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ドイツからの「直言」コーナー

連載「憲法研究者に対する執拗な論難に答える」はこちら
第一回第二回第三回第四回補遺(参考:立花隆『論駁』より))。


2019年12月2日

写真1

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ランシスコ・ローマ教皇が11月24日に来日。ナガサキ・ヒロシマ、フクシマ、そして死刑廃止(袴田巌さんをミサに招く)と、安倍晋三首相にとって明らかにおもしろくない話題ばかりである。「武器の製造、改良、維持、商いに財が費やされ、築かれ、日ごと武器は、一層破壊的になっています。これらは途方もない継続的なテロ行為です」「核兵器は、今日の国際的または国家の、安全保障への脅威から私たちを守ってくれるものではない」(長崎での演説より)、「戦争のために原子力を使用することは、現代において、犯罪以外の何ものでもありません」「真の平和とは、非武装の平和以外にはあり得ません。それに平和は単に戦争がないことでもなく、絶えず建設されるべきものです」(広島での演説、以上『毎日新聞』11月26日付6面演説全文より)。「原発事故によって引き起こされる被害は重大なものとなるため、〔原発は〕完全に安全が保証されるまでは利用すべきではない。」(帰途の機内での会見、『毎日新聞』11月28日付)。武器輸出、原爆、原発、死刑について踏み込んだ意見を述べていた。

そういえば18年前の「直言」で、当時の教皇ヨハネ・パウロ2世が、2001年3月から5月にかけて各地を訪問し、ギリシャ正教やユダヤ教の指導者に対し、900年以上前の「十字軍」について謝罪したことを紹介した。エルサレムでの会見にはイスラム教指導者も同席した。この謝罪は、「千年単位の画期的な和解」への一歩となり得るものだったが、9月16日、ブッシュ大統領(当時)が対テロ戦争を「十字軍」と呼び、これをぶち壊してしまった(直言「「限りなき不正義」と「不朽の戦争」」)。政治家の言葉がかつてなく軽くなっているなかで、教皇の言葉は重く、その影響力の大きさと深さははかり知れない。「何を語るか」だけでなく、「誰が語るか」も重要だろう。

というわけで、先週も重要な出来事がたくさんあったが、多忙のため執筆時間がとれず、ストック原稿の「雑談」シリーズをアップすることをお許しいただきたい。話は急転直下するが、今回は「トイレの話」である。

写真3

11月19日は「世界トイレの日」(World Toilet Day)だった。2013年7月、国連総会で全会一致により決まった。世界では3人に1人がトイレを使うことのできない、不衛生な生活をしていることが背景にある。日本で生活していると、トイレについて何か書こうという気にはならないが、外国で生活したり、外国旅行をしたりすると、トイレは実に切実な問題意識となる。私も「前期高齢者」なので、若かりし頃はなんでもなかったことが、けっこう切実な問題となり得る。

ところで、6年前にも書いたことだが、留学する若者が減っている背景には、「ウォシュレットがない国には行きたくない」という理由があるという。お尻の感覚が人間の全行動を規定する。まさに土台(下半身)が上部構造(頭脳)を規定するというわけでもあるまいが、毎日のことなので、人によっては決定的な理由になるのかもしれない。ドイツの保守系紙で、「トイレ文化の世界チャンピオン(Weltmeister)は日本だ」と紹介されたことがある(Die Welt vom 18.11.2012)。ドイツ在住の日本人の方が、日本に里帰りしたとき、お土産にウォシュレットを持ちかえった話も紹介した(直言「雑談(100) 日本の「ハイテク・トイレ」」参照)。冒頭右の写真は、ドイツに向かう羽田空港国際線のチェックイン・カウンターで、ドイツ人らしき旅行客がウォシュレットを持ち出そうとしているところである。日本人が外国旅行をするとき、身近で切実なカルチャーショックはトイレだろう。

写真4

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ちょうど20年前の直言「番外編(2) トイレ論」では、ヨーロッパを旅行するときには小銭が必須というところから始めている。「日本では有料トイレは少ないが、こちらでは「トイレには小銭が必要」が原則と思った方がいい。アウトバーンのサービスエリアのトイレにも、酒場の中のトイレにも、白衣を着た「トイレ女」(Toilettenfrau)がいる(男もいる)。机の上に小さな皿だけが置かれていることもある。その場合でも、ほとんどの人は0.5マルク置いていく。日本人ツアー客とトイレの前で遭遇したとき、「カードではだめじゃろうか」なんて日本語が聞こえてきたので笑えた。・・・」 この頃は通貨がドイツマルクの時代だったが、いまは0.5ユーロ(50セント)が相場である。

観光地の有名な城の唯一のトイレは、この写真にあるように地下にある。階段を降りるのは、障害者には困難である。3年前のドイツ在外研究の際には「雑談(112)ドイツの生活(1)トイレ編―トイレの話(その3)」を出した。配慮が足りないというレベルではなく、ドイツ人は膀胱の大きさがそもそも違うからではないか、といった意見もあった。それくらい、トイレを探すのは一苦労である。

駅にトイレがない。そもそも観光地の駅なのに駅員がいない。これがドイツ国内の普通の風景である。いろいろな場所に電車で行ったが、駅員がいる駅に出会う方がまれだった。トイレもないから、ホームの隅や地下の通路は「悲惨な状態」になっている。フランクフルトやケルンなど、大きな駅を渡り歩く日本人旅行者は気づかないだろう。日本のローカル線の駅はほんとうにきれいだとしみじみ思う。田舎の駅にもきちんとトイレがあるからだ(この下り、直言「変わったこと、変わらないこと―「ドイツからの直言」最終回」参照)。

ドイツのデュッセルドルフ大学現代日本研究所の客員研究員、辛淑玉さんが「辛淑玉のどたばたドイツ日記」という不定期コラムを『週刊金曜日』に掲載している。その2018年3月23日号43頁にこういうのがあった。要約して紹介する。

ドイツを訪れた高齢の客人を日曜日に市内見学に案内した時の話。彼女がトイレに行きたいというが、中央駅まで25分はかかる。途中の小さな駅にはトイレはない。デパートやスーパーのトイレは日曜閉店のため使えない。客人は真っ青な顔をして、中央駅まで我慢するという。だが、やっと着いた中央駅のトイレは、利用料を払う機械が故障していて入れない。扉をガンガン叩いて声をあげて、清掃の人に出てきてもらってやっと客人をトイレに入れることができたという。ドイツで生活すると、よくある話だと私も思った。しかし、続く辛さんの文章に衝撃を受けた。

「飲食店でさえ客用のトイレがないところも多いのだから、体調を崩したらと思うと想像するだけでゾッとする。以来、家には大人用の紙おむつを常備し、客人に市内を案内するときは、必ず着用をお願いしている」。どこへ行っても公共のトイレがないので、「日曜日は安息日どころか不安の日なのだ」。だから、日本を訪れたドイツ人がみな大感激するのが「トイレ」だ。どこへ行っても公衆トイレがあって無料だと。なお、ドイツのトイレ事情を同僚と話していたら、「フランスよりはドイツのほうがトイレはある! 」と胸をはっていわれた。「そっちかよ・・・。トイレは人権です」。

写真7

欧州のアウトバーンを昨年までで通算4万キロ走った経験からいえば、有料化が進んでも、障害者配慮は十分ではない(地下にあるのに急な階段しかないなど)。無料のトイレではなおさらで、障害者用はあっても閉鎖されて使えないものも少なくない。では、「トイレ文化の世界チャンピオン」とドイツ紙に書かれた日本ではどうか。障害者用のトイレは確かに増えた。しかし、さまざまな問題があることを「れいわ新選組」の木村英子議員が初質問で明らかにした。

冒頭左の写真は『東京新聞』11月6日付の一面トップ記事である。この7月の参院選で初当選した木村議員が、11月5日の参議院国土交通委員会で初質問に立った(議事録はここから)。車椅子で議席に着き、男性公設秘書と女性介助者の援助を受けつつ、約30分間質問を行った。木村議員は、「障害者にとって社会的バリアが地域の中にはたくさんありますが、その大きなバリアの一つがこのトイレの問題です」として、この問題にしぼって質問した。『東京新聞』は「直言 全力30分」という見出しを打った。

木村議員はまず、災害と障害者の問題、特に避難所に障害者用トイレがないことを強調し、障害者が避難をできる、「合理的配慮」を踏まえた避難計画について質問すると、元スピードの今井絵理子国交政務官が、すでに市町村に義務づけていると、官僚メモ棒読みのスピード感あふれる答弁をした。木村議員は直ちに資料を示しながら、避難計画を個別にもっている自治体は14%しかないことを明らかにして実現を迫った。

避難所の多機能トイレは約37%しか設置されておらず、「障害者は避難所の3つに1つしか自分たちが使えるトイレがないということになります。このような現状を打開する方法は、日頃から避難所となる場所のバリアフリー化を進めていくことだと思います」と指摘した。その際、赤羽一嘉国土交通大臣(公明党)に対して、公共施設の多機能トイレを使ったことがあるかと質すと、大臣は、「随分前に一度利用したことはありますが、それ以後は多機能トイレは利用しないようにしております」と答えた。

「私の経験では、あるデパートでは、今まで入れていたトイレが、多機能トイレとしてたくさんの機能を入れてしまったためにスペースが狭くなり車椅子が入れず、また多機能トイレがいつも誰かに使われていて、1階から7階までの多機能トイレを回っても入れなくて、ほかのデパートまで探し回ったということが何度もあります。・・・誰でもトイレ、多機能トイレ、多目的トイレなどと呼び名は様々ですが、オストメイト、介護用ベッド、乳幼児用おむつ交換台、ベビーチェア、着替え台、着替え用ステップなど、一つのトイレにこんなにもいろいろな機能をまとめたのはなぜなのでしょうか。・・・多機能トイレがあることでどんどん車椅子の人が入れなくなっている状況があります」として、「多機能トイレという一つのトイレを取り合うことになり、本当にそのトイレを必要としている人が使えない状況」を明らかにした。

そして、「車椅子用トイレに多くの機能をまとめるのではなく、障害や子供を連れた親など、それぞれのニーズに合わせたトイレを用途別に複数造るべきだ」「現在、車椅子用トイレは二百〔センチ〕掛ける二百の大きさの標準となっています。・・・私のような電動車椅子で介助を受けながらリクライニングを倒した状態でトイレをする場合は、狭くて使用することが難しいのが現状です」として、電動車椅子ではトイレに入ることはできない現状を訴えた。さらに、「元々狭いトイレにオストメイト、乳幼児用おむつ交換台、ベビーチェア、着替え用ステップなど、あらゆるものを設置し、標準的な車椅子の利用者の場合でも、介助者が付くと更に広いスペースが必要となります」として、国会の場で初めて、多機能トイレのもつ複雑な問題性を明らかにした。

赤羽国交大臣は、「良かれと思ってしたことが、結果として障害を持たれている方にとって余り良くない結果をもたらされる」と述べた。木村議員は、赤羽大臣から、「多機能トイレにつきまして、・・・ニーズに合わせた機能分散の取組を推奨し始めたところでございますので、しっかり鉄道事業者にもプッシュして推進できるようにしていきたい」という答弁を引き出した。

トイレの問題は当事者でないと気づかないし、わからない。私も「前期高齢者」になり、あちこちに不具合が出てくるようになって、気づくことがたくさんある。「後期高齢者」になればもっと自覚するのだろう。障害者差別解消法にいう「合理的配慮」という言葉をただ使うだけでなく、真に当事者に届く配慮が求められている。

ここまでは、あくまでも日本やヨーロッパの先進国中心の話であり、世界に目を転じれば、事態はもっと深刻である。この点については、「衛生はグローバルな人権」というヒューマン・ライツ・ウォッチの提言と、全46頁の報告書『「行きたいときにトイレに行けること」:人権としての衛生』を参照されたい。

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「アシアナから」:カブールの職業訓練施設の一少年

Dieses Spielzeug wurde aus der Aschiana-Schule,
Kabul geschickt.

――「アシアナから」――

2002年のカブールの職業訓練施設で一少年が作った木製玩具。
肉挽器の上から兵器を入れると鉛筆やシャベルなどに変わる。
「武具を文具へ」。
平和的転換への思いは、いつの時代も同じです。

「直言」2002年6月10日