「緊急直言」 イージス艦、漁船轟沈  2008年2月21日

88年7月28日午前9時、衆議院第1委員会室。運輸、内閣、交通安全対策特別、安全保障特別の各委員会(名称はいずれも当時)の連合審査会が開かれていた。政府側から竹下登首相、瓦力防衛庁長官らが出席。「なだしお」事件についての集中審議だった。質問に立った冬柴鉄三議員(公明党)は、次のように政府を追及した

冬柴議員:航行について優先権を持っていたのは明らかに第一富士丸であって「なだしお」ではない。これははっきりしていると思うわけですけれども、その点についてはいかがでございますか。

山田隆英海上保安庁長官:現在、捜査の対象でございまして。コメントを差し控えさせていただきたいと存ずる次第でございます。

冬柴議員:潜水艦では艦長を含む4名が見張りをしていたようでありますけれども、その4名は、第一富士丸の位置や速度あるいは進行方向などの状況をだれが見張り、どう伝達し、艦長はこれをどう把握して再度前進を命じたのか。

長谷川宏防衛庁教育訓練局長:その点につきましては、今調査中でありますのでお答えできません。

  7月23日(土)午後。横須賀港沖の浦賀水道で、海上自衛隊第2潜水隊群所属の潜水艦「なだしお」が、釣船「第一富士丸」と衝突。同船は沈没して、客ら30人が死亡した。この事故では、「なだしお」が第一富士丸を初認した時点で回避行動をとらず、近づいてきたヨットに気をとられ一時減速するも、ヨットが離れると再加速して、浮上航行の最大速力12ノットにほぼ近い、10.7ノットで前進を強行したことが問題となった。
   「いつも漁船側が避けてくれるので、今回も避けてくれると思った」と艦長は海上保安庁の取り調べで供述したという。事故後、釣り客たちが助けを求めて波間に漂うにもかかわらず、後進一杯のまま衝突現場を離れ、緊急通信(メーデーと呼びかける国際緊急無線周波数)も行わず、遭難信号(海上衝突予防法37条に規定)も発しなかった。横浜海上保安部への事故通報は21分も遅れた(以上、浦田賢治ほか『釣船轟沈――検証・潜水艦「なだしお」衝突事件』昭和出版、1989年。写真参照)。
   これについて海難審判が行われ、高等海難審判庁は「なだしお」の衝突回避措置の遅れなどを厳しく指摘した。

  冒頭に紹介した冬柴議員の質問は、問題のポイントをついている。その冬柴議員は20年後のいま、国土交通大臣として、海上保安庁を指揮監督する立場にある。そして、不幸は繰り返された。
   「なだしお」事件20周年を目前に控えた2月19日午前4時7分。イージスシステム搭載ミサイル護衛艦(DDG)「あたご」(艦番号177)が、マグロ延縄漁船「清徳丸」と衝突した。船長とその息子が冷たい冬の海に投げ出され、行方不明になっている(2月21日現在)。
   「あたご」の名は京都府の愛宕山(標高924メートル)からとったもので、舞鶴の第3護衛隊群所属。14DDGとして予算は1453億円で、竣工は昨年3月15日。基準排水量7750トン、全長165メートルである。ハワイ沖でのミサイルの発射実験を終えて、4カ月ぶりに帰投するところだった。
   なお、戦前・戦中の「愛宕」を冠する艦は、「八八艦隊」の巡洋戦艦として計画されたものがあるが(建造中止)、重巡洋艦として就役したものが有名である。1944年レイテ沖海戦開始時、栗田健男中将座乗の第2艦隊旗艦であり、栗田艦隊はフィリピンの日本軍を支援することなく帰投した。「謎の反転」と呼ばれるこの行動と、今回の事件が、皮肉にも名前からも印象に残る

  横須賀海上保安部は捜索令状をとって、19日夜から「あたご」に捜索をかけ、航海日誌など27点を押収した。インド洋上における米艦への給油量偽装や、補給艦の航海日誌の破棄などの「前科」があり、海自による証拠隠滅の可能性はきわめて高かった(「テロとの戦い」も結局、国益のためと『朝雲』2008年1月31日付が書いている)。しかも、最高度の「防衛秘密」をもつ最新鋭イージス艦である。海幕が抵抗するのは目にみえていた。「事故当日に海保が強制捜査に乗り出す異例の展開」(『読売新聞』2月20日付)といわれるように、海上保安庁の機敏かつ断固とした動きの背後には、報告の遅延に怒っ た石破防衛大臣の腰が完全に引けていたことと、20年前の自らの国会質問を想起したであろう冬柴国土交通大臣の腰の座り具合があったのかもしれない。「防衛秘密」の壁にたじろぐことなく、徹底した捜査と調査が求められる。

  それにしても無残である。「清徳丸」は船首部分と船尾部分だけが曳航されたが、肝心の操舵室の部分がみつからない。イージス艦の鋭い舳先(へさき)によって切り裂かれ、操舵室が乗組員もろとも海底に没したと思われる。浸水が始まり沈没するというようなものではなく、瞬時の「轟沈」である。「あたご」は基準排水量7750トン、全長165メートル。「清徳丸」は7トン、全長12メートルである。海上では豆粒ほどにしか見えない。1000対1の違いがある。
   たとえていえば、陸上自衛隊の87式偵察警戒車(重量15トン)が住宅街を高速で走行中、横断歩道をわたる親子二人乗りの自転車を跳ね飛ばしたようなものである。自転車は重量が15キロから17キロだから、1000対1というのはこのくらいの感覚だろう。私は北海道で、82式指揮通信車(重量13トン)の横を通ったことがあるが、巨大な装輪はすごい圧迫感があった。一般道では当然に速度を落とし、車長が上半身を出して周囲を目視で確認しながら走行する。信号機がなく、道幅が同じで優劣関係のない交差道路の場合、左から来る車が優先する(道路交通法36条)。「左方優先」である。自衛隊の車両も交差点の手前で停止して、左からの車を通す。

  海の場合も同様のルールがある。海上衝突予防法15条は「二隻の動力船が互いに進路を横切る場合において衝突するおそれがあるときは、他の動力船を右げん側に見る動力船は、当該他の動力船の進路を避けなければならない」と定める。「他の動力船の進路を避けなければならない動力船」のことを「避航船」といい、「当該他の動力船から十分に遠ざかるため、できる限り早期に、かつ、大幅に動作をとらなければならない」(同法16条)。他方、「避航船」でない側の動力船のことを「保持船」といい、「その針路及び速度を保たなければならない」(同法17条)。「あたご」は「清徳丸」を右に見る位置を航行していたから、「避航船」にあたる。同法14条は、二隻の動力船が衝突するおそれがあるときは、「各動力船は、互いに他の動力船の左げん側を通過することができるようにそれぞれ針路を右に転じなければならない」と定める。あらかじめこのように決めておくことで、瞬間的に迷うことなく一気に右に切れば、お互いにスレスレのところで衝突を回避することができる。どちらかが少しでも迷い、左に切るようなことがあれば、衝突する。「あたご」には右げん側に傷がついている。これは何を意味するのだろうか。今後の捜査や調査で明らかにされるべきポイントである。

  「なだしお」事件のとき、冬柴議員が指摘していた「見張り」の問題はどうか。「あたご」は世界有数の防空システムを持っていながら、船舶等を映す水上レーダーはどの程度のものだったのか。高度の「防衛秘密」を理由に、あれこれいわれているわりには、本質的な情報がない。海幕長は、漁船がレーダーで確認できていたのかどうかについては明言を避けた。「清徳丸」を発見した1分後に後進をかけている。船の場合、全速後進をかけても、車の急ブレーキのようにはいかない。何百メートルも進んでしまう。「なだしお」も後進一杯で衝突現場から遠ざかった。今回もまた後進である。このあたりも事実究明が待たれる。

  なぜ、もっと早く漁船を認識できなかったのか。300〜400メートルより近くになるとレーダーは役に立たず、もっぱら乗務員の目視に頼るという海自関係者の発言がテレビなどで報道されている。その程度の能力ならば、戦争末期に私の父が訓練させられていた、ベニア板の特攻艇「震洋」のような船で自爆攻撃されたらどうするのか

  なお、イージス艦については、テロ特措法で「きりしま」派遣がいわれたときに一度書いたことがある。高度の防空能力があり、フェーズドアレー・レーダーを備え、同時に十数個の航空機やミサイルに対処できるという。こんな高価なものを冷戦が終わってから揃える。すでに「こんごう」型は4隻揃 え 、さらに「あたご」型を2隻増やそうというのだ。今回のは5番艦である。ミサイル防衛との関係で、次々に高価な装備が増えていく。自衛隊法82条の2「弾道ミサイル等に対する破壊措置」もあり、「テポドン」を理由に、こうした高額兵器が増えていく。換装の費用もどんどんつく。ロッキード・マーチン社のシステムが導入され、艦橋部分には、自衛隊員でも入れない機密地区があると聞く。イージス艦の防衛秘密漏洩事件について米国が怒るのには理由がある。米核戦略の構成部分にあたるものが、そこにあるからだろう。一体、このイージス艦はどこの国のものなのか。「某国のイージス」、つまり「米国の、米国のための、米国によるイージス」なのか。これこそ、日本国民の税金の超無駄遣い、まさに「亡国のイージス」である(同名の駄作映画とは無関係)。

  護衛艦「しらね」の火災(2007年12月14日)も、隊員が中国製保冷温庫を無許可で持ち込み、そこから出火した(『毎日新聞』2月19日付1面スクープ)。お粗末なり。修理に50億円かかるという。16DDH「ひゅうが」という空母のような艦も、いつの間にか保有してしまった昨年12月に命名・進水式を終えた2900トン型の最新潜水艦は、何と「そうりゅう」である。イージス艦は1400億円で6隻。三菱重工業などの日本の軍需産業と米国の軍需産業の「随意契約」、構造的「水増し」である。そして、高額な装備購入の背後で腐敗は確実に進んでいた。倫理監督官だった守屋武昌前事務次官の事件を含めて、「水増し」「癒着」「偽装」の構造の一端が明らかになっている

  沖縄で起きた米兵による少女暴行事件も根っこは同じである95年沖縄、92年韓国も)。規律の緩みや、再発防止策の問題だけでは済まされない。より本質的には、「殴り込み部隊」である海兵隊がそこにいるから、である。軍事基地があるから起こる04年沖縄米軍ヘリ墜落01年 「えひめ丸」と米原潜との衝突も想起される)。
   同様に、自衛隊を軍隊にするという政治の動きのなかで、「軍事的なるもの」が我が物顔に振る舞うようになってきた「おごり」が、今回の事故の根っこにある。「そこのけ、そこのけ軍艦が通る」の感覚で、漁船や民間船がよけるだろうと想定した航行姿勢。今回もイージス艦は直進を続けた。今後の捜査で明らかになるだろうが、「なだしお」の艦長のように、「いつも漁船側が避けてくれるので、今回も避けてくれると思った」という感覚がなかったとはいえまい。

  「なだしお」事件から20年。この間の自衛隊の変容を象徴する装備がイージス艦である。「テポドンが不安だからイージス艦は必要」といった「思考の惰性」を断ち切るべきである「平和憲法の具体化で実現したい海の平和」船員しんぶん2003年6月26日も参照〔PDF〕)。目的と手段を合理的に考えれば、北朝鮮と対峙するのにイージス艦が役立つのか。新宿御苑にPAC-3を配備することが有効なのか。愚かな「質的軍拡」への道をやめて、思い切った「防衛費」削減と軍縮に向かうべきときである。

 

【付記】予定していた「直言」は、次回(3月3日)ないし次々回(3月10日)にUPします。

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