年のはじめに武器の話(その2)――変わる自民党国防部会の風景
2018年1月15日

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週に引き続き、「年のはじめに武器の話」をお送りするが、その前に、北朝鮮をめぐる状況について簡単に述べておこう。

1月9日、韓国と北朝鮮の高官級会談が開催され、北朝鮮が百昌冬季五輪に選手団と応援団を派遣することになるなど、朝鮮半島をめぐる状況は昨年までとは微妙に空気が変わってきた。トランプは1月6日の記者会見で、「それ(南北対話)を100%支持する」と述べる一方で、パラリンピックが終了する3月18日以降に大規模な軍事演習が再開される可能性も高く、楽観は許されない。ただ、韓国、北朝鮮、米国ともにいろいろなカードを切るなかで、「トランプ100%支持」の安倍晋三首相だけは、「対話は無に帰した」「圧力あるのみ」と妙に強がっている。「軍事的解決はあり得ない」という姿勢を貫いて、ことごとくトランプに嫌われるメルケル・ドイツ首相とは対照的である。

さて、先週の「直言」で、「安倍政権は、何事も、「スピード感」をもった施策が特徴である。党内手続も国会での審議も軽やかにはぶいて、首相官邸主導(手動)で、多額の予算を必要とする米国製兵器の導入が決まっていく。」と指摘した。ここで注目されるのは、自民党内の手続を十分に踏まずに、安倍官邸が前のめりで「軍拡」路線を爆走していることである。

佐藤正久ブログ写真

イラク派遣に参加した幹部自衛官(一等陸佐)の経歴をもつ佐藤正久参院議員は現在、外務副大臣をやっているが、その秘書がブログで、昨年12月12日の自民党国防部会・安全保障調査会合同会議の様子を描写している。たまたま当日、佐藤副大臣が海外出張中だったため、秘書が議論の様子をメモし、この写真を撮影してサイトにアップしている。

この会議は昨年12月12日午前8時から、自民党本部1階の101会議室で開催された。開会の挨拶を若宮健嗣・党国防部会長が行い、続いて、中谷元・党安全保障調査会長(元防衛大臣)、小野寺五典防衛大臣が挨拶した。議事は「平成30年度防衛予算編成等の状況について」。省庁側の出席者は、小野寺防衛大臣、山本副大臣、福田、大野の両大臣政務官、豊田事務次官、高橋官房長、前田防衛政策局長、西田整備計画局長、武田人事教育局長、深山地方協力局長、田原衛生監、槌道、土本の両官房審議官、鈴木統幕総括官、鈴木防衛装備庁長官、外園防衛技監、石川防衛装備庁プロジェクト管理部長、三原官房文書課長、小野官房企画評価課長、岩元官房会計課長、大和防衛政策局防衛政策課長、末永整備計画局防衛計画課長、廣瀬人事教育人事計画・補任課長、得津人事教育局衛生官、森田地方協力局地方協力企画課長、山野統合幕僚監部参事官、森防衛装備庁装備政策部政策課長、安楽岡防衛装備庁プロジェクト管理部事業管理官(情報・武器・車両担当)、秋田大臣官房文書課企画調整室長、北1佐(統幕業務計画班長)、梨木1佐(陸幕業務計画班長)、一柳1佐(海幕業務計画班長)、小川1佐(空幕業務計画班長)の計33人であった。

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佐藤議員の秘書のメモによれば、防衛省側は今年度の補正予算および来年度の予算編成について説明を行った。補正予算に関連して、陸上配備型イージスシステム(イージス・アショア)の導入に関する情報の取得や、能力向上型迎撃ミサイル(PAC-3 MSE)の調達などが調整中であること、また、イージス・アショアの導入にあたり、現防衛計画大綱・中期防衛計画との関係を整理する予定であることについて説明がなされた。平成30年度防衛関係予算編成の状況についての説明のなかでは、スタンドオフ(敵の脅威圏外)ミサイルの導入を検討していると説明された。秘書のメモ(上記ホームページ掲載)では、「現在、スタンドオフミサイルは海外から調達する方向で検討中であり、出席した国会議員から国産化の要望が出ました。それに対し防衛省は、将来的には国内での開発も検討すると回答しました。」とある。

この会議には、大臣以下の防衛省の中枢部分がほとんど参加していたため、参加した国防部会のある議員が、「ここにこれだけ集まってしまって、何かあったら防衛省の方は大丈夫なのか」という趣旨の質問をしたところ、省側からは、「この瞬間は安全保障上、日本は問題ないということです」という答えが返ってきたという。

議員側は、敵基地攻撃能力とスタンドオフミサイル(stand-off missile)の関係について質問した。このミサイルは、「敵」の防空システムの有効射程外から発射される空対地ミサイルで、発射母機(プラットフォーム)は安全な位置から攻撃できるというものであると返答したことを受け、「敵基地攻撃能力ではなく、敵基地反撃能力であることを強調して頂きたい」と語った(委員会では役人も答弁するので)。

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また、「概算要求なしに予算が通るというのは時代の流れを感じるね」という皮肉ともいえる言葉が出たほか、議員からは「〔国防〕部会での事前報告がないというのはどういうことか。スタンドオフミサイルとイージス・アショアはどこで決まったのか」という野次が出た。加えて、「イージス・アショアの単価はいくらか」という具体的な質問が出された。省側は、「1000億円とみているが、部品等で値上がりする可能性もある。報道では800億になっているが、こちらが本当だ。」という答弁だった。議員からは、「スタンドオフミサイルは野党の追及材料になるから、能力はあるが意志はないということをきちんと説明すべきだ。」という意見も出された。別の議員からは、「スタンドオフミサイルはなぜ米国製なのか。トランプに買わされたのか。」という質問が出た。防衛省側が、「国産は射程が足りないために米国製となった。」と答弁すると、「防衛産業の関係者に聞いたところ、防衛省からリクエストがあれば技術的には国産でできるといっていたぞ。」という突っ込みも出た。この点について、防衛省側から答弁はなかったという。

また、議員が、「スタンドオフミサイルはどう運用するのか。」と問うと、省側は、「米国ではF15EやB1爆撃機に搭載しているが、日本ではF15を改修して搭載することになる。」との答え。それに対し、「F15は古い。何度も改修している。新しいミサイルを搭載できても、すぐに本体が使えなくなる。中・長期的な計画で購入しているとは思えない。」という苦言も出された。

別の議員が、「スタンドオフミサイルは一発いくらで、どのくらい買うのか。」と質問したところ、省側は、「防衛上の理由で申し上げられない。何発もっているか北朝鮮側に把握されてしまうので。」と答弁。さらに別の議員は、「いくらかわからないのに、我々が予算承認しなければならないのか。前からおかしいと思っていた。国民の税金だということをいま一度考えろ。」という厳しい意見が出された。これを受けて、「予算を簡単にもらえるとは思うなよ。」「防衛省の位置づけはどうなっているのか。」「NSC(国家安全保障会議)との関係はどうなっているんだ。」「事前説明しろ」という意見が出されたという。議員たちの発言はかなり激しい。いらだちや諦観もみてとれる。

『琉球新報』12月28日付社説は、「国会論議が尽くされないまま、憲法9条に基づく専守防衛を逸脱するような決定は認められない。・・・導入を決めた3種類のミサイルの射程は約500~900キロ。沖縄にも配備されているF15戦闘機に搭載される。那覇からでも中国の上海に達する。さらに北朝鮮の制空権内に接近することなくミサイル発射台などを狙える。日本海上空から北朝鮮の弾道ミサイル発射台をたたく敵基地攻撃が可能な射程を持つ。専守防衛に反する。」と書くのだが、国会の論議だけではない。自民党内の部会である国防部会での議論でさえ、苦言や注文が相次ぐほどに、官邸主導でことが決まっているのが現状である。

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ところで、4年前、岩波書店の雑誌『世界』2014年6月号に、野田聖子自民党総務会長(当時)のインタビュー記事が掲載された。野田は、総務会の全員一致制を改めて強調し、「閣議決定は党内手続きなしにはできません」と断言した。自民党という政党は、総務会(大臣経験者などが入る)において全員一致で決めたことが政府の政策や法律案となっていく。一人でも総務が反対すれば、政府の方針とならない。これが戦後の日本政治において、強力な野党が存在しないなか、政権の暴走を抑制する効果を屈折した形で発揮してきた。自民党三役、しかも総務会を仕切る総務会長からこのような発言が出たことは当時注目された。2005年の郵政解散とその後の展開、とりわけ安倍政権の5年間で、自民党総務会の議論も空洞化した。自民党の部会も空洞化が進んでいる。小泉進次郎議員が、「党で全く議論していない。このままなら党はいらない」と怒りを秘めて語ったことはすでに紹介したが、安倍官邸の暴走によって、自民党内の矛盾は一段と深まっている。昨年12月の国防部会と安全保障調査会の合同会議のやりとりからも、この傾向がさらに進んでいることが確認できるだろう。

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防衛省の風景も変わった。この写真は2014年まで使われた防衛省の電話帳である。運用企画局の内線番号がある。事態対処、国民保護・災害対処、国際協力、運用支援、サイバー攻撃対処などの課(室)があり、自衛隊の活動・運用面の全般を取り仕切っていた部署である。この運用企画局長のポストが、2015年の防衛省設置法12条の改正で廃止された。これにより、「統合運用機能の強化」を名目として、部隊運用に関する業務の統合幕僚監部への一元化がはかられ、制服組の統合幕僚長・各幕僚長が、背広組の局長・官房長と対等の形で大臣を補佐できるようになった(直言「日本型文民統制の消滅」参照)。

これ以降、首相動静欄を見ても、首相が河野克俊統幕長と頻繁に会っていることがわかる。防衛省の内部部局(内局)の地位と権限が低下して、官邸と制服組が直接結びついて、自民党国防部会や防衛省の頭越しに、「スピード感あふれる」手法で、米国製高額兵器を言い値(トランプの「いいね!」)での購入が進んでいる。安倍首相が思わず「我が軍」といってしまったのも、彼自身のおごりだけでなく、こうした仕組みの変化が反映していると言えよう。

公的なものではないが、ネットには「日本国自衛隊データベース」の高級幹部名簿というものがあって、それによると、吉田圭秀(東大卒、防大30期相当)のことが出ている。昨年8月に陸将に昇進して、第8師団長に任ぜられた。吉田は2015年から2年間、陸将補として、内閣官房国家安全保障局の内閣審議官だった。いわゆる日本版NSCである。安倍首相が「国家の安全保障体制を構築する上で中核」と位置づけている組織であり、2014年1月に設置されたこの組織に、自衛隊制服組として吉田が初めて送り込まれた。安保関連法制定前後の重要な時期に安倍首相の近くにいた人物が師団長ポストを経験して、今年8月の人事で統幕などの枢要なポストにつくことが予想されている。

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実は、この吉田陸将は、14年前、陸上幕僚監部防衛部防衛課防衛班付の二佐のときに、改憲案を起草した人物である。『東京新聞』2004年12月5日付は「陸自幹部が改憲案作成―自民大綱素案に反映」という見出しで大きく報じた。石破茂防衛庁長官時代に切り拓かれた「軍事的合理性」に基づく政策が、いま安倍政権のもとで「開花」していると言えるのではないか。

すでに指摘した点に加えて、「防衛計画の大綱」(防衛大綱)の年内見直しに向けた作業が近く本格化し、ヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」を空母に改修する方向が進むだろう。米海兵隊仕様のステルス戦闘機F35Bを導入する案も出ている。米空軍仕様のF35Aの導入はそのままに、さらなる追加購入になるようである。際限のない軍拡の動きと同時に、憲法9条「加憲」のタイムスケジュールが組まれている。トランプを100%支持するこの「憲法違反常習首相」にこそが「国難」であることに、国民は気づくべきである。 《文中敬称略》

《付記》
冒頭の写真は「南ドイツ新聞」1月9日付の風刺画である。ホワイトハウスの屋上でキングコングのように暴れているトランプ。暴露本『怒りと炎』を怒り心頭で引き裂いている。政権の内幕をばらした、側近で一時政権の黒幕だったスティーヴン・バノンの発言も収録されている。日本でも緊急翻訳本がまもなく出版されるだろう。安倍晋三についても、山口敬之などとの関係を含めたこの種の本が出版されないのだろうか。
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