『平和の憲法政策論』を世に問う――安倍改憲の時代に
2017年7月17日

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3年前の7月1日、安倍晋三首相による、憲法に対する重大な破壊行為、「憲法の大原則である平和主義の根幹(首)を斬り落とす「憲法介錯」」が行われた。これは、公明党の「転進」に助けられてのことである。日本維新の会(当時は維新の党)も「独自案」を掲げて参入し、憲法破壊に手を貸した。それ以来、日本政治の「箍」(たが)が外れた。「介入」と「忖度」をベースに、強引・傲慢な政権運営(「安倍一強」)が続き、いまやこの国は人権後進国の仲間入り寸前のところにいる。

ここ数年で、特定秘密保護法の成立防衛省設置法12条改正による日本型文民統制の廃除史上最大の任期延長による安保関連法の強行成立 、そして、無論理の法相が答弁不能状態にあるにもかかわらず、「共謀罪」法が成立した。安保関連法のなかに忍び込ませた「駆け付け警護」任務を南スーダン派遣の第11次隊に付与してすぐに撤収させたり、自衛隊法95条の武器等防護を米軍にまで拡大して、日本周辺近海での米艦防護を短時間試行させたりして、既成事実の積み重ねをはかっている。この国の憲法に基づく統治の仕組みは、安倍政権によって、あるいは徐々に、あるいは急速に、しかし確実に壊されている。

安倍首相は5月3日の読売新聞でのインタビューで、憲法9条1項・2項をそのままにした状態で、9条の2または9条3項を新たにおこして自衛隊を明記しようという奇策に出た。内閣支持率が3割を切り始め、第1次内閣の終わりの頃に似てきたなかで、「自爆改憲」に向かうのか、予断を許さない。

さて、先週、日本評論社から『平和の憲法政策論』を上梓した。『現代軍事法制の研究――脱軍事化への道程』(日本評論社、1995年)、『武力なき平和―日本国憲法の構想力』(岩波書店、1997年)(長らく絶版だったが、2015年に岩波オンデマンドブックスとして復刊)に続く3冊目の論文集である。

その出版趣旨は、「日本の平和と安全保障の問題を、「ポスト冷戦」の始期から今日までの4分の1世紀あまりを振り返り、その一つひとつの局面で浮かび上がってきた問題や論点を想起し、曖昧にすることなく記憶にとどめ、憲法規範から離れていく憲法現実を「引き戻す」という視点から再考してみる」ことである(序章ⅶ頁)。「軍事的合理性の観点から憲法九条を「変える」ことに過度に傾斜した議論が急速に高まっているなかで、あえて憲法九条の「平和的合理性」に徹することによって、複雑化した現実にいかに向き合っていくか。いま、平和の「守り方」と「創り方」についての腰を据えた議論が求められている」(序章ⅷ頁)。「困難な現実を前に、進むべき道を見失い、思考停止に陥らないためにも、通って来た道である「近過去」を振り返ることは近未来を正確に捉え、見通すために必要だし、意味があると考えている。現実に合わせるために憲法の規範を安易にいじる動きが急速に進むなかで、憲法の平和主義の規範理念を現実に活かして、その現実を憲法適合的な方向に漸進的に変えていくための憲法政策論の進化と深化が求められている。本書はそのための予備的考察でありたいと思う」(あとがき・本書442頁)。

カントは『永遠平和のために』(Zum ewigen Frieden, 1795)の第3条項でこう書いている。「常備軍(miles perpetuus)は、時とともに(mit der Zeit)全廃されなければならない。なぜなら、常備軍はいつでも武装して出撃する準備を整えていることによって、ほかの諸国をたえず戦争の脅威にさらしているからである。常備軍が刺戟となって、たがいに無際限な軍備の拡大を競うようになると、それに費やされる軍事費の増大で、ついには平和の方が短期に戦争よりもいっそう重荷となり、この重荷を逃れるために、常備軍そのものが先制攻撃の原因となるのである。」(宇都宮芳明訳・岩波文庫版16-17頁)。

その『永遠平和のために』200周年の節目に、深瀬忠一、杉原泰雄、樋口陽一、浦田賢治編『恒久世界平和のために――日本国憲法からの提言』(勁草書房、1998年)が出版された。その表紙の帯には、「日本国憲法の平和主義の真価を広める憲法政策論の学際的研究成果」とある。私もこれに参加している(今回の新著第2章に所収)。このたびの作品は、『永遠平和のために』220周年に出版しようとしたが、安保関連法制定に向けた安倍政権の暴走に向き合ったため、2017年7月の出版になってしまった。2年遅れたが、ここに本書を世に問う。なお、欧文は憲法政治のニュアンスが強いVerfassungspolitikを使わず、Verfassungsrechtspolitik zum Friedenとした。最後に、新著の目次を以下に掲げておこう。日本の平和と安全保障について関心をもつ多くの方々に読まれることを期待したい。

目   次

序 章
第I部 ポスト冷戦期の「安全保障環境」の変化と憲法
第1章 安全保障と憲法・憲法学──腰をすえた議論のために
第2章 自衛隊の平和憲法的解編構想
第3章 平和政策への視座転換──自衛隊の平和憲法的「解編」に向けて
第4章 史上最大の災害派遣
第5章 東日本大震災後のアジアと日本

第II部 「人権のための戦争」と「戦争の民営化」
第6章 「平和と人権」考 ──J・ガルトゥングの平和理論と人道的介入
第6章補論 「人道的介入」の問題性──「軍事介入主義」への回廊
第7章 人間と平和の法を考える
第8章 国家の軍事機能の「民営化」と民間軍事会社

第III部 日本型軍事・緊急事態法制の展開と憲法
第9章 テロ対策特別措置法
第10章 ソマリア「海賊」問題と海賊対処法
第11章 日本型軍事法制の変容
第12章 「7・1閣議決定」と安全保障関連法
第13章 安保関連法と憲法研究者──藤田宙靖氏の議論に寄せて
第14章 緊急事態条項

第IV部 日米安保体制のグローバル展開
第15章 安全保障体制
第16章 日米安保体制のtransformationと軍事法の変質
第17章 米軍transformationと自衛隊の形質転換
第18章 「日米同盟」と地域的集団安全保障

第V部 ドイツ軍事・緊急事態法制の展開
第19章 緊急事態法ドイツモデルの再検討
第20章 ドイツにおける軍人の「参加権」──「代表委員」制度を中心に
第20章補論 「軍人デモ」と軍人法
第21章 軍隊とジェンダー──女性の戦闘職種制限を素材として
第22章 「新しい戦争」と国家──U・K・プロイスのポスト「9・11」言説を軸に
第23章 戦争の違法性と軍人の良心の自由
第24章 日独における「普通の国」への道──1994年7月と2014年7月

あとがき
事項索引

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