兵器の名前からみえるもの――年のはじめに武器の話(その3)  2008年1月14日

月11日、新テロ特措法(補給支援特別措置法)が憲法59条2項に基づく衆院再可決により成立した。これについては、『毎日新聞』10日付でコメントをした直言でもテロ特措法については何度も書いてきた「補給支援特措法」(『朝日新聞』はこの呼称に統一)についてもすでに批判してあるし59条2項の問題についても別のところで触れた。そこで今回は、年末から用意してある原稿をUPすることにしたい。

  4年前、「年のはじめに武器の話」2回連載でやったことがある。今回は、その続編である。

  ゼロ戦(零戦)という名前はほとんどの方がご存じだろう。旧日本海軍の零式艦上戦闘機である。では、なぜ「零」なのか。実は、「零式」とは神武天皇の天孫降臨から起算した「皇紀2600年」、即ち昭和15年(1940年)を海軍は「零」(ゼロ)とカウントしたからなのだ。ちなみに、陸軍は「100」とカウントした。だから、この年に制式化された海軍の戦闘機は「零式」なのだが、同じ年の陸軍の偵察機は、一〇〇式司令部偵察機(「百式司偵」)という。翌年からは1、2、3とカウントしていく点では同じ。例えば、皇紀2601年=1941年の一式陸上攻撃機、一式戦闘機「隼」、1943年の三式戦闘機「飛燕」というふうに。逆に、1940年より前だと、1939年の九九式艦上爆撃機、1937年の九七式中戦車…という形になる。1945年が最後で、実戦配備はされなかったが、五式戦闘機というのもあった。

  一方の米軍や航空自衛隊は、頭につけるイニシィアルで機能を区別してきた。FはFighter(戦闘機)。朝鮮戦争で初めて本格的なジェット戦闘機が使われたが、それがノースアメリカン社製のF86セーバーである。この米軍のおさがりが、長らく航空自衛隊の主力戦闘機だった。次いで、「最後の有人戦闘機」といわれ、実際そうはならなかった、ロッキード社製F104スターファイター。そして、爆撃装置の装着が国会で問題にされ、結局、空自に採用される際にそれを取り外したという、いわく付きのマグドネル・ダグラス社F4Eファントム。さらに現在の主力戦闘機、マグドネル・ダグラス社製のF15イーグル。空自の「花形」は、この半世紀の間に4世代となったが、ダグラス社が2代にわたりその座を占めている。海兵隊はダグラス社製のFA18ホーネットは、Fighter and Attacker(戦闘攻撃機)。ボーイング社のB29やB52という場合のBは、Bomber(爆撃機)である。ちなみに、97年にダグラス社はボーイング社に吸収合併されたので、F15はいまはボーイング社のブランドということになる。なお、日本は「専守防衛」ということで“B”や“FA”は保有できない建前だから、戦闘「爆撃」機や戦闘「攻撃」機ではなく、「支援戦闘機」という。戦車を「特車」と呼び、歩兵を「普通科」と呼んできた、この国特有の語法である。

  そうした「建前」と「実態」を後者に揃える動きが急である。与野党を問わず最近の政治家たち、官僚、幹部自衛官のなかには、かつての世代がもっていた「軍事」に対する抑制がなくなってきたように思う。軍事的合理性をむきだしで語る「本音の突出」も著しい。名前の付け方にも、「先祖返り」がみられる。
   その一例。2005年に米第5空軍と航空自衛隊との日米共同訓練がグァムで行われたが、その演習は「ノースコープ2005」という。その記念ワッペンには「神風・爆撃」とあった。しかし、「神風」という言葉は「過去」を背負っている。それを米軍との共同訓練で使う歴史的センスが問われる。

  海も同様である。16DDH(平成16年ヘリコプター搭載護衛艦)「ひゅうが」はまるで空母である。昨年11月、IHI(石川島播磨重工業)が関係者に配布した記念絵はがき記念シールを偶然入手した。そして、先週、旧海軍の戦艦「日向」(改装前)の当時描かれた記念絵葉書も入手した。 この直言でも指摘したが、改装後の「日向」は「航空戦艦」として有名だった。「ひゅうが」も、最大11機のヘリが搭載可能で、1隻で1個護衛隊群のヘリ搭載数を上回る。巨大な飛行甲板には、各種輸送ヘリから、いずれは強襲輸送機「オスプレイ」が並ぶのも「夢」ではないだろう。「ひゅうが」は、中央即応集団の発足とタイアップして、「専守防衛」とは異なる、海外遠征型の緊急展開部隊の輸送手段となりうる。これは、ヘリ搭載護衛艦の後継艦と表記しながら、中身はヘリ空母という、食品偽装よりも悪質な「偽装」ではないか。もっとも、自衛隊そのものが、憲法違反ではないという建前で発足した「軍隊」という壮大な偽装の産物である以上、「この程度」の偽装は「誤差の範囲」という感覚なのかもしれない。だが、違憲ではないとしてきた「専守防衛」のラインを超える装備であることは間違いない。この「ひゅうが」の問題性は、10年前に輸送艦「おおすみ」について指摘した点よりもはるかに問題だろう

  「名前」の先祖返りは、まだまだ続く。昨年12月、平成16年度計画2900トン型潜水艦の命名・進水式が、三菱重工神戸造船所で行われた。石破茂防衛大臣が命名したのが、「そうりゅう」である。潜水艦の命名基準は訓令により、「海象、水中動物の名」と定められていた。「おやしお」「なだしお」「うずしお」等々と、「○○しお」が多い。11月5日の訓令改正で「瑞祥動物」が加わった。「そうりゅう」はその第1号というわけだ。石破大臣は「プラモおたく」よろしく、旧海軍の空母「蒼龍」を意識したのだろうが、海自は「新たな脅威、多様な事態に対応するわが国の海上防衛の中枢艦として活躍が期待される新型艦であり、古来よりの龍神信仰を通じて広く国民に親しまれ…」などと説明しているが(以上、『朝雲』2007年12月13日付から)、少々苦しい言い訳ではないか。どうせならより著名な「ひりゅう(飛龍)」にしないのか。潜水艦だから「飛ぶ」わけにはいかないからか。少なくとも、「蛟龍」 「海龍」などの特殊潜航艇や、「伏龍」のような特攻兵器の名前だけはやめてもらいたい。また、広東攻略(中)、真珠湾攻撃(米)、ポート・ダーウィン空襲(豪)、インド洋セイロン空襲(英)を「蒼龍」から受けた被害側諸国民、そして、ミッドウェー海戦での撃沈(戦死者・遺族)、その転換点に翻弄された、かの戦争の「記憶」に対して、旧日本軍兵器名の転用(戦後世代による乱用)は十分に配慮したものではない。


   さて、第5世代の戦闘機の開発も始まった。これはステルス戦闘機で、その名前も「心神」である(『朝雲』2007年11月22日付)。国産をめざし、当初計画よりも2年も前倒しにされ、2008年度から着手される。08年度予算だけで157億円が計上されている(開発だけで2013年度までに466億円!)。米国のロッキード・マーチン社の最新鋭のステルス戦闘機F22ラプターをしのぐものにしたいようだ。レーダーに探知されず、「敵国」の奥深く侵入して、心臓部を誘導爆弾で攻撃する能力をもつ。もちろん、核爆弾も搭載可能だから、最強の核攻撃力になる。実際、昨年4月20日付の米『ワシントンタイムズ』紙は、「日本は最大100機のF22戦闘機購入を希望しており、ブッシュ大統領と安倍晋三首相が来週行う日米首脳会談で話し合われるだろう」と報じた。次期主力戦闘機(FX)はF22ですんなり決まると思っていたが、海自のイージス艦機密漏洩事件などにより、米側が日本の秘密保持への危惧からF22の情報提供を躊躇したこともあり、また、安倍首相の失脚、守屋前次官と防衛専門商社の癒着の発覚などの事情も重なり、この国産プロジェクト「心神」が一気に加速したという。

  「心神」試作機は2010年には製造に入り、2012年には初飛行の見込みという。防衛省の防衛技術研究本部は、「日本の優位点」をこう指摘する。「スマートマキンや多機能RFセンサー、光ファイバーを使ったフライ・バイ・ライトなどのアビオニクスや電子機材、新素材の分野。これらをシステムとして統合することにより、『心神』は他の戦闘機を上回るステルス戦闘能力を保有することが期待されている」 (『朝雲』同上) 。私もこれを読み説く能力はないので詳しい方に譲るが、はっきりいって、米国のF22よりも優秀であるといいたいようである。日本は米国製F22よりも優秀な最強のステルス戦闘機をもつことになるのか。これは米国にとっても脅威になるだろう。次期支援戦闘機(FSX)の時の「国産化」問題では、かつての「零戦」を作る能力を日本がもつことへの危惧を米側は確実にもった。今度は、次期主力戦闘機(FX)で同じような問題を抱えたわけだが、これは90年代とは歴史的局面を異にするとはいえ、「日向」「蒼龍」ときて、「心神」と、いつの間に、自衛隊は、本格的な「新日本軍」になりつつあるのか。早晩、「大和」「武蔵」「信濃」「紀伊」の復活もあるのか。そして、「心神」にはこっそりと、初の国産戦闘機ということで「零戦」というニックネームが用意されているのかもしれない。

  年明けからきな臭い話になったが、4年前もオリンピックの「年のはじめに武器の話」を連載したときの官房長官は福田康夫氏、防衛庁長官は石破茂氏だった

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