製作所という高精度の研磨盤をつくる工作機械メーカー(本社・岐阜県高山市)。リストにはもう一つ、Osakaという企業も載っているが、特定できなかった。『朝日新聞』12月20日付は、具体的な企業名を挙げずに、「東証1部上場の電気メーカー」が「85年、汎用コンピューターを輸出した。合法的な取引で、IAEAが93年に発表したリストにすでに掲載されている」とのコメントを出したと書いている。私が企業名を公開したのは、これらの企業をことさらに非難するのが目的ではない。これらの企業も、ここまでイラクが追及されるとは想像だにしていなかっただろう。イラクに対する厳しい査察をイスラエルやパキスタンにも行えば、同じような企業リストはもっとたくさん出てくるに違いない。つまり、イラク叩きのダブルスタンダード性(二重基準)を浮き彫りにしたかったからにほかならない。
  その時々の国際政治的対応と金儲けのために、イラクという怪物を作ってきたのは米国をはじめとする国連常任理事国と西側各国である。イラク攻撃はアフガン戦争同様、その証拠隠滅作戦なのだろうか。イラク攻撃を許してはならない。