雑談(75)「食」のはなし(15)チャーハン
2009年11月30日

動の「9」の年、2009年もあと1カ月となった。内外ともに大きな事件が続く。それについてコメントすることが求められるが、今回はまったく時間がとれない。そこで、ストック原稿「雑談」シリーズをUPすることにしたい。今回は「『食』のはなし」の15回目である。前回は「戦闘食」について語った。今回は、まったく個人的な話で、しかも「早大ローカル」な話題について語ろう。

第5回でラーメンについて書いたが、今回はチャーハンである。「炒飯」「焼き飯」「炒めご飯」等々、呼び名はいろいろだが、冷やごはんがあって、肉や野菜、卵があれば、簡単にできる。実に便利な食べ物だ。90年代前半の5年間、広島で単身赴任生活をしたが、その間、たびたび作っていた。カニの缶詰をもらったときは、一缶全部を使って豪勢な「北海焼き飯」にしたこともある。肉野菜炒めを作って、面倒なのでそれにご飯を加えて、焼き肉炒めご飯になったことも。ご飯の量が少なくとも、具財によって結構ボリュームが出る。不思議なのは、適当な余り野菜とご飯でも、炒めてしまうと意外に食欲を満足させてくれるところだ。「炒める」と、なぜかくも美味しくなるのか。ただ、パラパラっとした感覚の、本格的な炒飯(チャーハン)を作るのは、存外むずかしいと思った。「炒飯の素」を使っても、なかなかうまくいかなかった。また、プロの中華料理店でも、「これは美味しい!」というものになかなか出会わない。

講演のあとの懇親会やさまざまな会合で、中華料理のフルコースを食べることが年に何回かある。たいていの場合、コースの終わりの方に、器に盛られたチャーハン(炒飯)が出される。けれど、どんな高級店でも、納得のいくチャーハンにお目にかかったことがない。それ以外の料理がどんなに見事でも、この素朴な料理で、私が納得することはこれまでなかった。

だが、私個人として、「これぞ一番おいしい」というのがある。早稲田鶴巻町の「西北亭」の「チャイナチャーハン」である。スープ付で630円。地下鉄早稲田駅から大学の方に向かい、早稲田大学前郵便局の先、交差点の角にある。何の変哲もない、驚くほど普通の小さな中華料理屋である。外見は、私が学生だった30年以上前とほとんど変わっていない。店内はたいして広くもなく、10人も座ればいっぱいになる。おやじさん一人が料理を作り、おばさんが一人で注文を聞いたりして、切り盛りしている。ランチ時に、手伝いのおばあさんが一人加わるだけ。そんな学生街の大衆中華料理店なのだが、ここの「チャイナチャーハン」が実はおいしい。今まで食べたどこの高級飯店のものよりも美味なのである。昭和レトロの「世界遺産級」と激賞するブログもある

また、これを作るときのおじさんの姿がすごい。大きな中華鍋に油をしき、ご飯と具を入れて、ガッ、ガッ、ガッと力強いリズムで炒めていく。そのリズムが一定していて、まったく揺るぎない。今まで一度もその声を聞いたことがないほど、寡黙な人である。ひたすら鍋をゆすりながら、力強くかきまわしていく。客の注文に応じて、続けて作るときでも、かける時間とリズムがほとんど同じなのには、いつも感心させられる。米の一粒一粒に満遍なく油やうま味が浸透し、しかも熱が均等に行き渡り、口に入れたときに思わず、「ホッ、ホッ、ホッ」というくらいになっている。おばさんは、これを運んでくるとき、「お熱いので注意してください」と必ずいう。なお、ニラがたっぷり入っているので、その後に仕事(会合)やデートを控えている人は注意を要する。

客層は、学生よりも普通のサラリーマンの方が多いようだ。社会人になった元学生がブログに写真入りで紹介しているのをたまたま見つけた。それによると、おばさんは83歳だそうである。まったくそうはみえない。なお、営業時間は11~22時、定休日は月曜である。

続けて「早大ローカル」で恐縮だが、私が昼休みに通うのは、オムライス専門店や、和食の店「紅梅」、その近くの「御料理さど」である。海鮮・野菜をふんだんに煮込んだ鍋焼き風カレーうどんか、煮込みハンバーグがおすすめである。なお、授業の合間などにブラッと入った茜屋珈琲店が、この3月に突然閉店した。この店については、6年前に「『食』のはなし(6)珈琲」で紹介したことがある。サークルのポスターや企画の記録、古い書籍などにまじって、拙著『憲法「私」論』も店内に置いてあった。店主は早稲田かいわいの名物男のYさん。大学の行事には、近隣商店街の中心として参加しておられた。この方から伺った話を直言で紹介したこともある。だから、突然の閉店にはびっくりした。学生たちも驚いたようである

エジプト料理の「パピルス」も9年前に閉店「炒り卵丼」で知られた「みづ乃」も、3年前に閉店した。早大周辺の商店街は、私の学生時代とは大きく変わったが、ここ数年でまた変わりつつある。早稲田界隈の古くからの店が少しずつなくなっている。先日、たまたま法学部の建物内で、「みづ乃」のご主人にばったり会った。3年ぶりである。立ち話をしたが、店を維持するには年齢的に大変になったということだった。いい店だっただけに、残念である。ということは、83歳のおばちゃんが手伝う「西北亭」のチャーハンも…。早速、明日の昼に行ってみることにしよう。

《付記》
大隈講堂の先で、私が学生時代から営業してきた西北亭は、2017年12月28日をもって閉店しました。その数日前に食べにいき、おばさんに「ありがとう」と声をかけてきました。早稲田の近くにうまい店があったのを存外知らない。これを「ソウダイもとくらし」という洒落が使えなくなりました。

本文中のブログがリンク切れになりましたので、写真を入れ替えました。西北亭をGoogle検索するとグルメサイト等の読者投稿が出てきます。「早稲田の昭和中華の名店『西北亭』」に挙げられています。(2022年10月18日追記)。
トップページへ