雑談(74)拘束道路と台風休講 2009年10月19日

山政権発足から1カ月が経過した。2010年度予算の各省庁の概算要求も出揃った。政権公約(マニフェスト)通りを目指したために予算が膨らみ、95兆円を突破した。なかでも、子ども手当2兆2554億円と高速道路無料化6000億円は大いに問題だろう。政権運営の問題性など、今後具体的に指摘していくことにして、今回は「雑談」シリーズの第74回をUPする。前回が5月の「音楽よもや話」だった。5カ月ぶりの「雑談」は、私の「拘束道路体験」である。

忘れられない光景である。深夜の高速道路で、エンジンを切り、ライトを消した車がびっしり停車している。静かである。眠くなってきた。どれくらい時間がたったろう。ふと目をあけると、暗闇のなかに、たくさんの車の列。「ここはどこだ?」。私はそこが高速道路上であることを忘れていた。なぜ写真を撮らなかったか悔やまれる。暗闇のなかの車列と静寂。

2009年9月13日(日)。夜9時に中央高速・小淵沢インターを入った。麻生内閣が始めた週末・休日1000円乗り放題のおかげで、私のように週末に高速を使う人間にとっては、かなり影響が大きい。すでに勝沼インターの先から渋滞が始まっていた。案内板では29キロとあったが、その後20キロにまで短縮していた。2時間もあれば八王子まで行ける。あまりイライラもしないで、渋滞のなかをゆっくり走っていた。相模湖インターチェンジのところまできて、突然、案内板に「火災、ここで出ろ」と書いてあった。一瞬、何のことかわからなかった。追い越し車線側をノロノロ走っていたので、相模湖ICで降りる決断ができず、そのまま進んだ。と、その時、消防車が数台、路側帯を前方に向かって走っていった。「しまった。本当に火事だったんだ」と思ったときは、もう手遅れである。渋滞の列はまったく動かない状態となった。両側は山である。戻れないし、進めない。化学消防車、救急車などが来た。これは大変なことになったと思った。時計を見ると、午後11時過ぎだった。ラジオをつけて、すべてのチャンネルをまわしたが、どこも日常ののんびりした番組が流れ、ニュースになっても、中央高速上の火災について何も伝えない。時間は刻々と過ぎていった。

最初の頃、周囲はテールランプで赤くなっていたが、やがて、1つ消え、2つ消え、とうとうすべての車がエンジンとライトを切り、暗闇となった。

2台ほどのオートバイが車の間をすり抜け前方に走っていく。もし、誰かがドアを開けていたら激突する。大変危ない。2台先の車から人が出てきて、煙草を吸い出した。高速道路上の大渋滞ドイツでよく体験した。家族連れの場合、ドライバーは子どもに配慮してか、外に出て煙草を吸っていたのを覚えている。

横の小型トラックの運転手は、窓に顔を押しつけて睡眠モードに入った。1時間が経過した。何の情報もない。ちょうど小仏トンネル手前の山間部のため、「高速道路情報」のラジオが入らない。携帯のサイトで道路情報を見ると、「中央高速閉鎖」となっている。私のいるあたりは真っ黒の線である。他方、赤い渋滞の線は、時間が経過するごとに短くなっていった。中央高速閉鎖を知ったドライバーが迂回したり、国道20線に降りていったりしためだろう。私のように、運悪く相模湖ICを過ぎてしまった車は、すべて動けなくなった。こういう時、道路公団なり、高速警察隊なりが何らかの情報を流しながら走ってくれるといいのに、と思った。一度だけ、道路公団の車が「トンネル火災」という案内板を乗せて走ったが、それだけだった。「大火災だったらどうしよう。歩いて戻るのかな」などと考えていたが、NHKニュースが何も伝えないので、大事故ではないだろうとは思った。とにかく待つしかない。

最近導入したイー・モバイルを試してみた。何とインターネットにつなげ、メールの送受信まで出来たのだ。しかも高速上は感度がいい。検索をかけて、この事故のことを調べてみると、ネット掲示板で、私と同じように高速道路上に拘束されている人たちが盛んに情報交換をやっている。それでも、私が目にする情報と同じようなもので、得るものはなかった。

1時間半ほど経過した時、道路公団の大型散水車と事故車運搬用トレーラー(クレーン付き)が前方に向けて路側帯を走っていった。これは事故の現場清掃と事故車の移動が行われているな、と思った。

2時間30分が過ぎた。ウトウトしながら、ふと前方を見る。かなり前の方の車のテールランプがポッと一つ点いた。「オヤッ」と思って注視すると、その後ろの車が続けて2台、テールランプを点けた。「あっ、動くかも」という希望が生まれた。私の車はカーブに入る手前に停まっていたので、私から車の列をかなり前方まで見通せる。テールランプがどんどん点いていく。私もライトを点灯して待っていると、はるか前方の車がかすかに動き出すのが見えた。「動くぞ」と声を出して、私もエンジンをかけた。横を見ると、小型トラックの運転手は就寝中である。周囲が静かなので、クラクションは鳴らさず、窓を開けてパン、パンと2回手を叩いて知らせた。トラック運転手はハッと目をあけ、自分で前方を確認してから、エンジンをかけた。私の前の車もなかなか発進しなかったが、しばらく待った。周囲の動きがわかったらしく、間もなく発進した。ようやく普通の渋滞に戻った。

小仏トンネルに入ると、壁が何箇所かで大きく開いて、上下線をつなぐようになっていた。ここから消防が進入したのだろう。出口付近まで近づくと、最後の事故処理が終わり、2車線に変更する作業が行われていた。そこから1時間の渋滞を抜けて、府中の自宅に着いたのは午前3時だった。午後11時から翌日の午前2時まで、3時間も高速道路に拘束される体験をした。一体、これは何だったのだろう、と思った。テレビやラジオのニュースにもならず、新聞にも記事はでない。昼間だったら詳しく道路情報で繰り返し伝えられるのだろうが、深夜の場合、いつもこういうことなのだろうか。どうしても知りたくて、消防関係者に話を聞いたところ、次のようなことがわかった。

9月13日23時4分、中央高速上り39.6キロポスト付近、小仏トンネル内(裏高尾町)で車両火災の通報。相模原消防本部からポンプ車8台が出場。津久井消防署の消防車が先着したときは、スプリンクラーによりほぼ鎮火していた。八王子消防署の化学車は、トンネル入口に停車して、徒歩でトンネル内に進入した。24時3分、消防司令室に、鎮火と「955なし」〔負傷者なし〕の報告が入った。

トンネル火災による拘束道路体験をしたわけだが、それにしても課題は多いと思った。何よりも情報である。高速道路情報が受信できない山間部に入って停車したため、情報のない状態が3時間続いた。この「情報不安」の状態は、ちょうど、台風直下の沖縄で、東京中心の放送が身近な危機を伝えてくれないことへの「もどかしさ」を感じたときと似ている(直言「暴風雨下30時間で考えたこと」)。

そこで思い出したのだが、先々週の出来事である。10月8日(木曜)、大型の台風18号の本土接近・上陸に伴い、早稲田大学は全学休講となった。この時の「情報不安」は、また別の原因によるものだった。

台風が接近している10月7日に、大学は、ホームページで、「台風18号の接近にともない、10月8日(木)の1〜2時限(9:00〜12:10)を休講とします。3時限以降の授業については、通常どおり実施する予定ですので、変更がある場合は10月8日(木)11:00までには、大学トップページでお知らせしますので、必ず確認してください」と告知した。私は2限から6限までぶっ通しで授業があったから、3限の1年ゼミから出るつもりで支度を整え、書斎で仕事をしていた。風は強かったが、雨は降っていなかった。青空ものぞいたので、これは授業があるかな、と思っていた。だが、気になったので、一応、11時にホームページにアクセスしてみた。案の定、まったく動かない。当然だろう。前日に、「11時にアクセスしろ」と指示しているわけだから、数万の早大関係者は一斉にアクセスする。サーバーがダウンすることはわかりきっていた。そこで、事務所に電話をして3限の休講を確認した。

しばらくすると、大学のホームページにアクセスできた。「3時限(13:00〜14:30)の授業も引き続き休講とします」という案内が「第1報」として出ていた。これには、「4時限以降の授業については、12:30までには、大学トップページでお知らせしますので、必ず確認してください」とあった。私は、4限、5限の3・4年ゼミ、6限の2年後半ゼミがある。まだ服を着替えることができない。出るか、出まいか、途中まで行くか。しかし、都内の交通網は麻痺状態である。京王線で新宿まで行けても、その先がわからない。大学のホームページはアクセス不能である。

googleで「台風、早稲田、休講」とクロス検索をかけると、これまたネット掲示板で、「○○大学休講決定」「○○学部はまだ?」みたいな休講情報が飛び交っていた。そのなかに、「早大全学休講、おめでとう」というのがあった。ゼミ長に電話をすると、「千葉方面のゼミ生が多いので、その方面の足が完全にとまっているので…」という。ゼミの全部休講を伝えて、普段着に着替えた。しばらくすると、事務所から電話が入った。すべて休講になったという正式の知らせである。ホームページにアクセスすると、「第2報」として、「4時限以降の授業もすべて休講とします」という案内が出ていた。

なぜ、当日の早い時点で全学休講を決断できなかったのか。例の掲示板をみると、午前中に全学休講を決めた大学もけっこうあった。早大は、1〜2時限、3限、4限以降と、3回にわたり、情報を小出しにして混乱を招いた。ガダルカナル作戦の愚策といわれる「兵力の逐次投入」。大本営は、十分な情報もないまま、兵力を小出しに投入して大失敗をした。今回の場合、情報の出し方の問題だけではない。ホームページがダウンすることが確実なのに、「必ず確認してください」と、あえて一斉アクセスを要求すらした。新型インフルエンザへの対応も含めて、今後に残された課題は多い。

 

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