総選挙の争点――安倍政権から日本を取り戻す            2014年12月1日

安倍首相のチャンス

日、総選挙が公示される。この時期、このタイミングでの衆議院の解散については、誰もが「なぜ?」と問いかけたい気分だが、安倍晋三首相はただ一人、気を吐いている。この異様な「安倍晋三解散」の最大の狙いは、「野党の選挙準備が整っていないこのチャンスを手放すわけにはいかない」という彼なりの判断だろう。普通なら「一か八かの賭け」という意識が強いだろうが、この人にはそれがなく、これまでのどの首相にも見られない「根拠のない自信」に満ちあふれている。総選挙の争点についても、当初は消費税増税を先送りすることについて信を問うといっていたのが、いつの間にか「今回の選挙はアベノミクスを前に進めるか、止めてしまうか、それを問う選挙だ」と我田引水的な争点にずらしていき、自らの政策を自画自賛しつつ、「このチャンスを手放すわけにはいかない」と拳を振り上げる。

総選挙の争点は何か。本来ならば、このことを明確にして解散するものだろう。国民の大半が増税先送りに賛成している以上、これが争点になるはずもない。特定秘密保護法の施行が間近なのにこれに触れることもせず、「7.1閣議決定」について正面から信を問うこともなく、原発再稼働についてもできるだけ触れないようにして、総選挙の争点を経済課題だけに絞り込み、投票日までもたせるつもりなのだろうか。

驚いたことに、菅義偉官房長官は11月19日の記者会見で、「何を問うか問わないかは、政権が決める」と言い放った。歴代内閣が解散・総選挙に際して、ここまで傲慢不遜な態度をとったことがかつてあっただろうか。国民から負託されているという意識の欠如が甚だしい。最初は「念のため解散」などといっていたが、もはや解散理由が見つからず、最終的に「アベノミクス解散」などとわけのわからないネーミングでお茶を濁している。本音は、野党の選挙準備が整わず、原発再稼働、安保法制の整備などの重たい課題で支持率が下がる前に、「残り2年ではなく、さらに4年」の政権維持を自己目的にした解散といわざるを得ない。「今でしょ解散」である。実は、これとよく似た解散がかつてあった。

食い逃げ解散

それは「食い逃げ解散」として知られる1937年4月の解散と第20回衆議院議員総選挙である。1937年2月に発足した林銑十郎内閣は、自らの与党勢力の議席増を狙って、予算が可決されると同時に衆議院を解散した。これはその時の『大阪朝日新聞』の号外である。「安定せるかに見えてゐた政局へ突如の波紋」と書いてあるが、予算成立直後の突然の解散は、さしたる理由もなかったことから、「食い逃げ解散」として反発をよんだ。4月30日が投票日で、選挙の結果は与党勢力にきびしいものとなった。林内閣はその1カ月後に総辞職した。林内閣と安倍内閣の共通性は、自分の政権維持のための解散・総選挙を行ったという点である。

ところで、この1937年4月の朝日新聞(大阪)号外の裏面には、『亜欧連絡記録大飛行声援歌』の楽譜と歌詞がついている(写真)。「亜欧連絡記録大飛行」とは、朝日新聞社の「神風号」が日本から長距離飛行をしてロンドンに到着したことである。総選挙と「神風号」を一つの号外にしてしまう。何とも不思議な取り合わせではある。 さて、この「食い逃げ解散」による総選挙で当選した議員たちは、任期中、大政翼賛会に吸収されていく。そのときの内閣が「もう一つのアベ内閣」こと阿部信行内閣である。この内閣も、気の合う石川県人ばかりを登用した「チーム阿部」からなるオトモダチ内閣だった。林首相による「食い逃げ解散」が大政翼賛会への道を掃き清めたように、安倍首相による唐突な解散が、そのあとに、より強力な翼賛政治を生み出さないという保証はない。

ねじれ解消餅

昨年7月の参議院選挙では、投票日に向けて、また投票日当日も、テレビのニュースは盛んに、「ねじれの解消を最大の焦点として戦われる今回の参議院選挙」という言葉を使った。当時、参議院は野党の勢力が強かった。このねじれを解消するということは、参議院も衆議院と同じ議席構成になれということである。つまり、参議院で自民党が多数を占めることが「最大の焦点」だといっているに等しい。アナウンサーの口から、「ねじれ解消を最大の焦点に…」という言葉が出てくるたびに、与党への投票が無意識に刷り込まれていったのではないか(直言「ねじれ解消」と「3分の2」の間――2013年参議院選挙」参照)。

明日からの総選挙でも、NHK(政治部)は「アベノミクスの継続か否かを最大の争点とする総選挙が…」などというフレーズを使うべきではないだろう。争点は政権側が押し付けるものではない。「アベノミクス解散・総選挙」という政権側の争点操作にのらないことが肝要である。国民の立場からすれば、集団的自衛権行使を容認する閣議決定の狼藉、特定秘密保護法施行、原発再稼働に加えて、沖縄・辺野古の基地建設(8月14日からボーリング調査を強行)なども、しっかりと争点にして検証すべきだろう。

トラック協会の意見広告

明日公示される衆議院総選挙は、実は重大な負債をおっている。それは、議員定数の不均衡を是正しないまま、0増5減の小手先の「改善」でお茶を濁して選挙に突入したからである。「一票の格差」問題では、先週の水曜日(11月26日)、最高裁判所大法廷が2013年参院選(4.77倍)について「違憲状態」の判決を出した。2010年参院選については2012年10月に「違憲状態」判決が出ているので、半数改選の参議院の全体が「違憲状態」と評価されたことになる。「日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」するはずなので、いま、衆参両院とも「正当に選挙された」かどうかは疑問ではある。

注目されるのは、前回3人だった「違憲」の反対意見が今回4人に増え、うち1人は「選挙の即時、無効」を主張したことである。補足意見を含めると、15人の裁判官中、10人が次回の2016年参院選は「違憲」とすることを示唆していることも重要である。他方、衆議院については、唐突な「安倍晋三解散」によって、選挙制度改革を検討する第三者機関である「衆院選挙制度調査会」の活動がストップしてしまった。この調査会は、2011年3月の最高裁判決により否定的評価が確定した「一人別枠方式」に代わる方式を検討していたが、解散によって、現状のままでの選挙に突入してしまった。選挙後に再び違憲訴訟が提起されれば、高裁段階で違憲判決(選挙無効判決も)が増え、最高裁でも違憲、選挙無効の判決が出る可能性は否定できない。

安倍首相の今回の解散は、林銑十郎内閣のそれと並んで、自分の勢力を増やすためだけという不純な動機が見え見えだった。明日からの総選挙は、こうした点を含めて、安倍政権そのものを争点とし、これを問う選挙となるべきだろう。「安倍晋三的なるもの」からこの国を取り戻す。安倍晋三が登場する前の日中、日韓関係にまで戻す。安倍晋三退場となる選挙結果になることができるか。明日からの総選挙の最大の焦点なのである。

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