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今週の「直言」

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ドイツからの「直言」コーナー


2017年4月24日

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ランス大統領選挙の第1回投票が始まった。直前にパリで警察官が射殺されるテロ事件があり、トランプは「今回の事件がルペン候補を後押しすると信じている」という異様なコメントを出した。今年最初の直言「自由と立憲主義からの逃走」で危惧した通りの結果になるか。注目したい。

日本のマスコミに比べると、外国メディアの安倍批判は辛辣である。例えば、『南ドイツ新聞』4月13日付は、トランプの手を握り、恍惚とした表情を浮かべる安倍晋三首相の写真を使い、見出しは「日本は、北朝鮮をめぐる緊張を軍拡に利用しようとしている」とズバリ。保守的なDie Weltも、安倍首相については非常に厳しい記事を載せてきた(2月11日の安倍・トランプ会談のニュース動画は、意識的にこの表情で固定してきた)。冒頭の写真は、「かしずかれる政治家たちの危険な結びつき」として、権力をほしいままにするプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領と並んで、2014年12月総選挙で圧勝した安倍首相を据えている。

それにひきかえ、日本のメディア(特にテレビ)の政権批判は鈍く、森友学園問題はほとんど取り上げられなくなった。そのなかで、『朝日新聞』2017年4月18日付1面から始まった「1強、パノプティコンの住人」の連載はなかなか読ませる。フランスの哲学者ミシェル・フーコーの「一望監視装置」(パノプティコン)にヒントを得て、監獄の独房で権力のまなざしを常に意識させられて生きる囚人のような寒々としたこの国の状況をリアルに描いている。第1回で驚いたのは、3月の参議院予算委員会で質問に立つ自民党議員のところに、安倍首相から直接電話がかかり、維新の会との関係は質問しないように求められたことだ。「総理が直接電話してくるのは異常やねん」「憲法改正を含め、政権に協力的な維新をかばう気持ちが首相にはあるんやな」と言いながら、この参院議員は質問を自ら封じた。連載2回(19日付)では、維新の会の衆院議員が、「総理がめちゃくちゃ公明党に怒っている。とにかく総理の頭にあるのは憲法。だから維新の皆さん、よろしく頼みますよ」という首相補佐官の意に沿って、衆院農水委員会で豊洲市場問題について、小池東京都知事を批判する質問を行う。この議員は官邸からの意向を「ご下命」と呼ぶ。だが、安倍首相の方は、「維新の彼らは利用できるからいいんだよ」という本音も。

連載第3回(21日付)では、「沈黙」が支配する自民党内を描く。印象に残ったのは、天皇退位をめぐる懇談会で、あまりに意見が出ないので座長の高村正彦副総裁が、「みなさん、もっと発言してください」と一言。重鎮の一人が女性天皇について触れるや、「この場ではやらない」と、「安倍首相の意に沿わないことが明らかな意見は封じる」。また、石破茂氏が派閥の先輩の島村宜伸元農相に会ったとき、島村氏は「あの時言った通りになったろう」と。90年代に小選挙区制を導入するとき島村氏は反対派の急先鋒で、「常に権力が集中して、みんな言うことを聞くやつばかりになるぞ。物言わぬ政党になり、つまらない議員が増える」と予言していた。当時小選挙区制導入の旗振り役だった石破氏は、「誠に申し訳ございません。こうなるとは思いませんでした」と頭を下げたという。2012年総選挙で初当選した若手は「沈黙する自民党」しか知らない。「先輩が黙るなら、私たちはなおさら。何か言ったら自分がおしまい」という。毎回、あきれるような、寒々とした話が続き、ため息が出る。

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それにしても、35年もの間、大学で憲法の講義をやってきたが、先週の国会の風景には唖然とした。権力分立を教えるのがむなしくなる。本当に安倍首相は「立法府の長」(2016年5月16日衆院予算委員会答弁)のようになってしまっている。憲法や国会法、議院規則などに基づいて行われていると思われた国会が壊れている。「7.1閣議決定」の「憲法介錯」が日本の立憲主義の決壊を一気に加速したとすれば、いま目撃していることはその荒野ということなのだろうか。

ここ数年の動きを見ても、二院制を傷つける「衆議院の超越」や、憲法53条に反して臨時国会を開かなかったことなど、この「壊憲政権」のやること、なすことのひどさは枚挙のいとまがない。それにしても、ここ1週間あまりの間に続けて起きた「安倍忖度」による「普通でない出来事」は、あまりメディアも取り上げず、人々の頭に残らないと思うので書き残しておくことにしたい。ここでは、さしあたり3つだけ指摘しておく。

その1は、4月12日の衆院厚生労働委員会でのこと。首相を呼んで、介護保険の自己負担額を2割から3割に引き上げる介護保険法改正案の質疑を行っていた。民進党の議員が「世論の8割が政府の説明に納得していない」として、昭恵夫人が公の場で説明することを求めた。安倍首相は露骨に不機嫌な顔をして、論点をすり替える答弁をした。とその時、委員長は「法案以外の質問をするのは十分審議した証拠」として、採決に踏み切ったのだ。14日に採決することで理事懇では合意していたのに、2日前倒しなった。なぜ、議会運営にこうも混乱が生じたのか。理事会で与党の筆頭理事は、「総理総裁は私のボスですから」と言い、総理の不快感を忖度して採決に向かったことを認めた(『日刊ゲンダイ』4月14日付)。立法府に属する委員会筆頭理事の1人が、行政府の長に迎合したことになる。

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その2。これもびっくりした。20日の衆院法務委員会で共謀罪(11年前の「直言」参照)の審議中、突然、採決で、法務省刑事局長の委員会出席を決めた。1999年に「国会審議の活性化及び政治主導の政策決定システムの確立に関する法律」が成立し、2001年から政府委員制度が廃止された。国会審議は政治家の大臣、副大臣などによって行われることが原則となった。各省庁の局長などの出席は、委員会の全員一致で決める。この日、お粗末な大臣答弁はこれ以上聞きたくないという表情をした安倍首相の意向を忖度したのだろうか、首相の「天敵」、山尾志桜里議員が質問している最中に刑事局長参加が決まった。以後、大臣ではなく刑事局長が答弁している。全会一致の原則を崩し、多数で押し切ったのは初めてという。

その3は4月19日、首相任命の衆議院選挙区画確定審議会の答申が行われた。衆議院の定数を青森と鹿児島など6県で1選挙区ずつ削減する(0増6減)とともに、97選挙区の区割り変更を安倍首相に答申した。新聞の見出しは、「衆院1票の格差1.999倍」(『毎日新聞』4月20日付)、「一票の不平等 最大1.956倍」(『東京新聞』同)。現行の格差2.176倍から大幅に改善されたかに見える。議員定数不均衡訴訟で最高裁が「違憲状態」と判断した2014年衆院選の2.13倍をクリアしたかに見える。ただ、この区割りでは2020年には1.999倍になるから、人口の状況ではすぐに2倍を超えてしまうだろう。安倍首相が解散を行う1、2年の間だけでも「違憲状態」と言わせないで面子を守るための、小手先の区割り操作と言えなくもない。安倍首相の「面子」を配慮(忖度)したのか、大急ぎの作業のために、いろいろな不都合が露呈している。

何よりも、別々の小選挙区に分割される市町村が増える。特に新・東京7区は杉並、目黒、品川の一部が加わる一方で、中野は分断され、その一部が10区に編入される。現在の7区の現職議員の自宅は10区になってしまう(『読売新聞』4月20日付)。従来、東京8区は杉並区全域だったが、面積の2%にあたる方南町1丁目と2丁目だけ新7区に編入される。丁目だけでなく、番地の単位で選挙区が異なるところもある。神奈川県座間市長は、市民の2割が住む北部が別の選挙区に編入されるので、「何の説明もなく、言語道断の暴挙だ。・・・小さな都市で全体が一体の生活圏。選挙事務への配慮もなく無責任だ」と憤る(『東京新聞』4月20日付)。

一般に普通選挙の仕組みは、政治的価値において平等な個人を基礎としている(個人主義的代表観)。だが、これをどこまで徹底するか。只野雅人氏はこれを「普通選挙のアポリア(難問)」という(『代表における等質性と多様性』(信山社、2017年3月最新刊)164-182頁)。選挙区という地理的単位は、「個人の集合体の人為的区分」にすぎず、政治的に等価な個人が代表されるべきものの基本ということになる。連邦制をとる場合は憲法上、地域(領域)代表を基礎とすることはストレートに正当化できるが、日本の場合は「地域代表」という視点がどこまで貫かれるかは必ずしも明確ではない。なお、普通選挙における「個人」と「領域」という問題は、憲法学の最新の研究によって詳しく解明されている(糠塚康江編『代表制民主主義を再考する』(ナカニシヤ書店、2017年3月最新刊)只野、大山、稲葉各論文参照)。

小選挙区における1票の格差問題が隘路に陥るなかで、現行の小選挙区比例代表並立制の矛盾が極限に達しつつあるというのが私の認識である。安倍政権を復活させた2012年総選挙はこの制度の「弊害が劇的にあらわれた」ものと考えている(直言「政治の劣化と選挙制度――2012年総選挙」参照)。小選挙区の削減と区割りの微細化は、問題の根本的解決にはほど遠い。むしろ、小選挙区制をやめて、中選挙区制に戻す選択肢も検討すべきである。にもかかわらず、安倍首相は、衆議院をいつ解散しても「合憲」の条件は整ったと言わんばかりのタイミングで答申を受けとった。逆に言えば、担当事務局の官僚が、首相の意向を忖度して大急ぎで間にあわせたのではないかと私は推測している。もし、解散が行われたとしても、またも低投票率により安倍1強が続くのか(直言「二人に一人しか投票しない「民主主義国家」」参照)。

以上、「安倍忖度」の結果起きた「普通でない出来事」について述べてきたが、これほどまでに安倍政権が暴走を続けることができるのは、この首相の「無知の無知」の突破力に負うところが大きいとしても、やはりメディアの首根っこを抑えていることが大きいだろう。「安倍忖度」政治の原点は、安倍自身が関わった2001年のNHK事件にある。すべては「勘繰れ」という安倍氏が思わず発した言葉に象徴される。

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2001年1月30日、NHK教育テレビ(Eテレ)で放送された「ETV2001」の4本シリーズ「戦争をどう裁くか」の第2回目「問われる戦時性暴力」という番組をめぐって、当時の安倍晋三官房副長官が尋常でない関わり方をした。この番組は、2000年12月に東京・九段会館で開かれた市民団体主催の「女性国際戦犯法廷」を素材に企画されたものである。番組内容を知った右翼団体などが、NHKに放送中止を要求した。担当プロデューサーなどへの右翼の脅迫も起きた。局内では「より客観的な内容にする作業」が進められた。放送2日前の1月28日夜には44分の番組が完成した。ところが、翌29日午後、当時の松尾武放送総局長と野島直樹担当局長が安倍氏に呼ばれ、議員会館で面会した。安倍氏は慰安婦問題などの教科書記述を調べる研究会「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」元事務局長だった。安倍氏は「一方的な放送はするな」「公平で客観的な番組にするように」と求めたという。そして、しぶるNHK幹部に対して、「勘繰れ、お前」と叫んだという。

29日夕、NHK番組制作局長が「(国会でNHK予算が審議される)この時期に政治とは闘えない」と伝えて、番組内容の変更を指示したという。松尾、野島両氏が参加した「異例の局長試写」が行われ、試写後、松尾氏らは、@ 民衆法廷に批判的立場の専門家のインタビュー部分を増やす、A 「日本兵による強姦や慰安婦制度は『人道に対する罪』にあたり、天皇に責任がある」とした民衆法廷の結論部分を大幅にカットすることを要求した。さらに放送当日夕方には、中国人元慰安婦の証言などのカットを指示。番組は40分の短縮版が放送された。この状況に対して、この番組の担当デスクだった番組制作局プロデューサーがこの事件を世間に訴えた(永田浩三『NHKと政治権力――番組改変事件当事者の証言』(岩波現代文庫、2014年)参照)。

NHKの放送総局長に向かって、「勘繰れ、お前」という安倍晋三(永田・前掲書170頁)。震え上がった局長たちは、現場に介入して強引に番組内容を改変していった。安倍氏は「改変しろとは言っていない」と「反論」するが、ここに忖度が生まれる。本人は「直せ」と言わなくても、呼びつけて「勘繰れ、お前」といったことは間違いないのだろう。市民団体の訴えに対して東京高等裁判所は2007年1月29日、「制作に携わる者の方針を離れた、国会議員などの発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度し、当たり障りのないよう番組を改変した」と指摘し、「憲法で保障された編集の権限を乱用または逸脱した」と述べて、NHKに対して損害賠償を認めた。これがその記事の写真である。「議員の意図を忖度」「過度の自己規制」という見出しに10年後のいまを思う。なお、NHKは直ちに上告。最高裁判所は2008年6月12日、高裁判決を破棄して、市民団体の請求をすべて退けた。

安倍氏は一議員のときから、歴史問題では驚くほど活発に発言してきた。慰安婦問題で先鞭をつけた「安倍式忖度」政治は第1次内閣でさらにパワーアップし(直言「「安倍色」教科書検定と沖縄」参照)、2012年12月の第2次内閣から全面開花していったということである。とはいえ、取り巻きや側近、閣僚の人間性や言語能力は著しくは低く、その足の引っ張りあいも絡んで、この政権はますますアグレッシヴになっていくだろう。注意すべきは、官房副長官時代の世耕弘成が「チーム世耕」を立ち上げ、ネトウヨを培養して、斜陽の新聞社のネットサイトも活用しながら、安倍政権に批判的な発言をする人々を攻撃、「炎上」させるとともに、メディアの「忖度」の仕組みを整えたことである。世耕はいま経済産業大臣だが、トランプともプーチンとも成果をあげることができなかった(詳しくは、「安倍のお側用人「世耕弘成」の暴走」『選択』2017年3月号56-57頁参照)。

とはいっても、この「壊憲政権」は森友学園問題でその「構造的忖度」を国民にかなり見抜かれてしまった。忖度と迎合によって統治されるこの国は民主主義国家ではない。同じ三代目が君臨する「朝鮮君主主義臣民共和国」とどこが違うのか。日本国民はいま、北朝鮮のことを笑えない。

《付記》
冒頭の写真は、4月17日、複合商業施設「GINZA SIX」(東京・中央区)のオープニングセレモニーで挨拶した安倍首相が、各地の名産に触れたあとに、「原稿には残念ながら山口県の物産が書いていない。よく忖度してほしい」と語ったときのもの(TBS「サンデーモーニング」4月23日放送)。
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「アシアナから」:カブールの職業訓練施設の一少年

Dieses Spielzeug wurde aus der Aschiana-Schule,
Kabul geschickt.

――「アシアナから」――

2002年のカブールの職業訓練施設で一少年が作った木製玩具。
肉挽器の上から兵器を入れると鉛筆やシャベルなどに変わる。
「武具を文具へ」。
平和的転換への思いは、いつの時代も同じです。

「直言」2002年6月10日