「大根派」的発想のこと――新型戦車の「もったいない」  2008年8月25日

休みで地方に滞在している時、たまたまみた朝のワイドショーで、南アルプス市のさくらんぼ農園のことが出てきた。行ってみたいと家族にいわれながら、未だ果たせないできたので、何だろうと思ってみていると、関東経済産業局の職員61人が、2006年6月中旬、そこでさくらんぼ狩りをした。その費用27万円のうち、貸し切りバスの料金18万円を公費支出したというのである(TBS系、8月7日午前8時放送)。「福利厚生」のためというのだが、何ともみみっちい話ではある。18の機関が、69項目の「娯楽品」を税金で購入し、職員の「福利厚生」にあてていたことも明らかになった。
   番組では、その18機関が2006年度に支出したものを一覧表にしていたが、防衛省が突出して多い。2億1827万円もある。内訳は、マージャン牌、乗馬マシーン、ダーツ、カラオケ機材などで、一番金額的に多かったのが映画DVDであった(2082万円)。中川正春衆院議員(民主党)が調査したもので、番組の問い合わせに対して防衛省広報は、「隊員の福利厚生と教育・訓練のため」と回答したという。「教育・訓練」というなら、カラオケ機材は、「部外連絡協力」を円滑にするための訓練ということか。

  ここ数年、税金の無駄遣いというか、あきれるような使い道について、メディアで取り上げられる機会が増えた。医療や福祉の予算が大規模に削られ、その影響がジワジワと出ているときだけに、こうした税金の使い方への風当たりは一段と強い。当然だろう。しかし、番組内でキャスターが怒ってみせて、並び大名のコメンテーターが「そうだ、そうだ」と頷いても、それっきりである。もっと構造的な「もったいない」に目を向ける必要があるのではないか。

  そんなとき、滞在先に持参した『週刊金曜日』714号(2008年8月8日/15日合併号) を読んだ。特集は「徹底検証・ムダな兵器」だった。自衛隊の装備品のムダだけでなく、自衛隊そのものの「構造的なムダ」について詳しく分析したもので、なかなか面白かった。
   ダンボールに入れてきた、ジョセフ・E・スティグリッツ、リンダ・ビルムズ著『世界を不幸にするアメリカの戦争経済――イラク戦費3兆ドルの衝撃』(徳間書店)と、レン・カルディコット著『狂気の核武装大国アメリカ』(集英社新書)も一気に読了した。イラク戦争は、2003年3月の開戦から5年半になろうとしている
   前者の本によれば、イラク戦争は、第二次世界大戦の3年8カ月、第一次世界大戦の4年4カ月を超えている。この想定外の長期戦で、米国は大変なコストを背負うことになった。それを、政府報告書や公式文書の内在分析によって明らかにしていく。3兆ドルという数字のすごさは、単なる武器・弾薬や兵員輸送や駐留費用などの直接的経費にとどまらない。遺族手当や障害手当、さらには障害者となった兵士の、いわば「得べかりし利益」など、社会的コストなども詳細に検証されている。数字の向こうに、多くの人々の人生が見えてきて、寒々とした気持ちになる。その一方で、戦争により利益を受ける軍需産業や戦争請負会社などのおぞましい姿も暴かれる。
   後者は、世界で最も核兵器を保有している米国が、「最大の公共事業」である軍需産業の権益を維持・拡大するために、絶えず「敵」を捏造して、そこに膨大な予算をつぎ込んでいく構造を分析している。「ロッキード・マーチン大統領とスター・ウォーズ政権」という終章(第9章)が、米国の本質的な問題性を鋭く指摘している。「国防費は教育費の7倍、保健医療費の15倍」という比較も説得力がある。

  米国のミニチュアとしての日本も、同じ問題を抱えている。その際、最も根源的な問いかけは、「もったいない」という言葉だろう。
   原油の価格が1バレール140ドルを超える高値が続いている。自衛隊は年間約1000億円以上の燃料油を必要とするとされ、価格高騰により、すでに前年比36%増になっているという(『朝雲』2008年7月10日付)。自衛隊の準機関紙『朝雲』の一面コラム「朝雲寸言」は、原油価格の高騰に関連して、こう書いている。「70年代のオイルショックと狂乱物価の時代にも、自衛隊は訓練や隊員の生活維持に苦労させられた。「たまに撃つ 弾がないのが 玉にきず」という川柳が生まれたのもその頃だった。今ならさしずめ、「ハイテクも 油がなければ ただの鉄」とか「内臓脂肪 ガスタービンで 燃やしたい』といったところか」(『朝雲』8月7日付)と。
   戦車も「低燃費運転」を行っているという。だが、一番の問題は、リッター500メートルという燃費(74式の場合)の戦車を大量に保有する必要があるのか、という根本的問いかけだろう。50トンを超える90式は、重すぎて、大きすぎて、北海道以外では運用されなかった(本土では富士教導団など一部のみ)。それにもかかわらず、すでに120砲搭載の新型戦車の開発が行われ、調達に向けて動きだしている。一体、120ミリ砲の戦車がこの国に必要なのか。燃料代や「エコ運転」どころではなく、そもそも、それが本当に必要なのかの根本的検討が求められるのである。

  さて、夏休みなので、5月に執筆した「新型戦車の『もったいない』」を転載することにしよう。そこでも書いたが、一つひとつの装備でも、本当に必要なのかという視点は、それにかけるお金があるのなら、他にどんなものが買えるか、どんなことができるか、という視点と連携をとることが必要である。「F15戦闘機は1機110億円するから、それで1本100円の大根が1億1000万本買える」という発想のことを、部内では、「大根派」的発想というらしい。私はこの「大根派」の発想こそ、安全保障における惰性を排して、憲法の平和主義に基づく安全保障を実現していく上で不可欠な視点であると考える。

 

新型戦車の「もったいない」

 ◆二人の命を奪ったイージス艦

  2月19日、海上自衛隊第3護衛隊群第63護衛隊(舞鶴)所属のイージスシステム搭載ミサイル護衛艦 (DDG) 「あたご」(基準排水量7750トン)が、新勝浦市漁協所属のマグロはえ縄漁船「清徳丸」(7トン)に衝突清徳丸は沈没し、船長の吉清治夫さんと息子の哲大さんが行方不明になった。3カ月が経過した5月20日、第3管区海上保安本部は、戸籍法に基づき、二人の「死亡認定」を行った。家族や、懸命に捜索を行った同僚漁師たちの悲しみと悔しさはいかばかりだろう。

  見張りを怠った当直士官らの刑事責任追及に向けて、4月16日、3管は現場海域に「あたご」を移動させ、「すがなみ」(PC型巡視艇)を漁船に見立て、現場検証を行った。新聞各紙は、そのカラー写真を掲載した(4月17日付)。なかでも『朝日新聞』の写真が一番リアルだった。巡視艇の左舷側に停止する「あたご」は、灰色の巨大な壁に見える。

  「あたご」はハワイ沖で、米海軍が発射した標的用ミサイル (MRT) を探知・追尾して、SM3で撃墜する実験を「成功」させての帰途だった。このミサイルはきわめて高額で、昨年12月18日にイージス艦「こんごう」が行った発射実験では、60億円もかかったという。

  ロッキード・マーチン社製のシステムを使った高度な防空能力をもち、同時に十数個の航空機やミサイルに対処できるという。この1450億円を超える高額な装備を、冷戦の終結後もなお保持する理由は何か。「こんごう」型4隻に加え、「あたご」型を2隻増やす際の根拠はミサイル防衛 (MD) だったが、どうも怪しい。

  イージス艦は、米軍の作戦構想に深く組み込まれている。艦橋部分には、自衛隊員でも立ち入れない機密地区があるという。「某(米)国のイージス」という皮肉の一つでもいいたくなる。おりしも3月13日、三菱重工長崎造船所で引渡式を終えた6番艦「あしがら」が、佐世保基地(第2護衛隊群)に配備された。

  ◆なぜ、いま新型戦車?

  の「花形」装備がイージス艦とすれば、陸のそれは戦車だろう。私は1989年まで札幌の大学に6年間勤務したが、その頃は「冷戦盛期」。「ソ連軍、北海道上陸」というシナリオが盛んにメディアに流されていた。私が住んだ広島町(現・北広島市)は陸自の島松・恵庭演習場に隣接していたので、実弾射撃演習の砲音は、私にとって普通の「生活騒音」だった。その頃は74式戦車が主流で、東千歳や北恵庭の駐屯地近くに行けば、たまに見ることができた。

  74式は重量38トン、主砲105ミリ。計873輌が生産された。冷戦が終わり、北海道に多数の戦車を配備する根拠が薄弱になったのに、90式という新戦車への転換が始まった。

  その後、広島大に移り、しばらくたったころ、たまたま札幌に来て、国道36号線で90式戦車を積載したトレーラーと出会った。見慣れた74式に比べて、サイドスカートも大きく、シートからはみ出た120ミリ砲は迫力があった。

  90式は重量50トン。この巨体は、さすがに北海道以外の部隊には配備されなかった。「アグレッサー甲」(ソ連のこと)の戦車に対応したものだったが、配備が始まったときには冷戦が終わり、ソ連もなくなっていた。それでも、1両10億円近くする90式の調達は続き、2007年までに300輌もつくられた。近年は1輌約8億円というから、単純計算でも2400億円以上が支出されたことになる。戦車だけではない。積載用トレーラーも、戦車回収車も、東千歳駐屯地に隣接する戦車修理工場も、すべて90式に合わせて新調された。三菱重工の単独受注である。

  結局、90式はあまりに重く、巨大なため、もっぱら北海道の部隊に配備された。本州では富士教導団(静岡県駿東郡)や第一教育団機甲教育隊(御殿場市)、陸自武器学校(茨城県土浦)に若干配備されているにすぎない。教育用としてのみ。駐屯地内で走るだけである。

  なぜこんなことが続いたのか。「防衛」のためというよりも、60式以来の国産戦車の生産を続けるという必要性しか考えられない。軍事産業の利益が損なわれないという配慮もあろう。「思考の惰性」による無駄遣いである。

  でも、もうこんな「もったいない」ことはやめるかと思いきや、この4月になって、新型戦車(試作車両)が公開された。1両7億円。開発費用は484億円という。重量は90式より軽く、44トン。120ミリ砲をもつ。北欧やイスラエルの戦車に似た車体である。「敵」戦車部隊の大規模な「着上陸侵攻」の可能性が想定できないとすれば、いま、なぜ新型戦車なのか。その使い道は、特殊部隊、ゲリコマ(ゲリラコマンド)、テロへの対応だそうである。治安維持や市街戦の際、四つ角などを封鎖するため、全周視界と強力な装甲防護力を持つ戦車は有効で、「自爆テロ」にも対応できるというのだ。だが、莫大な税金を使って揃える理由としては、あまりに根拠薄弱である。しかも、正面装備は、ほとんどが随意契約である。そこに構造的「水増し」も生まれる。「倫理監督官」だった守屋武昌前事務次官のケースを含めて、「水増し」「癒着」「偽装」の構造が明らかになりつつある。だから、陸自の新戦車の調達はやめる。まずはその決断が、政治に必要だろう。

  なお、陸自が、米ボーイング社製AH64DG対戦車ヘリ「アパッチ」を調達しようとしたが、1機216億円にもなることがわかった。本体価格は1機83億円だが、ボーイング社が生産中止にしたため、計画通り3機購入すると、ライセンス生産している国内メーカーの設備投資なども含めて1機216億に跳ね上がるという。さすがに財務省がクレームをつけ、調達は見送りとなった(『東京新聞』2007年11月27日付)。

 ◆「大根派」の視点を貫け

  かつて陸上自衛隊富士学校長(陸将)が部内誌に、“F15が1機110億円だから、1本100円の大根が1億1000万本も買える”というようなことをいう連中は「大根派」だと書いたことがある(『富士』198号〔1996年6月〕)。

  家計でいえば、火災保険の保険料で、どら焼が○○個買えるという比較は無意味だろう。だが、保険については、その必要性について家族の理解が得られている。これに対して、なぜ、いま高額な対戦車ヘリが必要なのか。国民の理解も合意も得られていない。この違いである。 東京消防庁などのドーファン・消防ヘリは、1機12億5000万円。「アパッチ」は62機が調達予定だが、最低価格83億円としても、消防ヘリが411機も購入できる計算だ。これを全国の消防本部に配備すれば、どれだけの人命が救えることか。費用対効果の点からも、納得がいく

  「大根派」の発想をもっともっと広め、随意契約で、構造的「水増し」をやっている防衛費を削減していく必要があるだろう(拙著『武力なき平和――日本国憲法の構想力』〔岩波書店、1997年〕240〜241頁)。もちろん、この発想は、他の行政分野にも応用可能である。

(2008年5月22日脱稿)

〔『国公労調査時報』2008年7月号「同時代を診る」連載第42回より転載〕

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