

高市まんじゅうの賞味期限
先々週、衆議院第二議員会館地下「おかめ堂」で売られている国会議事堂限定のお菓子を、ゼミ出身の政治部記者が送ってくれた。まず「さなえちゃん紅白まんじゅう」を食べたが、妻の評価では、昨年のミルクコーヒー味の「ゲルたんまんじゅう」よりはおいしい、ということだった。とにかく日本は頻繁に首相が交代するので、ここの商品も頻繁に入れ代わる。2008年の麻生太郎内閣の「秘密の太郎ちゃんまんじゅう」から段ボール1箱分は持っているが、「さなえちゃんまんじゅう」の賞味期限は「12月4日」である。10月21日に高市早苗内閣が発足したので、新しい「さなえちゃん煎餅・饅頭」が届けば、今回紹介した2つのお菓子の賞味期限はもっと短くなるだろう。
実は相性はよくない「自維連立」
私は「高市早苗総裁はない」と見ていたが、10月4日の総裁選の結果は、完全に予測が外れた。直言「高市・麻生自民党の政権はあり得ない」を出したが、予想の下位にあった「自維連立政権」が誕生した。かつて日本維新の会との連立の可能性が生まれた時期もあった(直言「自民・維新「改憲連立政権」の可能性」参照)。連立交渉に数か月をかけるドイツとは異なり、日本の「連立方程式」は単純で、今回、2週間ちょっとで結論が出てしまった。
実は、連立相手の「維新」の危なさについては、私は10年以上前から警告してきた(直言「「東京維新」と大日本帝国憲法」参照)。「身を切る改革」ではなく「民意を斬る改悪」である議員定数削減を臨時国会で行うという暴挙を連立の「絶対条件」にしたのも、維新ならではである。議員の選び方を決める選挙法の改正には、通常国会で時間をかけ、全会派による熟議が求められる。それを2党派の連立条件として、しかも臨時国会で短期間で決めることを唐突に高市に迫った。ただでさえ小選挙区に偏った現行制度について、民意の反映を基本とする比例部分の削減には重大な疑問がある。これに危機感をもたないメディアと国民。芸術への補助金削減や労働組合つぶしを強引に行っても維新を支持し続ける大阪の有権者と似たり寄ったり、である。
高市は、維新をアグレッシヴな別動隊として使い、参政党や保守党とも連携しながら世論を誘導していくだろう。だが、維新の閣外協力には本質的な問題がある。維新は自民を振り回すわりには、自ら責任をとることはない。公明党の場合は時間をかけ、支持者への配慮も慎重に行って自民の候補者の当選に貢献してきたわけであるが、それと比べると、維新との連立はガラス細工のようにこわれやすく、この連立が長く続くとは思えない。総選挙になれば、自公連立時代のようにはいかない。自民が全滅した大阪の小選挙区を中心に、不協和音が出てくるだろう。
女性閣僚は2人だけ、派閥・論功行賞人事
高市政権というのは、ドイツでいえば極右政党の「ドイツのための選択肢」(AfD)との連立政権が生まれたようなものである。単なる安倍政権のリバイバルではない。最大派閥をもっていた安倍とは異なり、無派閥だった高市を支える党内基盤は決して強くはない。その焦りもあって、かなり強引で「映える」政権運営を行うことが予想される。維新は閣僚を出さず、いつでも泥船から逃げ出す構えなので、維新への気遣いも周到にしなければならない。その分、閣僚人事の自由裁量が広いように見えて、結果は徹底した論功行賞と派閥・旧派閥重視の人事だった。いくつか例を挙げよう。
もう一人の女性閣僚は旧茂木派の小野田紀美。父親が米国人だが、外国人の不法滞在、不法就労問題に熱を入れてきたようで、予算委員会などでの答弁の迷走が今から注目される。『日刊ゲンダイ』は「女性大臣時限爆弾」と評する(冒頭の写真参照)。
なお、総裁選の高市支援でかなり目立った動きをした松島みどり。うちわを配って公選法違反となり、法務大臣を1カ月半でスピード辞任した経歴の持ち主だが、今回は首相補佐官への抜擢である。もう一人の首相補佐官は、「マスコミを懲らしめる」とやって、木原とともに党から処分(彼の場合は「厳重注意」)を受けた井上貴博である。木原や井上が沖縄2紙をつぶせというマスコミへの圧力に関わったが、彼らを任命した高市自身について、私は「停波の高市」と呼んでいるので、新聞・テレビは戦々恐々だろう。放送を所管する総務大臣の在任期間が史上最長の1438日という経験を活かして、放送への介入を巧妙に行っていくだろう。総務大臣が林芳正であることがせめてもの救いなのだが、どこまで抵抗できるか。高市がトランプの真似をして、記者会見で記者をいびったり威嚇したりするのも時間の問題かもしれない。

外国メディアはどう見ているか
ベルリンの『ターゲスシュピーゲル』10月21日は、「右翼の維新との連立」で「右シフト」を明確に指摘している。Deutsche Welleは高市を「保守強硬派」、国家主義的、対中強硬派、歴史修正主義者として位置づけられている(21.10.2025)。夫婦別姓や女性天皇に反対する姿勢から、「改革なき進歩の象徴」とも(同)。
英国BBCは「サッチャーを愛する最初の女性首相」(Thatcher-loving first female prime minister)と見出しで、2人の若い女性のインタビューを交えた記事を、「ジェンダー平等の問題が高市の優先事項の上位に来るとは誰も予想していないと言ってよいだろう」と結んでいる。
ドイツの『フランクフルタールントシャウ』紙21日も「"鉄の女 "が日本初の女性首相に就任 - そして大きな試練に直面する」という見出しで、高市の家族観がかなり保守的で、同性婚にも夫婦別姓にも反対しており、皇室の男系継承の維持を望んでいることに注目する。
『ロシア・トゥデイ(RT)』21日は、「日本、初の女性首相に保守強硬派(hardline conservative)を選出」という見出しで、「彼女の政治的アイドルであるマーガレット・サッチャー英元首相にちなんで、しばしば日本の「鉄の女」と呼ばれ、社会保守主義、ナショナリズム、軍の役割拡大を支持することで知られる」「高市は、戦後憲法の平和主義条項を改正し、自衛隊を正式に国軍と認めることを支持している。彼女はまた、防衛費の増額とアメリカとの軍事協力の緊密化を支持している」と紹介する。ロシア紙らしく、北方領土問題での高市の姿勢を紹介し、ロシアとの関係が改善する可能性は低いと見ている。
「高市カラー」はどうなっていくか
安倍政権時の教訓を踏まえて、カラリストたちは「安倍カラー」に新たな色彩を加えていこうとしている。それは安倍時代にはまだ突出していなかった「オレンジ色」である。参政党の政策を改めて見ると、高市が目指す方向と内容がかなり重なっていることがわかる。参政党の支持層を意識した「高市カラー」は、「女性」という要素を前面に押し出してくるところが安倍のそれとは異なる。
岩手大学の海妻径子は、「「女の時代」の矛盾を体現する高市氏 保守がガラスの天井破った理由」(『朝日新聞』デジタル21日)のなかで、高市を「フェミニズムと保守のハイブリッド」と表現している。「タカ派の方が先にガラスの天井を破ったことを真摯に受け止め、女性が台頭できた「構造」を見ていかないといけません。それは翻って、リベラルにはどうしてそういう構造が構築されないのか、ということを考えることになると思うからです」と重要な指摘をしている。
もし麻生太郎のあの口から、「奈良のシカを蹴り上げるとんでもない人がいる。…日本人の気持ちを踏みにじって喜ぶ人が外国から来るなら、何かをしないといけない。日本の伝統を守るために体を張る」という言葉が飛び出したら、誰しも反発するだろう。しかし、女性である高市がいうと、批判や反発する範囲が一気に狭くなる。18歳から39歳の若い世代では、石破内閣支持率15%が、高市内閣で80%へと跳ね上がっている(『読売新聞』23日)。もはや若い世代は、女性首相の高市が何を語っても肯定してしまう傾きと勢いである。
高市は今後、「外の脅威」と「内の脅威」を徹底して強調するだろう。それは、彼女が理想とする英国のサッチャー首相のことをもう少ししっかり勉強すれば見えてくる。この機会に、直言「「フォークランド戦争」から40年─「戦争」を選ぶ指導者たち」をリンクまでお読みいただきたい。
サッチャーは、「アルゼンチンの政権はファシストの集団です。英国の領土への侵攻を許すことはできません。私は犯罪者やゴロツキとの交渉には応じません」と断言して、英国から1万2000キロも離れた小さな海外領土に空母機動部隊を派遣した。誰もが戦闘になるとは思わないのに殺し合いが始まり、ワールドカップでおなじみのチームをもつ英国とアルゼンチンの若者たちが900人も戦死したのである。チャーチルを過度に意識して、強い手段を選択して自身の政治的立場を強めようとした。当時、英国では新自由主義的改革を推進するのに抵抗が強く、この戦争を行ったことでサッチャーは「改革」を押し進めることが可能となった。対外的危機を煽ることが国内政治上有効ということを、サッチャーをモデルとする高市は知悉しているだろう。「台湾有事」「尖閣有事」や日本国内での土地取引などを規制するために、国民の「不安感」の活用が積極的に行われていくだろう。
連立合意の危険な内容
自民と維新の「連立政権合意書」に盛り込まれた内容はきわめて危険である。『朝日新聞』10月21日付2面「時時刻刻」の見出しは「維新案「丸のみ」タカ派色」、『東京新聞』22日2面は「タカ派 たが外れる」と言い得て妙である。詳しいことは、今後各論的に論じていくが、端的にいえば、安全保障分野では2022年12月に閣議決定した「安保3文書」を、部内で使ってきた「戦略3文書」という名称にさりげなく言い換えて、オーソライズしている。しかも、これを「前倒しで改定する」というのである。「戦争可能な正常国家」への道が、国会での十分な議論もなしに、国民が問題点を知り考える暇も与えられずに実現されていく。
これと関連して、防衛費は2年前倒しで増額することを、来週の所信表明演説で述べるという(『東京新聞』23日付)。維新との連立政権合意書には、長射程ミサイルを搭載する実質的な原子力潜水艦の保有まで盛り込まれている。これは9月20日に防衛省の有識者会議の報告書で初めて提言されたもので、それを早々と採用したようである。武器輸出をめぐる防衛装備品移転3原則の5類型の撤廃まで入っており、どさくさまぎれの勢いはすさまじい。これを臨時国会で予算をつけて、実現してしまおうというのが高市カラーである。防衛費2%の早期達成や、トランプとの会談でさらなる兵器購入を約束するのだろう。
「高市さんはこっち側の人だ」と、防衛産業の企業幹部は「「期待しているというか、わくわくしている」と高揚感を隠さない」(『毎日新聞』10月22日付7面)。「わくわく」している人々の顔ぶれを見ていると、日本会議やその関係の学者・文化人たちも、さまざまな公職への登用に「わくわく」していることだろう(第2次安倍政権発足時に中央教育審議会に櫻井よしこが入った!)。
安倍時代に「首相に一番近い女性」といわれたこともある稲田朋美は、地元『福井新聞』10月23日付で、人事に「高市カラー」がよく出ていると、自分が起用されないことを間接的に皮肉っている。
ただ、自民党の議員たちはいま戦々恐々のはずである。解散・総選挙は、早ければ11月から12月、来年の4月から7月には行われる。いま、高市の「あからさまな公明党切り」に、自民党内からも不安の声があがっているという。「ブレーキ失った高市政権」(『毎日新聞』10月23日付)は、比例の定数削減問題が公明党にけんかを売ることになり、状況は一変したとする。維新が土壇場で持ち出した定数削減を高市が安易に飲んだことのツケが、臨時国会が閉会する12月17日までの間に激化する可能性がある。選挙法の改正は憲法改正に匹敵する。普通の法律のように、臨時国会で急ぎ採決とはいかない性格のものである。参議院もある。高市が焦って成立を急げば、党内からの反発が大きくなり、場合によっては解散に追い込まれるだろう。自維連立の切り札に唐突にされた「議員定数削減」が、高市にとって命取りになる可能性がある。
【文中敬称略】