日韓共同研究IN東京 2004年8月2日

週の韓国連載完結に続き、今回で韓国シリーズを一応終了する。研究会の紹介の文章で面白みはないが、記録の意味でここに掲載しよう。

  東京が39.5度の超猛暑を記録した7月第3週に、韓国から韓寅變教授(ソウル大)をはじめとする日韓共同研究会メンバー14人が早稲田にやってきた。早稲田大学国際会議場での2日間にわたる共同研究会に参加するためだ。
  私は今回の研究会では「ロジ担」(後方支援)に徹した。大学院生たちに会場設営や、ホテルから会場へのアテンド、ランチ会場への誘導などをまかせた。彼らはすべてを適切にこなしてくれた。とりわけ大変だったのは、猛暑のなか、「プレ・イベント」として実施した7月15日、16日(午前のみ)のフィルードワークである。私は両日とも、授業や会議があったため参加しなかった。以下、大学院生たちからのメール報告をもとに紹介する。
  参加者は9時半から行動開始。靖国神社の歴史に詳しい長谷川順一さんにガイドをお願いした。長谷川さんは昔と今の地図を持参。その「場所」にまつわる話を歴史的に展開した。照りつける日差しのなか、靖国神社の木陰で、東条英機の拡大写真パネルを使って行われるA級戦犯問題の解説はスリルがあったという(F君)。遊就館では、新作映画「私たちは忘れない!―感謝と祈りと誇りを―」が上映されていた。上映前、「これより霊が降りてきます」というアナウンスがあり、子どもたちの映像が流れる。挿入曲は、小泉首相が好きなX JAPANの"Forever Love"である。「『戦後、特定の歴史観が押しつけられた…』というナレーションに失笑しながら、まさにその展示に進みました」(F君)。参加者は、展示物の解説の微妙な言い回しに敏感に反応していたという(Sさん)。特に「1945年以降独立した国」の地図のなかに、朝鮮半島が含まれていない点に注目が集まったそうだ。朝鮮半島を植民地にしたという意識がないわけである。そのほかにも、長谷川さんの適切な背景説明に、参加者は興味深く聞いていたという。
  九段会館(旧軍人会館。2.26事件の際に戒厳司令部が置かれた)で昼食をとり、市ヶ谷の防衛庁に向かう。見学者のチェックは厳しい。列で進み、途中何度か縦隊整列して点呼されたという。参加者に見せたかったのは、極東軍事裁判(東京裁判)の法廷として使われた大講堂である。二階の旧東部方面総監室のドアには、1970年11月にそこを襲撃した作家・三島由紀夫と「楯の会」メンバーがつけた日本刀の跡が残っている。これも参加者の要望が強かったものだ。なお、F君が疲れて展示横に座っていると、団体客の老人から「わしは警察予備隊1期でなぁ」と話しかけられ、「あんた、いつまで日本にいるの?」としっかり間違えられたという。売店で休憩。「めったに安売りしないポカリスエットが数十円安く、スターバックスコーヒーも入っていました」。

  16日午前、メンバーの半数が、神奈川県座間市の米陸軍キャンプ座間の見学に行った。米軍の「再編」(トランスフォーメーション)の一環として、ワシントン州の米第一軍団司令部がここに進出する。朝鮮半島を睨んだ上級司令部の進出場所を確認したいというJ. J. SHU 教授(コーネル大学)の要望にこたえたものだ。本来、陸軍はごく象徴的な数だけ駐留していたが、本格的な陸軍の上級司令部の立ち上げは、今後、陸上自衛隊の運用思想の転換にも連動する問題を含む。いずれ詳しく論ずるとこになろう。なお、法科大学院に関心のある教授たちは、同じ時間帯、早稲田大学法務研究科委員長(浦川道太郎教授)と教務委員長(浅古弘教授)から聞き取りを行った。

  さて、16日午後から17日終日かけて行った本番の研究会では、冒頭の韓寅變(ソウル大学校法科大学教授)「韓国での政治腐敗に対する検察と特別検察官の挑戦――その成果と限界」の報告を、早稲田大学比較法研究所の第6回講演会として実施した(世話人・水島)。現代韓国において、検察制度が果たす役割がリアルに分析された。検察の政治的中立性を確保するための制度改革も興味深かった。詳しくは、ファイル参照のこと
  なお、午後の後半からの報告と討論は実に興味深いものだったが、内容の紹介やコメントは一切省略して、以下、報告のタイトルと報告者名のみ掲げておく。

7月16日(金)
主題「朝鮮半島国際政治と日韓米の安全保障政策」
報告①J. J. SHU (コーネル大学助教授)
    「米軍再配置論議を通して見た米国の軍事戦略変化と韓米同盟」
   ②李勉雨(世宗研究所地域研究部長)
    「日本の軍事化、改憲の行く先と韓国の対応――安全保障の観点から」
   ③Bruce Cumings(シカゴ大学教授)
    「米国の対北朝鮮政策と日米韓関係」
(注)ブルース・カミングス「北朝鮮政策――米国はまたしても誤るのか」『世界』2004年4月号、同『北朝鮮とアメリカ:確執の半世紀』(明石書店)参照。

7月17日(土)
主題「軍における死者の弔い」
報告①鄭湟基(全南大湖南文化研究所)
    「韓国における民族国家形成と慰霊空間――国立墓地を中心に」
   ②赤澤史朗(立命館大学教授)
    「戦没者の追悼と靖国神社」
   ③金貴玉(聖公会大学教授)
    「韓半島分断国家と性暴力の類型と実態――口述生涯史研究を基礎に」

主題「盗聴法と国家権力機構」
報告①川崎英明(関西学院大学教授)
    「日本の盗聴法」
   ②金鐘鐵(延世大学校教授)
    「韓国の大統領弾劾制度――盧武鉉大統領弾劾審判事件を中心にして」
   ③曹喜松(聖公会大学教授)
    「国家暴力と過去清算」
   ④山内敏弘(龍谷大学教授)
    「日本の軍事化と改憲論」

  2002年10月に始まった日韓共同研究会は、私としては珍しく皆勤した。2年にわたる研究会もこの7月で終了した。私自身、1年8カ月の間に3回も訪韓した体験は、さまざまな点で勉強になった。京都、沖縄、東京における3回の研究会も充実していた。徐勝教授、韓寅變教授、立命館の事務局の方々、日韓の大学院生の皆さんに感謝も申し上げたい。最後に、この日韓共同研究に関わる「直言」バックナンバーの10本を、参考までに下記に掲げておく。

 変わる38度線・韓国レポート(1)
 在韓米軍地位協定の「現場」へ:韓国レポート(2)
 北東アジアの安全保障を考える:韓国レポート(3・完)
 日韓共同研究IN沖縄
 拉致問題解決に向けて
 踊る大検察庁
 韓米と日米のあいだ:韓国で考える(1)
 38度線の「いま」を診る:韓国で考える(2)
 子どもたちにどう伝えるか:韓国で考える(3)
 日本大衆文化の統制と開放:韓国で考える(4-完)