G8にトーネード  2007年6月18日

週のF22とオスプレイに引き続き、飛行機の話から始める。3機目は「トーネード」(Tornado: 竜巻)。独英伊3カ国共同開発の多目的機である。 6月2日、ドイツ北部のハイリゲンダム(ロストック近郊)で行われた主要国首脳会議(G8)の際、反グローバル運動のデモ参加者のキャンプ(Reddelich)上空を、ドイツ連邦空軍のトーネードECR(電子戦闘偵察型)が低空飛行(Tiefflug)をして、写真撮影した(Der Spiegel, 13.6.2007, DW-WORLD.DE14.6〔英語〕)この低空飛行が行われたのは6月5日午前11時頃。デモ隊上空の滞在時間は1分22秒、飛行高度は116メートル(許容限度は150メートル)であった。野党「緑の党」議員団長は、「トーネードの出動は基本法に違反する」と非難した。また、社会民主党(SPD)外交担当は、「憲法上は問題ないが、政治的に無分別で挑発的である」と批判。「デモ隊はタリバンではない」と述べた。

  「デモ隊はタリバンではない」という批判の背景には、ドイツ政府が、今年2月、トーネード6機(要員500人)をアフガニスタンに派遣したことがある。NATOと米国は、戦闘が激化したアフガン南部へのドイツ軍派遣を強く要請。しかし、憲法上の制約を理由に戦闘出動に抑制的であり続けたドイツは、偵察機による地上撮影ということで乗り切ろうとしたわけである。アフガン南部のタリバン勢力を上空から撮影し、米軍が砲爆撃を行う際のデータを提供する。こうした任務は、実質的には戦闘参加と変わりはない。ただ、攻撃兵器のない、偵察仕様のトーネードの派遣は、現在の「対テロ戦争」に対するドイツの微妙なスタンスを投影していることは確かだろう。

  さて、G8である。安倍晋三首相を含む各国首脳たちの滞在期間はわずかだったが、それにぶつけて、全世界から反グローバリズムのグループが集まった。この写真は、ドイツの市民グループから送られてきたポスターである。6月2日にロストックで、国際的なデモを呼びかけたものである。地図の上に、「もう一つの世界は可能だ」とある。毎回の「サミット」ケルン沖縄…)、G8は、国連加盟192カ国のうちの4%にすぎない8カ国だけで、世界のことを決める。そこに「対案」をひっさげて、世界中から多くのNGOや市民グループが集まり、デモを実施してきた。「お金持ち」G8に対抗して、「貧しい国」「貧しい人々」の主張を反映させよという、「グローバルな直接民主制」的運動である。「グローバルな社会権」なんて「要求」もある(M. Jäger, Vollendung ohne Ende : Globale soziale Rechte, in: Freitag vom 1.6.2007。この機会に、混乱状態をつくり出し、暴力的な自己主張を展開するグループもいる。とにかく、さまざまな想いや目的をもった人々がハイリゲンダムにやってきた。そこに集まった8万人のうちの約3分の1が、ドイツ以外の80カ国からきたという。8カ国首脳も揃い、一瞬ではあったが、6月初旬、ここは世界の中心になったわけである。

  ハイリゲンダムは、バルト海(Ostsee)に面した風光明媚なところだ。8年前のドイツ滞在中、ポーランドなどあちこちをまわったが、娘の要望で、ここより少し西寄りのバルト海沿岸に「海水浴」に来たこともある。寒かった(苦笑)。 そのハイリゲンダムはG8に備えて、5月から厳重な警備態勢に入った。16000人の警察官が出動。2隻の海軍艦艇も沖合で「警備任務」についた。基本法(憲法)8条で保障されている集会の自由とデモの自由は厳しく制限された。会場となるホテルの周囲40平方キロは、G8期間中、完全な集会・デモ禁止の措置がとられた。12キロもの間に、鉄条網のついた鉄柵が張りめぐらされた。
   基本法8条1項「すべてドイツ人は、届出または許可なしに、平穏に、かつ武器を携帯せずに、集会する権利を有する」、同2項「屋外の集会については、この権利は法律により、または法律の根拠に基づいて、これを制限することができる」。「平穏に、かつ武器を携帯せず」(friedlich und ohne Waffen)という文言が重要である。デモの主催団体は、集会禁止の取消を求めて訴訟を起こしたが、地元の行政裁判所は、G8にあたって、集会の権利を「時(期間中)」と「場所(会場周辺)」において制限することは、集会の自由を保障した基本法8条に違反しない、という判決を出した。州行政裁判所もこれを追認した(Frankfurter Rundschau vom 2.6.2007)。
   8万人もの人々は集会を開いたり、デモを行ったりしたが、そのほとんどは平和的なものだった。ごく一部が暴徒化して、警官隊と衝突を繰り返した。メディアには、警官隊との衝突シーンばかりを流した。だが、このポスターを私に送付してきたグループをはじめ、ほとんどが、G8に「対案」を提示する真面目な集会やデモをやっていたのである。

  では、そうした人々の頭上低く、猛烈な騒音をまき散らしながら軍用機を飛ばす狙いは何だろう。写真撮影による情報収集という目的のために必要な手段だったのか。私は、「武力による威嚇」の効果を狙ったと思う。反グローバリズムの集会に参加すべく集まってきた人々は、すべて「犯罪者」と想定されていただけでなく、「国際テロリストの片割れ」と見なされていたわけである。
   SPDの内務担当は、トーネードを国内出動させたことのなかに、警察と軍隊の国内における分離をなくすという狙いを見て取る。そして、憲法上は問題はないが、政治的には「極端に無分別でかつ鈍感」と非難し、警察がヘリを使って偵察することもできただろう、としている。

  ある新聞の論説委員は「政治的低空飛行」というタイトルの解説記事で、もし、行方不明の子どもの捜索のためにトーネードを出動させたら、誰も反対しなかっただろうと述べ、職務共助は問題ないが、山火事や水害での出動の場合とは異なり、デモ隊の頭をかすめるように低空飛行する軍用機について問題を投げかける(FR vom 14.6)。トーネードは凄まじい騒音を出すことで知られている。外国から来ている人々にとっても、ドイツに対するイメージダウンはありうる。これが賢明な方法だったのかについては、デモ隊の暴徒化に対処する必要性は認めつつも、メディアでは批判的論調が有力である。

  これに対して、国防省は、警察では航空写真や赤外線写真は撮れないし、古典的な職務共助のケースであって、出動は許容されると反論している。暴力的なデモ隊やテロ攻撃の準備などを遮断するためにも必要な措置だったというわけである。だが、「緑の党」の防衛問題専門家は、この出動は、技術的な職務共助の限界を超えており、国防相は憲法を歪めていると批判する。「緑の党」は連邦憲法裁判所に提訴する方向である(以上、Vgl. Die Welt vom 12.6.2007; FR vom 14.6; tagesschau.de vom 16.6)。

  ドイツの場合、ハイジャックされた航空機を撃墜する権限を与えた航空安全法14条3項が、連邦憲法裁判所によって憲法違反とされた。この判決では、軍隊の国内出動の限界や官庁間の職務共助について触れられている。基本法35条1項は、連邦・州の官庁間の職務共助について定めている。すでに、2006年のワールドカップ・ドイツ大会の際、連邦軍がさまざまな場面で関わっている。この点からすれば、G8会場のあるメクレンブルク=フォアポンメルン州の州首相の依頼で、国防相がトーネードを飛行させたのは、憲法上は問題ないということになりそうである。だが、職務共助ないし官庁間協力の中身と性格の問題は残る。軍の場合、その国内出動について、厳格な制約がある。基本法87a条2項は、「軍隊は、防衛のために出動する場合のほかは、この基本法が明文で許容している限度においてのみ、出動することが許される」と規定する。基本法35条2、3項は、「自然災害または特に重大な災疫事故の場合」に軍隊の出動等を定める。この場合、警察で不十分だったのか。警察ヘリを使って、写真撮影することは十分可能だったという指摘がある。

  ベルリン・フンボルト大学のU. Battis教授(国法学)は、「G8トーネード出動はベトナム戦争を想起させる」というインタビューで、職務共助はオーデル川やエルベ川における水害での連邦軍出動には問題ないが、今回の出動には疑問を提示している(Netzeitung vom 14.6)。デモ隊の上空に軍用機が低空飛行をするのは、ベトナム戦争を思い起こさせるという。そして、このトーネード出動は、政治的に愚かな、あるいは無神経であるのみならず、憲法上の限界も超えていると指摘する。Battis教授は、暴動に走る運動を批判しつつ、これは意見表明の自由や集会の自由と合致しないことを述べ、「基本法が欲しない軍事化」へと通ずることに危惧を表明している。そして、連邦憲法裁判所がこれについて判断することに期待を表明する。連邦軍の海外出動と同じように、国内出動にも歯止めをかけることが求められるというのである。

  とにかく、連邦軍を国内出動させたい勢力が、政府と保守与党内にいる。とりわけ、連邦内相のW. Schäubleである。彼がもう少し若い頃は評価したこともあるが、近年では、基本法(憲法)を改正して、テロ対策を含め、連邦軍の国内出動の明確化する主張ばかりが目立つ。G8警備で連邦海軍艦艇を使ったことに関連して、保守与党内では、公海上でテロリストに対処する「予防的出動」のために基本法(憲法)87a条の改正主張まで出ている(Der Spiegel vom 4.6 .2007, S.16) 。

  では、日本はどうだろうか。米軍普天間飛行場の移設に向けた 名護市キャンプ・シュワブ周辺海域(辺野古崎沖)での環境現況調査(事前調査)に、海自潜水要員が参加したことが注目される。近海には掃海母艦「ぶんご」(MST464)が待機し、これを支援した。機雷除去ではないので、自衛隊法84条の2(旧99条)を根拠とする「出動」ではなく、防衛省設置法5条18号(調査・研究)あたりを根拠とする曖昧なままでの出航であった。掃海母艦は76ミリ砲を装備している。沖縄県知事は「銃剣を突きつけているような連想をさせ、強烈な誤解を生む」と「異例の激しさで批判した」という(『朝日新聞』〔西部本社版〕2007年5月19日付、『琉球新報』5月19日付)。この問題では、本土のメディアの関心はきわめて低かった。
   なお、6月14日、防衛施設庁の施設企画課長は、辻元清美衆院議員の質問に対して、「反対派の妨害行動も予想され、自衛隊の潜水能力を活用した方が作業が円滑に進むとの判断から、久間章生防衛相が命令を出した」と説明した。「自衛隊の協力は国民の権利、義務にかかわる行動ではなく、『出動』ではない」とも述べ、①治安出動、②防衛出動、③警護出動のいずれにもあたらないとした。掃海母艦「ぶんご」の投入については、「潜水士が潜水病になるなど、不測の事態への対応と支援」を挙げた(『沖縄タイムス』6月15日付)。
   また、これまでの警察と自衛隊との「棲み分け」に手をつける、自衛隊が市民社会の奥深く入り込む事例も発覚した。「情報保全隊」内部資料の発覚である(『朝日新聞』6月7日付など)。この問題は、別の機会に書くことにしよう。

     いずこにおいても、職務共助や官庁間協力というラフな説明を使えば、すべてが正当化されてしまう傾きにある。ドイツ基本法の場合でも、軍隊の国内出動は厳格な制約がある。職務共助を理由として、安易に敷居を低めるべきではない。日本の場合は、軍備そのものに対する厳格な禁止規範をもつ憲法のもとにあるからなおさらである。ドイツでも、日本でも、対外的「防衛」を「主任務」とする武力組織が、国内治安問題に「口を出す」場面が増えてきている。武力組織が、市民の運動などにも「威嚇的に」登場するのは、民主主義社会において健全なことではない。「デモ隊にトーネード」と「基地反対運動に掃海母艦」。この論点はあまり気づかれていないが、深刻な問題に発展する前に、きちんとした総括と問題の解明を行っておく必要があるだろう。     

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