二つの“22”とニッポン  2007年6月11日

回は、最新鋭のステレス戦闘機F22Aラプターと、海兵隊の高速強襲輸送機MV-22Bオスプレイに注目したい。ともに“22”という番号が付く。いま、この2つの“22”が、日本の平和と安全にとって重大な意味をもっている。

  4月27日、たまたまテレビのニュースをつけると、見慣れない飛行機の着陸シーンをやっていた。「嘉手納基地にF22Aラプター」というテロップ。航空自衛隊の戦闘機と空中対戦訓練をやるというのだ。軍事のことに詳しくない方のために解説しておくと、FFighter(戦闘機)。朝鮮戦争で初めて本格的なジェット戦闘機が使われたが、それがF86だった。この米軍のおさがりを、長らく空自は主力戦闘機として使った。次いで、「最後の有人戦闘機」といわれ、実際そうはならなかったF104。続いてF4Eファントム、そしてF15イーグルと、「空自の花形」は変化していく。米軍が「次は何にしようかな~」と新機種に目移りしはじめる頃に、一世代前のものを、値切りもせず、たくさん買ってあげる。日本は実に「素直な上客」であり続けている。このニュース映像をみて、これは、「売り込み」のデモンストレーションではないかと思った。ちなみに、B29B52というBBomber(爆撃機)、FA18ホーネットは、Fighter and Attackerで戦闘攻撃機である。日本は「専守防衛」の建前があるため、B52のような戦略爆撃機の保有はできないとしてきた。FAタイプもあるファントムを導入する際、爆撃装置を外すということも行われた。旧社会党など野党の要求に応えたものだった。その後、「支援戦闘機」(FS)という言い方で、実質的には対地攻撃能力を日本は持ってきた。しかし、航続距離の長い、強力な対地攻撃能力のある機種の採用には抑制がかかってきた。

  F22Aラプターは、レーダーに探知されにくいステルス性をもつ最新鋭戦闘機である。最大速度マッハ2.42、巡航速度マッハ1.72、航続距離3193キロ。固定武装は20ミリ機関砲。空対空ミサイルを最大で6発、対地攻撃能力として、1000ポンド誘導爆弾2発、あるいは100~250ポンド誘導爆弾8発などが搭載可能という。レーダーに探知されず、「敵国」の奥深く侵入して、心臓部を誘導爆弾で攻撃するFA機能も持っている。もちろん、核爆弾も搭載可能だから、最強の核攻撃力になる。なお、「ラプター」(raptor)とは「猛禽類」「略奪者」の意味である。
   2006年夏にアラスカで行われた模擬空中対戦訓練では、F15、F16、FA18 が144機撃墜されるまで、F22は1機も撃墜されなかった。訓練が終了するまでにF15などは241機も撃墜されたが、F22はたった2機しか撃墜されなかったという(韓国『朝鮮日報』2007年2月17日コラム「もし世界最強F22が日本に配備されたら」)。こういう数字はにわかに信じることは危ないが、相当な「すぐれもの」であるというイメージは定着しつつある。

  前述のように、4月26、27日の両日、このF22と空自との空中対戦訓練が行われた。南西航空団(那覇基地)のF4EJファントム4機、第6航空団(石川県小松基地)のF15J4機、飛行警戒管制隊(静岡県浜松基地)の早期警戒管制機(AWACSE-767が参加した。『琉球新報』4月27日付によると、対戦した6空団の2空佐は、F22について「すばらしい。見えにくい、機動性はいい。いい訓練ができた。ステルス性でわれわれの感知能力に影響を受けた」と語ったという。この訓練は当初米軍側の予定になく、空自側からの強い要請で実施されたといわれている。F15をもつ空自から見みれば、北朝鮮空軍は敵ではない。その空自は、中国空軍にとってはすでに相当な脅威である。
   今回の訓練が、実際、どんな内容だったのかは伝えられていないが、おそらくファントムなどは相手にならなかったに違いない。だから、空自はF22に「完敗」してみせて、日本もF22に切り換える要求を出す機会にしたかったのではないか。

  実際、米『ワシントンタイムズ』4月20日付は、「日本は最大100機のF22戦闘機購入を希望しており、ブッシュ大統領と安倍晋三首相が来週行う日米首脳会談で話し合われるだろう」と報じた。これに中国や韓国は敏感に反応した。韓国の『朝鮮日報』4月27日付社説は「北東アジアに日章旗をつけたF22戦闘機が出現する」という派手な見出しで、米国の報道を伝え、いま韓国は、北朝鮮からの脅威と同時に、中国の日本との激しい軍拡競争のはざまに立たされるという「二重の困難に直面している」と書いている。『ワシントンタイムズ』の報道について、安倍首相は否定も肯定もしていない。3000キロも航続距離をもつ、レーダーに映らない対地攻撃機を日本が100機も保有する。これはまだ推測かもしれない。しかし、そうした情報が流れるだけで、集団的自衛権行使を可能にする強引な解釈変更や、9条2項削除への「新憲法」制定の動きなど、安倍首相が進める諸政策によって、日本は、周辺諸国に「脅威」と感じられる存在になりつつあることは確かだろう

  そもそもF22 は、ロッキード・マーチン社が製造するもので、1機240億円ともいわれている。F15の2倍近い。100機も買えば、2兆円を超える。『朝日新聞』6月4日付「時時刻刻」は詳しい分析を載せ、F22導入にはまだ高い壁があると伝えつつ、「総額1兆円?」と書いている。なぜ、こんな高価なものを、日本がもつ必要があるのか。

  思えば30年前、ロッキード事件が起きた。あの事件では、ロッキードP3Cオライオンという対潜哨戒機の導入も絡んでいた。その後、「シーレーン防衛」などがいわれ、P3C100機体制が決まった。1機130億円以上する最新鋭の対潜哨戒機。広大な国土を持ち、周囲を海で囲まれたオーストラリアですら10数機しか持っていないのに、同じく周囲を海に囲まれているとはいえ、オーストラリアに比べれば「小さな島国」である日本が、なぜ、こんな高額の対潜機を100機も買うのか、ということは、当時、あまり問題にされなかった。だが、ロッキード社は日本という「上客」のおかげでものすごい収益をあげたわけである。P3Cの役割は、「日本防衛」というよりも、旧ソ連の攻撃型原潜を捕捉して、米国のトライデント型原潜が安定して核攻撃海域に潜むことができるようにすることだった。そういうロッキードとの歪んだ関係を、30年もたって、再び「100機体制」でつくろうというのか。この30年の間に、冷戦は終わり、もはや旧ソ連のような空軍力は存在しないというのに。

  「日米同盟」至上主義者たちにとっては、米国や米軍のやることなすこと、持つもの捨てるもの、全部丸ごと肯定するのだろうが、アジアの周辺諸国から見れば、在日米軍基地にどんな部隊が配置され、装備がどのように更新あるいは新規採用されるのかは、重大な関心事である。なぜなら、それが、最終的には米軍の軍事介入能力として、いつか自国の上空に来るかもしれないからである
   三沢の第35航空団には、F16の戦闘飛行中隊(第13と第14)がいる。嘉手納の第18航空団には、F15イーグルの部隊が常駐する。そして、山口県の岩国基地には、第1海兵航空団第12海兵航空群のFA18がいる。これら三つの基地だけでも、飛行機の性能からすれば、アジア一強力な航空部隊が展開するわけである。そこへもってきて、米軍のF22が那覇基地に常駐を始める。これだけで、周辺諸国、とりわけ中国には脅威になるだろう。それだけではない。実は、もう一つの“22”が沖縄に配備されるのである。

  普天間基地の移設先とされる名護の新基地は、MV-22オスプレイの基地となる。MV-Bオスプレイ。ボーイング社とベル・ヘリコプターの共同開発の大型双発ティルトローター機である。離着陸時はヘリコプターになり、上空に行くと、機体の上部を向いていたプロペラが水平になって、普通のプロペラ機のように高速で水平移動していく。ヘリと飛行機の機能を兼ね備えた「すぐれもの」である。1997年から量産型が飛びはじめたという。海兵隊部隊を110海里(204キロ)遠方に垂直強襲させる。水上からの上陸作戦だけでなく、垂直強襲により、敵が反撃するのが困難な夜間に大量の部隊を一気に上陸させることができる。オスプレイは「高速強襲輸送機」といわれ、「殴り込み部隊」としての海兵隊の強襲力が格段にアップしたとされる(以下のデータは、「米海軍・海兵隊改革『シー・パワー21』」⑪『軍事研究』2006年9月号参照)。最高巡航速度504キロ、兵員搭載時の戦闘行動距離は448キロ、上昇限度は7620メートル。搭載能力は兵員24人、6.8トン(機外吊下)。155ミリ榴弾砲を吊り下げたまま128キロ以上も空輸できる。通常、従来のヘリを使った空中強襲作戦では、重火器が使えず、歩兵部隊の火力は迫撃砲どまりだったが、これで格段に向上したようだ。海兵隊の歩兵大隊(兵員975人)を空輸(距離75海里)する際、オスプレイ飛行隊1個(12機)を使い、4回の飛行で3時間以内に空輸できるという。もちろん、オスプレイはヘリのように発艦できるので、1個飛行隊を航空母艦に乗せて活用できる。オスプレイが常駐する名護の基地は、中東に向かう空母部隊と運用されるだろうから、文字通り、極東における「殴り込み」部隊の重要拠点となる。2007年9月から、オスプレイの部隊である、海兵隊第263ティルトローター中隊(VMM263)がバクダッドに派遣されるという報道もある。今後、名護の基地は、海外遠征軍の活動を支える、新しいタイプの基地として機能していくだろう。

  沖縄の各紙は、このオスプレイの動向に敏感である。例えば、普天間基地移設後の、名護の海上ヘリ基地の問題でも、重要な事実が隠されていたことが判明した。1997年の名護市民投票の時は、政府はオスプレイについて、「具体的な配備計画は承知していない」と繰り返していた。ところが、96年のSACO最終報告草案のなかには、MV-22Bオスプレイ配備計画が含まれていたのだ。それを政府が7年間隠していたことが、共同通信により、米側公文書などによって裏付けられたと共同通信が配信した。沖縄の地元紙は一面トップで伝えた(『沖縄タイムス』4月5日付など)。ところが、本土の新聞にはこの記事は、『東京新聞』と『中国新聞』を除けば、ほとんど載らなかったようである。オスプレイが配備されるか、されないか、なんて本土の人には関心がない。しかし、この飛行機は、凄まじい騒音を発する。沖縄の関心が高いのは当然だが、なぜ、本土のメディアは、この飛行機の機能や意味について伝える必要性を感じないのだろうか

  私は、F22MV-22こそ、小泉前首相がいった「世界のなかの日米同盟」、安倍首相がさらに踏み込んだ「グローバルな日米同盟」というものを装備の面から裏付けるものだと思う。これについて、もっと関心をもつべきだろう。というのも、私は、安倍首相の集団的自衛権行使や改憲への異様なこだわりの背後には、米国の強い要請があると見ている。

  特にアーミテージ・レポートⅡ(「米日同盟――2020年のアジアを正しく方向づけるために」)は、その方針が鮮明に出ている。同レポートは、憲法の問題が「同盟国の共同作戦に対する制約が存在し、我々の共同作戦能力を制限していることを認識している」として、日本がこの問題を「解決」(改憲)すれば、「米国は、我々が共有する安全保障上の利益が損なわれる場所で交戦する自由をもった同盟パートナーを歓迎する」と述べている。「我々は、米国と日本が2020年まで地球上の全ての平方フィートでの生活に文字通りに影響を与える経済的、軍事的な手段を備えた最も重要な二つの民主主義国であり続けていることを期待する。同盟は負荷と責任を背負い、かつ、我々の構想にしたがって同盟としてグローバルな約束のための戦略を必要とする」と、期限まで明確にしている。
   そして、アーミテージ・レポートⅡは、各論的に、詳細な対日要求をあけすけに列挙している。そのなかに、「別紙・安全保障と軍事における協力」というのがあり、これは個々の装備の具体名まで挙げて、売り込みがなされている。「米国はF22の飛行隊を可能な限り早期に日本に配置するべきである。米国は、日本の航空自衛隊がF18E/FF22F35、及び/または現保有のF15の性能向上型を含めて、米空軍の最新鋭戦闘機を導入できるように取り組むべきである」(以上、『朝雲』2007年5月17日付の翻訳による)。
   これは露骨である。ロッキード社などから高額な買い物をしろと要求しているようなものだ。陸上自衛隊が新編した「中央即応集団」。この主力である中央即応連隊の高速移動に、MV-22Bオスプレイを使う。そのため、日本も導入を検討ということも決してあり得ない話ではない。

  なお、ウォルフォヴィッツ国防副長官(当時)は、海兵隊だけでなく、オスプレイを陸軍にも空軍にも使わせようと、すごい売り込みをやったという。ボーイング社との関係も含めて、何やら怪しい空気が漂っている。彼は世界銀行総裁を辞任したが、オスプレイもまた、米政権のなかのさまざまな力学が反映している。米国内での売り込みがむずかしくなれば、日本に買わせればよい、と。ミサイル防衛構想(MDだけでなく、2つの“22”を含めて、日本国民の税金は米国軍需産業に狙われているのである。ロッキード事件から30年。安倍首相とそのお友だちは、ネオコンと米国軍需産業のエージェントではないか、とまで疑りたくなる昨今の言動ではある。

  世界のどこへでも一緒に行き、どこででも、日米は交戦権を行使して、共通の利益を守る。こういう方向に、前のめりで進んでいっていいのか。まさに「グローバル安保体制」である。8年前に共編著として出した『グローバル安保体制が動きだす』。このタイトルは私の発案だが、実に先取り的であったと、いま、思う。

  この6月から住民税があがった。いずれ消費税もあがるだろう。年金をめぐる不安は拡大する一方である。ドイツは年金の支給年齢を67歳にするが、日本もいずれ後を追うだろう。踏んだり蹴ったりの庶民は、私たちの税金がどのように使われるかについてもっと関心をもとう。2つの“22”についても同様である。北朝鮮の脅威だ、中国の海洋軍拡だといっているうちに、いつの間にか、ロッキードやボーイングといった軍需産業に日本国民の税金が流れ込んでいく。

  石橋湛山(元首相、自由民主党第2代総裁)はいう。「わが国の独立と安全を守るために、軍備の拡張という国力を消耗させるような考えでいったら、国防を全うすることができないばかりでなく、国を滅ぼす。したがって、そういう考えたをもった政治家に政治を託するわけにはいかない」(『石橋湛山評論集』岩波文庫)。自由民主党第21代総裁の安倍晋三首相は、いま、この国の「国力を消耗させ」、「国を滅ぼす」方向に、強引に舵をきっている。そして、自由民主党第“22”代総裁となる者と(その者が首相とならない選択肢も含めて)、アメリカ合衆国第“44”代大統領となる者が、転舵を握っているだろう。

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