わが歴史グッズの話(10) 手榴弾  2003年3月10日
いろいろな手榴弾の「歴史グッズ」のなかには、いろいろな手榴弾がある。物騒な代物だが、もちろん火薬は抜いてある。ほとんどが米軍のもので、その形状から、パイナップル(Mk2)、レモン(M26) 、アップル(M67) といわれた。いずれも破片手榴弾で対人用だ。第2次世界大戦から朝鮮戦争くらいまでがパイナップル。ベトナム戦争になるとレモンとアップル。後者は60代後半から採用されたという。一番右は発煙手榴弾M18。写真中央にあるのが旧日本軍の97式手榴弾である。まず安全ピンを抜く。この状態では、まだ撃針と雷管が浮いた状態なので、鉄兜や周囲の固いものに打ちつけて点火させてから投げる。米軍のものは、安全レパーを握って、安全ピンを抜いて投げる。97式の場合、固いものに叩きつけて点火する動作が、戦場でワンアクションの遅れを生み、日本兵に不利に働いたという。手榴弾というのは、敵の顔が見える距離で投げ合うから、一瞬の動作が生死を分ける。自衛隊はどうか。自衛隊用手榴弾の現物は持っていないが、訓練用のゴム製手榴弾は手元にある。米軍のパイナップル型Mk2とよく似ている。自衛隊内ではパイナップルといわれているそうだ。入隊して前期教育を受けると、手榴弾投擲訓練がある。自衛隊の手榴弾には安全装置が3つある。安全レバーと安全ピンが2つ。すべての安全ピンを抜いてから爆発するまで約11秒かかる。訓練の際、教官は叫ぶ。「これより投擲訓練に入る。教習者は、安全レバーを握ったまま、第2安全ピンまで開放!」。約4秒数えて投げる。空中で約4秒。地面落下後に約2秒で爆発というわけだ。それにしても、安全ピン2つというのは、戦闘の必要性よりも安全第一というわけで、自衛隊らしい。旧ドイツ軍の柄付き手榴弾(Stielhandgranate24)は残念ながら持っていない。ボン滞在中、ライン河畔で毎月開かれていたフリーマーケットで一度見かけたことがあるが、うっかり買いそびれてしまい、二度と出てこなかった。それで思い出したが、子どもの頃、アメリカ製テレビ映画の「コンバット」や「ギャラントメン」(←レトロじゃ)を見ていていつも不思議に思ったことがある。ドイツ兵が柄付き手榴弾を米兵の方に投げると、すぐには爆発しない。それを拾って米兵が投げ返すと、ドイツ兵が吹き飛ぶ。逆に、米兵が投げた手榴弾は、ドイツ兵が投げかえそうとするとすぐ爆発する。ブッシュの物言いを引くまでもなく、とにかくアメリカに都合よくできているのである。実際の戦場ではその逆もたくさんあったはずだが、テレビや映画で刷り込まれているので、この柄付き手榴弾は爆発が遅いというイメージが何となくある。ただ、前述の旧日本軍97式手榴弾の点火動作はやはり問題だろう。最近のアメリカ映画のなかで、日本兵が手榴弾を投げようとして、点火動作の間に米兵に射殺されるシーンがあったが、これはリアルだった。もっとも、こういう劣悪な手榴弾でも、「自決」用として、沖縄などで民間人の命を多く奪った。
最近、2種類の珍しい手榴弾を入手した。一つは陶器製手榴弾。もう一つは対テロ用ゴム製手榴弾である。前者は太平洋戦争末期、軍が陶芸関係者に作られせたもので、瀬戸物や九谷焼である。信楽焼の陶器手榴弾もあった。ただし、本土決戦にならなかったので、実戦で使われることはなかった。もう一つは、対テロ特殊部隊のゴム製手榴弾である。SWATや特殊部隊、ネービー・シールズ、グリンベレーなどが装備しているようである。私が入手したのは、沖縄米軍が訓練で実際に爆発させ、それを再生したものだそうだ。ゴム弾は飛び散ってしまい、入っていない。暴徒鎮圧用といもいわれ、用途はテロリストだけではない。この種の兵器を非致死性兵器(nonlethal weapons) というが、使用の方法や態様によっては死亡する場合もある。より致命的でない兵器(less than lethal weapons)というのが正確かもしれない。そこで思い出したが、93年1月13日にパリで署名され、97年4月29日に発効した「化学兵器禁止条約」では、化学兵器の開発・生産・取得・貯蔵・保有・移譲・使用が禁止されたが、暴徒鎮圧剤は「戦争の方法として使用しない」とされたにとどまり、各国の警察や治安軍が自国内でデモ隊などに使う催涙ガス弾などは除外されていた(1条5項)。この点について、私がコーディネーターをやった「毒ガスの完全廃絶を求める国際シンポジウム」(3月8日、東京)で指摘した。60年代、機動隊が使用した催涙ガス弾が、階段の踊り場などに溜まっていて、そこのガス濃度が異様に高くなって、重体になった学生もいた。2002年10月、モスクワの劇場に立てこもったチェチェンゲリラに使用したガス弾が、実際は非致死性のものだったが、劇場の形状や状況から人質に多くの死者を出したことは記憶に新しい。ゴム製手榴弾も、決して非致死性というわけではないのである。
 なお、ここで紹介した手榴弾は、かつては講演に持参して聴衆に回覧し、手にとって戦争を「体感」してもらっていた。でも、ある講演会での「そりゃないぜ体験」から、回覧はやめている。地雷や地雷探知機についてはすでに書いたので、バックナンバーを参照されたい。