新防衛計画大綱の「鋭利な刃」 2010年12月20日

成22年度日米共同統合実動演習が12月3〜10日、日米4万4000人が参加して、日本周辺海域と国内基地で行われた。米側の呼称は「鋭利な刃(キーン・ソード)2011」。表向きの演練項目は、(1)弾道ミサイル(BMD) 対処を含む航空諸作戦、(2)島嶼防衛を含む海上・航空作戦、(3)統合輸送、(4)基地警備等、(5)捜索救助活動である。だが、実際、どのような具体的な作戦想定で演練しているかは外部からは見えない。

参加部隊は、日本側が折木統幕長を統裁官に陸海空の隊員約3万4100人、艦艇約40隻、航空機約250機、PAC3部隊など。米側は米第13空軍司令官のハーバード・カーライル中将を統裁官に、陸海空軍と海兵隊計約1万400人、原子力空母「ジョージ・ワシントン」など艦艇約20隻、航空機約150機が参加した。1986年から開始され、今回で10回目だが、その規模は過去最大である(『朝雲』2010年12月9日付)。米軍の呼びかけで、韓国軍関係者も「オブザーバー」として参加した。

「ジョージ・ワシントン」艦上では、米海軍第5空母打撃群司令官のダン・クロイド少将が、「海自との相互運用性や即応態勢などを高めるために海上で行われる世界最大規模の演習」と位置づけている(『朝雲』2010年12月16日付)。原子力空母を海自艦艇が護衛するというパターンはこれまでも行われてきたが、今回の注目は「島嶼防衛」との関連である。空母艦上からの「密着取材」の映像はNHKも含めて盛んに垂れ流されたが、具体的な作戦構想に基づく演習の様子は見えない。「敵」に占拠された島への逆上陸作戦を含めて、攻勢的な作戦が展開されたはずである。演習そのものが「武力による威嚇」の効果を持ちうることを知るべきである。

12月17日、菅内閣は、2011年度以降の10年間の防衛力のあり方を示す「防衛計画の大綱」を閣議決定した。その内容は、首相のもとに置かれた「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」(座長・佐藤茂雄京阪電鉄CEO)の報告書(2010年8月)の内容に沿うものだった。この安保懇は、メンバー的には自民党時代と重なっていて、何の新味もない。御用学者たちと並び、制服組の専門委員として、元海幕長の斉藤隆前統幕長が入ったのが目をひいた。陸幕から誰も入っていないので、陸にきびしい「査定」が出ることは、 直言でも予測しておいた

 新防衛計画大綱の中身については、鳩山前首相も菅首相もこの私的懇談会に丸投げしていた。閣議決定された「新大綱」は、日本のこれまでの「防衛政策」を大きく変えるもので、これだけの重大な転換が、国会における十分な議論もないままに決まっていくことに危機感をもつ。

「新大綱」の最大のポイントは2つ。まず、中国の軍事力強化を「地域・国際社会の懸念事項」と捉え、中国の海洋進出を意識した南西諸島へのシフトを打ち出したことだろう。「北方重視」から「南西重視」への転換である。もう一つは、全国に部隊を均等配備する根拠ともなっていた「基盤的防衛力構想」と決別して、「動的防衛力」を基本方針としたことである。これは、「国のかたち」(あまり好きな言葉ではないが)にもかかわる大転換と言えよう。

  安保懇の報告書をベースに、民主党外交・安全保障調査会が11月29日に公表した「新大綱」の提言案には、「動的抑止力向上と南西方面への対処」と明記されていた。閣議決定では、「動的抑止力」から「動的防衛力」という文言に変わっていた。この「動的防衛力」という言葉が巧妙なレトリックになっている。

 1976年の三木内閣のときに策定された「防衛計画の大綱」は、仮想敵の脅威が増大するに照応して防衛力を強化するという「所要防衛力構想」をとらず、「限定的かつ小規模な侵略」に対応できる、必要最小限度の「基盤的防衛力構想」を採用した。自民党政権下で、内外の軍備拡張を懸念する声を意識して、自衛隊は憲法9条に違反しないという「自衛力合憲論」と整合し得るものとして捻り出された。これを土台にしたのが「専守防衛」政策である。「基盤的防衛力構想」には、その設計の基本に、相手の軍拡に応じてこちらも軍備増強をはかるという「所要防衛力構想」とは異なる、「抑制の論理」があった。

民主党の外交・安保調査会が打ち出した「動的抑止力」の考え方は、この「基盤的防衛力構想」を「静的抑止力」としてネガティヴに評価する。「静的」よりも「動的」の方が響きはいい。だが、このレトリックの背後には、安全保障政策の重大な転換の実態と狙いを隠すトリックが含まれている。

『毎日新聞』12月4日付特集記事「転換期の安保」は、「動的抑止力」のネタ元を明らかにしている。それはやはり米国直輸入だった。米国が4 年ごとに1度見直すQDRに、今年2月、初めて盛り込まれたのが「ジョイント・シー・バトル(JASB)構想」と呼ばれるものだ。これは、「空と海の兵力を一体的に運用し、海・空軍力を最大限に引き出す新安全保障戦略」であり、中国を念頭に置いたものであるという。前述の安保懇の委員の一人が、来日したヒックス米国防副次官から、「JASB構想」の必要性を説かれ、それを「日本版JASB構想」として報告書に取り入れたという。さすがに、委員の間から「QDRと全く同じ表現ではまずい。似た表現にしよう」という声が出て、「動的抑止力」という表現になった経緯があるという。米国の意向を忖度する委員ばかり集めた懇談会だから当然と言えば当然だが、何とも情けない。

かくして、一国の安全保障政策に、米国の対日要請が土壇場で取り入れられ、それが十分な検討もないままに閣議決定されていく。 「死刑執行のベルトコンベアー」(鳩山邦夫元法相) ではないが、一国の安全保障政策が、米国のベルトコンベアーの上を流れるように決まっていくようである。死刑制度と同様、命に関わることが「ベルトコンベアー」的発想で決まるのは実に危うい。

前衆議院議長の河野洋平氏は「基盤的防衛力を手放すな」というタイトルで、防衛計画大綱の改定に「私はこれに賛成できない」という立場を明らかにした(『朝日新聞』2010年12月10日付「私の視点」欄)。「国際紛争を武力で解決しないという憲法の平和原則をゆるがせにしてはならない。基盤的防衛力構想は均等配備で無駄が多いというが、脅威に対抗する拡大はせず、必要最小限を持つという考え方こそ大事だ」と指摘する。「国会での熟議を重視する菅首相なら、憲法に根拠をもたず人選も恣意的な私的懇談会に、本来なら国会で審議すべき重要な事項を委ねる危うさは、重々承知のはずである」と批判し、「防衛大綱の見直しも凍結して、国会で徹底した議論をするのが望ましい」と書いている。正論であるが、いつものように少々遅すぎた。

さて、「動的防衛力」の中身を少し見ておこう。そこで想定される事態は「各種事態」とされる。大規模着上陸侵攻のような事態はもはや想定できないから、これからは日本をとりまく「不安定要因」から生ずるさまざまな事態(「各種事態」)に対処するというわけである。不安定要因から生ずる事態とは、何とも曖昧で抽象的である。具体的な脅威ではなく、「不安定性」を脅威に仕立てている。「各種事態」に対応するには、「基盤的防衛力構想」では「静的」すぎるというわけだ。今後の防衛力は、「アジア太平洋地域の安全保障環境の安定化とグローバルな安全保障環境の改善のための活動を能動的に行い得る動的なものにしていくことが必要である。このため、即応性、機動性、持続性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられた動的防衛力を構築する」という。「能動的に行い得る動的なもの」とは形容句のダブリも甚だしい。はっきり言えば、「専守防衛」のような縛りも拘束もなく、米軍とともに地球規模で軍事活動を展開することが、すなわち「動的」ということだろう。これは自民党政権下でさえ超えられなかった一線を軽々と踏み越える傾きをもっている。

 冷戦時代の「所要防衛力構想」が、まがりなりにもソ連の軍拡に応じてこちらも増強するという「見える脅威」対応型だったのに対して、「不安定性」への対応だから、その限界は曖昧で、「安全保障」から「安心保障」になったかの如くである。必要な装備についても、「あれも」「これも」といって拡大していくことが可能である。

確かに新大綱では、厳しい財政状況から、今までのような防衛費増大はできない。そこで、まずは 陸上自衛隊をダミーにして、その削減をはっきり打ち出した 。この間、陸と海・空の綱引きが本格化している。

写真は、黄昏の市ヶ谷・防衛省である。上が緑色の建物が19階建てのA棟である。陸幕はその4階、海幕が8階、空幕が17階にそれぞれ陣取る。8階と17階が元気で、4階に人と装備の削減を迫っているという構図がこの建物のなかで行われている。

16大綱(2004年)から見れば、陸自の定数は15万5000人から1000人削減される。しかし、実際には「員数合わせ」的な側面があり、大規模な削減とはかなり距離がある。とはいえ、 北海道の陸自の未来がますます暗くなってきたことは確実である 。正面装備では、これまで自明のように確保され続けてきた戦車と火砲は減らされる。冷戦時代の「51大綱」(1976年)では戦車1200両、火砲(自走砲を含む)1000門だったものが、「16大綱」で600両と600門に半減され、今回、戦車400両と火砲400門にまで減らされる。戦車について言えば、3分の1になった。石狩平野でのソ連軍との戦車戦という夢も破れ、 「ヒトマル戦車」の購入理由も苦しい 。「静的」配置の典型である5個方面隊の部隊配置についても、すでに 海外派遣専門の部隊「中央即応集団」 を立ち上げ、 海外派遣の本務化は先取りされていた

 新大綱には、「非対称的な対応能力を有する機能」を優先的に配備するとある。よくわからないが、何でも使えるものということで、戦車や火砲、戦闘機は「非対称」というわけにはいかないだろう。ところが、 海の潜水艦は16隻から22隻に、イージス艦は4隻から6隻へ 大幅に増やされる。外洋や海外での活動を念頭に置けば、まさに海自の装備は「非対称的」であり、優先配備の理由になりやすい。 武器使用権限の柔軟化も、海からの要請が大きい

 一見すると陸自1000人の削減が目立つが、これは ドイツが2011年7月1日を期して徴兵制を停止し 、連邦軍24万人から18万5000人に削減するのに比べれば、微修正にすぎない。むしろ、海・空の「軍拡」の傾向は明確であり、「専守防衛」と決別して海外展開を強化していく日本の存在は、アジア地域におけるむしろ「不安定要因」になる可能性がある。それは、日本独自というよりも、米国の「なぐり込み戦略」の先兵として、新たに参加してきたからである。

「日米安保50年」 を契機に、日本は、米世界戦略の「鋭利な刃」になろうとしている。

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