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今週の「直言」

2025年8月15日


「8.15」にトランプ・プーチン会談
ラスカで、8月15日、トランプとプーチンの米ロ首脳会談が行われる。なぜ、アラスカなのか。ロシアの外交史研究者によれば、1867年、ロシア皇帝アレクサンドル2世がアラスカを720万ドル(2019年の貨幣価値で1億2500万ドル)で米国に売却したが、この決断は「19世紀で最も議論の的となった外交取引のひとつ」であるという。それは、太平洋への野望を抱いていたロシアと、まだ対立関係になかった米国との将来の関係に対する「計算された投資」とされる。アラスカは両国の関係にも象徴的な意味をもち、米国における最もロシア的な要素をもつ地域だとされ、この歴史へのオマージュだけでなく、トランプの政治的な計算も働いているという。アラスカでの会談はいろいろメリットがある。まず、国内の対立勢力やウクライナ側に立つNATO諸国のどこの首都よりも地理的に離れている。また、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているプーチンを問題なく迎え入れることができるし(そもそも米国は自国内でのICCの管轄権を認めていない)、警備上のリスクも最小限に抑えられる。さらに重要なことは、アラスカは北極圏にあり、トランプ政権がカナダやグリーンランドを米国の影響下に置こうと圧力をかけているなかで、戦略的な舞台となる。米ロはベーリング海峡から北方海路の開発、沖合に埋蔵される石油や天然ガスの利用まで、この地域で共通の利害をもつ。そんなアラスカでの首脳会談は、「仲介者を介さない直接対話の論理への回帰」であり、歴史的な結びつきを思い起こさせるとともに、ロシアと米国が、互いの利害が一致する可能性を探る格好の場所というわけである。このトランプとプーチンのディール(取引)に対して、 機能不全に陥っているNATOや、大統領任期切れのゼレンスキーは傍観するしかない。

なお、冒頭の写真はトランプ・プーチン関係のグッズと、最近入手した米国製トランプ・トイレブラシなどである。これはトイレの掃除には使っていない(笑)。トランプとプーチンのトイレットペーパー(前者は2019年、後者は2021年に入手)も、今回改めて並べてみた。米ロのアラスカ首脳会談を「視覚化」した写真である。

 

「戦後80年談話」見送り

トランプとプーチンが直接対話を行う日として、「8.15」という象徴的な日付を選択したのは偶然だろうか。会談後の記者会見で、プーチンはアラスカがロシアと因縁深い地であることを淡々と述べていた。その際、米軍とソ連軍が第二次世界大戦で共同して戦った意義を語っていた。
   米ロ首脳会談の中身については、来週以降にまた論ずることにして、今回は、その「8月15日」に石破茂内閣が「戦後80年談話」を出せなかったことについて書く。

  歴代の内閣は、戦後50年、60年、70年のこの日、閣議決定に基づく首相談話を出してきた。戦後50年の村山内閣総理大臣談話は「植民地支配と侵略」を明確にして、「痛切な反省」と「心からのおわび」を表明した。戦後60年の小泉内閣総理大臣談話は、基本的にこれを踏襲した。だが、戦後70年の安倍内閣総理大臣談話は、「反省とおわび」を歴代内閣の立場の説明のなかに還元し、「私たちの子や孫、その先の世代の子どもたちに謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」と、加害責任をなかったことにしてしまう姿勢を打ち出した。

 私はちょうど10年前、直言「「8.14閣議決定」による歴史の上書き―戦後70年安倍談話」を出して、安倍談話を徹底的に批判している。そこで次のように指摘した。

「…戦後50年の「村山談話」(1285字)、戦後60年の「小泉談話」(1135字)の約2.6倍の分量(3354字)である。各方面から批判や注意を受けていてもなお、安倍首相の自己主張を入れたい分、そのカモフラージュの言い訳と取り繕いに字数を割き、全体として冗長にして冗漫な談話になっているだけではない。「村山談話」「小泉談話」、この2つの談話を「全体として継承する」といいながら、安倍首相が触れたくない、使いたくない、口にもしたくない「4つのキーワード」(痛切な反省、お詫び、侵略、植民地支配)すべてを、意味を伴わない「単語」としてだけ入れ、「村山談話」の内容を実質的に否定し、あの戦争は完全に間違っていたわけではなく、西欧諸国の植民地政策からのアジアの解放の戦いだったという「安倍色(カラー)」が散りばめられていた。…」

 石破茂首相はこのような「安倍カラー」を脱色すべく、「戦後80年談話」を出すという問題意識はもっていたようである。本年2月28日、石破首相が「戦後80年談話」を出す検討に入ったことを、政府関係者が表明した。これは『毎日新聞』28日配信のスクープ だった。石破首相は「80年は一つの区切りだ。今までの談話の積み重ねを踏まえながら、適切に判断することが大事だ」と折に触れて語ってきた。自民党内では「80年談話」を阻止する力学が働きはじめる。4月段階で首相を「必死に止めた」のは麻生太郎元首相だったという(『デイリー新潮』4月10日)。その後も首相は曖昧な態度をとり続けたが、「80年談話」を出したいという気持ちが随所ににじみでていた。自民党の保守派が「これ以上の談話は不要」との立場で石破首相を揺さぶったこと、さらに、都議選、参院選の敗北を受けての「石破おろし」の動きのなかで、石破首相は談話の見送りを決めたようである。ただ、閣議決定を伴う正式の首相談話は出さないものの、首相個人としての「見解」を、終戦の日とは別の機会に表明する検討を進めているという(『毎日新聞』8月16日付)。戦後70年の「安倍談話」はまだ生きている。しかし、石破首相が「見解」を表明すれば、事実上の「石破談話」として周辺諸国には受け取られるだろう。その効果は大きい。もはや失うものがないとなれば、ここは「安倍談話」を実質的に否定するようなものを出すべきだろう。石橋湛山田中角栄を尊敬する石破首相としては、ここは「ふんばりどころ」だろう。旧安倍派が期待するような「石破おろし」がそう簡単にはいかない所以である。

 

「安倍カラー」の脱色へ

2013年の戦没者追悼式での首相式辞において、安倍晋三は、加害責任に触れないために「反省」という言葉を使わず、「歴史の教訓を深く刻み」という一般的な表現にとどめた。菅義偉、岸田文雄両首相も「反省」を使わない路線を踏襲した。その意味では、8月15日の戦没者追悼式における石破首相の式辞は、小さな半歩といえるかもしれない。「戦争の惨禍を決して繰り返さない。進む道を二度と間違えない。あの戦争の反省と教訓を、今改めて深く胸に刻まねばなりません。」という形で、13年ぶりに「反省」という言葉を復活させた意味は小さくない(式辞全文・首相官邸ホームページより)。

「安倍晋三元首相が封印した言葉の復活は、自民党保守派などの反発を招く可能性がある」と『朝日新聞』8月16日付)は書くが、「保守派」なるものの実態は何か。裏金議員中心の旧安倍派の面々ではないか。A級戦犯岸信介の流れを組む派閥である以上、「東京裁判史観」を認めるわけにはいかないだろう。だが、石破首相は、「アジア版NATO」を主張しているが、基本的に中国や韓国、アジア諸国との関係性を重視しており、この種の議論に簡単に乗る人物ではないと見ている。

 追悼式の式辞にはもう一つ、安倍ラインの首相たちの式辞にはなかった言葉が入っている。それは、「各都市への空襲」の被害者と並んで、「艦砲射撃」に言及していることである。7月中旬、米第3艦隊は釜石室蘭日立などの太平洋沿岸の街に艦砲射撃をおこなった。室蘭では7月15日だけで500人の市民が死んでいる。中小都市空襲について触れる式辞はこれまでもあったが、艦砲射撃の被害者に言及したのは初めてではないか。

 

「反省」から生まれるもの

「おわび」も「反省」も、誰に対するものなのかが明確でなければならない。村山、小泉談話は「植民地支配と侵略」に「痛切な反省と心からのお詫びの気持ち」を明確に表明したところが重要である。安倍談話はその肝のところを換骨奪胎して相対化していた。石破首相は、式辞で「反省」という言葉を使った理由について記者に問われて、「反省があって、教訓がある。いきなり教訓があるわけではない」と答えている(首相官邸ホームページより)。安倍晋三が「反省」を削って、「歴史の教訓を深く刻み」としたことへの批判とも受け取れる。

  なお、残念だったことは、「戦後80年」に空襲被害者救済法案があと一歩のところまできて実現しなかったことである(詳しくは、『朝日新聞』5月9日参照。私も協力した記事で、末尾にコメントあり)。「戦争被害受忍論」は実にやっかいである。石破首相は「80年という節目において、行政に何ができるかということは、よく考えて対応したい」としつつも、「自民党の中でいろんな議論がある」とし、与党の理解を得ながら行政が判断しなければならない問題だというところで足踏みしている。戦没者追悼式の式辞で、空襲被害者に加えて艦砲射撃の被害者のことにも言及したのであるから、秋の臨時国会では是非、石破首相の政治決断を望みたいと強く思う。「戦後80年」が終わるまで、あと4カ月である。

  先の参院選では、参政党が大躍進した。日本保守党も比例区で298万票と、共産党を上回る得票をしている。その保守党が、8月15日に『戦後八十年に寄せて《談話》』を出した。自民党の保守派と呼ばれている政治家たちの本音(最大限綱領)がそこにある。石破首相はそうした傾向と一線を画して、あと4カ月の間に、「戦後80年」メッセージを出せるかどうか。注目したいと思う。

なお、「戦後78年」の際の直言「大日本帝国も「自衛のための必要最小限度」?」も参照のこと。

【文中一部敬称略】

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「アシアナから」:カブールの職業訓練施設の一少年

Dieses Spielzeug wurde aus der Aschiana-Schule,
Kabul geschickt.

――「アシアナから」――

2002年のカブールの職業訓練施設で一少年が作った木製玩具。
肉挽器の上から兵器を入れると鉛筆やシャベルなどに変わる。
「武具を文具へ」。
平和的転換への思いは、いつの時代も同じです。
詳しくは、直言「わが歴史グッズのはなし(6)アフガニスタン」参照

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