集団的自衛権行使はいかなる「結果」をもたらすか            2014年4月28日

集団的自衛権行使の結果

倍晋三は勘違いの首相である。これまでも「未曾有(みぞうゆう)の首相」や「サメの脳みそ首相」などがいたが、安倍首相の場合は、いま、その勘違いから、壮大なる悲劇を国民にもたらしつつある。先週の日米首脳会談は、オバマ大統領の冷やかな態度に象徴されるように、安倍首相の勘違い、見込み違い、すれ違いのオンパレードだった。周辺諸国との間でことさら緊張を生み出し、米側の警告メッセージを読みきれずに靖国参拝をした。日本はいま、安倍首相によって「全周トラブル状況」をさらに深化させている。

これを裏付ける決定的瞬間があった。オバマ大統領が、4月24日の日米共同記者会見で、「日中間で対話や信頼関係を築くような方法ではなく、エスカレーションを許し続けることは深刻な過ちである」と明言したのである。「安倍広報官」の岩田明子NHK解説委員らがいくら「尖閣への安保条約5条適用」を称揚し、この「深刻な過ち」(profound mistake)という言葉を何とかスルーしようと試みても、オバマ大統領の「安倍切り」を世界は目撃してしまった。「私がいることでマイナス」という安倍首相の7年前の言葉は、いま、予兆としてリアルに響く。

思えばちょうど1年前の今日(4月28日)、安倍首相は「主権回復の日」の式典を実施し、その壮大なる勘違いが大いに顰蹙をかった。沖縄の怒りと脱力感は激しかった。当時の『琉球新報』社説は、「沖縄がたどってきた苦難の道も、知らない人が増えていることは事実だ。日本が主権を失うに至った経緯も忘れてはならない。一番怖いのは、そうした歴史を何ひとつ知らないということだ」と、安倍首相の「厚顔無知」を批判した。

そしていま、日米安保の実戦化を狙う「安保懇」の報告書が、5月13日にも提出されようとしている。首相はこれを受けて、「集団的自衛権の行使」を憲法上可能にする閣議決定を行う。「直言」ではこれについて、「『安保法制懇』は何様のつもりか」や、「『戦死者を出す覚悟』?」などで繰り返し批判してきた。世論調査を見ても、国民の間に、安倍政権の集団的自衛権行使一直線の姿勢に対する違和感が広がっている。

安保法制懇は、あれこれのケースや事例を設定するが、いずれも集団的自衛権の問題として成り立たない。これについては、『世界』(岩波書店)2014年5月号の拙稿「安保法制懇の『政局的平和主義』」で批判したとおりである。なお、この拙稿については、『朝日新聞』4月24日付「論壇時評」欄の「論壇委員が選ぶ今月の3点」にあげられた(小熊英二氏)。

ところで、中国や北朝鮮との関係では、「もし万一攻められたらどうする…」ということばかりが語られるが、いま重要なことは「もし万一日本が攻めてしまったら」ということのリアリティであろう。「もし隣国を攻めてしまったら」という危機感は消えない。安全保障の中心は、「攻められない」ようにする条件をどう作るかにある。

論者は無自覚のようだが、「日本が北朝鮮を攻めてしまった結果、日本が北朝鮮に攻められてしまう」のがいまの集団的自衛権限定容認論の帰結である。安保法制懇座長代理の北岡伸一氏は、集団的自衛権行使を限定する要件として、「放置すれば日本の安全に大きな影響が出る場合」を挙げた。「朝鮮半島有事」に絞るという趣旨だろう。安倍首相も、集団的自衛権の行使に関連して「北朝鮮の有事の際に、北朝鮮が例えば米国を攻撃したとします」(2014年2月10日衆院予算委)と北朝鮮をストレートに名指しした。この翌日、韓国外交通商部報道官が、日本の集団的自衛権について「朝鮮半島に影響を及ぼす我々の主権と関連する事項は、我々の要請なしには決して行使されることができない」と直ちに反応したことに留意すべきだろう。

共和国の紙幣

「朝鮮半島有事」に際し、直接の交戦国でもない日本が韓国の意向を無視して集団的自衛権の行使として一方的に参戦することは現実的にはあり得ない。特に、「一部の日本の政治指導者たちが絶えず歴史に逆行する言行を繰り返すなか、 最近、日本政府が憲法再解釈を通じた集団的自衛権行使を企図しながら防衛力増強を持続的に追求しており、周辺国と国際社会の危惧と憂慮を呼び起こしている」(前出・韓国外交通商部報道官)という認識の韓国が、自衛隊の集団的自衛権の行使に容易に理解を示すとは考えにくい。安倍首相は韓国の理解をどう得ようというのか。

仮に韓国の要請があっても、北朝鮮から攻撃を受けた米国を「助けるため」、集団的自衛権を行使して北朝鮮を攻撃すれば、北朝鮮からみれば攻撃していない日本から「先制攻撃を受けた」のであり、日本は北朝鮮の攻撃を受けることを覚悟すべきである(冒頭の図参照)。北朝鮮の『労働新聞』2013年3月17日付は、「朝鮮半島で戦争の火花が散る場合、さらに『自衛隊』が戦争に介入する場合、日本が無事だと考えるのであれば、これほど大きな誤算はない。・・・米国にむやみやたらに共助し、無分別に暴れ回れば、恐ろしい災難を免れない」と報じた。

また、『労働新聞』2013年4月10日付は、「日本には数多くの米軍核基地と原子力関連施設、軍事施設が至る所にあ」り、北朝鮮の攻撃を受ければ「日本は1940年代に被った核の惨禍とは比べものにならない途方もない災難を被ることは避けられない」と報じた。政府は、「通常弾頭でも、例えて言うと、日本海側にはずらっと原発が並んでいるわけです。そこへ落ちたらどうなるのということ、これは現在のところ安全」(2002年11月5日衆院安保委 石破防衛庁長官)とした。だが、「安全」という根拠は示されず、逆に、「弾道ミサイルなどに関して、〔原発の〕設計面で完全な対策を講じることは不可能」(2005年3月31日衆院武力攻撃事態対処委 原子力安全・保安院次長)、政府はPAC3を「原子力発電所の近傍に配備をするといったような計画は、現在、持ち合わせてはおりません」(2013年4月15日衆院予算委防衛省防衛政策局長)としている。PAC3とイージス艦の「整備によって〔ノドンミサイルに対して日本国民を〕全て守れるわけではございません」(参院予算委2012年4月3日田中防衛大臣)、「日本全国くまなくPAC3で守るということについては、防衛省として特に検討はしておりません」(2007年3月23日衆院外務委 防衛省防衛政策局長)という。「PAC3の命中率について、防衛省で正確にこれぐらいというものを出したことはございませんが、ある専門家が書かれた本の中に、かつてPAC3の命中精度について日米の防衛産業がアメリカの国防総省の委託を受けて調べた結果、大体、失敗率が15%ぐらい」(2012年4月17日衆院安保委 渡辺防衛副大臣)というから、破局は不可避である。

以上は、安保法制懇のゲーム感覚の安易な設定がもたらす破局的な結果である。安倍首相や安保法制懇の「有識者」たちは、北朝鮮の攻撃を受ければ一般市民に多数の死者が出ることまで覚悟した上で、集団的自衛権行使を可能にすべきと主張しているのだろうか。死者を出したくなければ、「あらゆる外交努力、政治的努力が傾注されることが重要」(1999年5月12日衆院科学技術委 資源エネルギー庁長官)と考えるほかはない。

このほかに、「朝鮮半島で有事になれば、海上の輸送路を確保するため、北朝鮮が設けた機雷を取りのぞくことが必要になるかもしれない」との主張(『日経新聞』2014年4月15日付)がある。機雷の除去について、政府解釈は、「外国により武力攻撃の一環として敷設された機雷・・・を除去するという行為は武力攻撃の一環としてなされた行為を無力化するという効果を持つ」(1991年4月16日衆院内閣委 内閣法制局第一部長)として、「一般にその外国に対する戦闘行動として武力の行使に当た」り、「自衛権発動の要件を充足する場合・・・以外の場合には憲法上認められない」(1997年6月16日参院内閣委 内閣法制局長官)としている。

連合国最高司令官が「憲法外において法的効力を有する指令を出し得る状態であった」(1999年3月2日参院予算委 内閣法制局長官)朝鮮戦争当時、「海上保安庁は、当時米国の極東海軍司令官の指令に基づきまして、昭和25年10月からその同じ年の12月まで約2カ月間、4個の掃海隊を朝鮮沿岸における機雷の掃海作業に従事させ…この間触雷をした掃海船が粉砕、沈没…、1名の死者、また18名の負傷者も出す事故が発生」(1999年3月2日参院予算委 海上保安庁長官)した。掃海活動には戦死者が出ることを覚悟すべきである。なお、日本の石油を運ぶタンカーの輸送経路(オイルロード)は、朝鮮半島周辺を通過しない。海上幕僚監部防衛部編纂『朝鮮動乱特別掃海史』(PDFファイル)によれば、朝鮮戦争時に北朝鮮が機雷を敷設したのは、朝鮮半島の港湾付近である。現在の北朝鮮海軍について、韓国国防部の2012年『国防白書』は、「ロメオ級・サンオ級潜水艦とヨノ級潜水艇など約70隻・・・は、海上交通路遮断、機雷敷設、輸送艦攻撃、特殊戦部隊浸透支援などの任務を遂行する」としている。ロメオ級は、機雷28個を搭載しており(PDFファイル)、サンオ級は、機雷敷設が可能で(ユヨンウォンほか『北朝鮮軍シークレットリポート』〔2013年、プレニッメディア〕266頁)、機雷16個を搭載している(同PDFファイル)。だが、ロメオ級は「有事の際に米軍の増援兵力が到着する前に釜山港などを機雷(28個搭載可能)で封鎖するために投入すると思われる」が、「潜航時の航続距離は10〜20海里、最大潜航可能時間は約半日程度」で、サンオ級も「航洋性は低く、2〜3日程度の航海が限度である」とされる(宮田敦司「“水中艦隊”の脅威とASW能力」『丸』2011年3月号)。「朝鮮有事」の際、日本のオイルロードに機雷を敷設する余裕はないだろう。

そもそも理由なく「北朝鮮が日本に攻めてくる」ことがあるだろうか。2006年、政府は「中国が日本侵略の「意図」を持っているとは考えていない」としていた(答弁書PDFファイル)のに、2012年9月以降に尖閣周辺の中国公船等が激増したのは、海上保安庁資料によれば同月の日本尖閣国有化が原因である。自ら「中国の脅威」を作り出しておいて、「中国が攻めてくる」はないだろう。政府は、「『脅威』は、侵略し得る『能力』と侵略しようとする『意図』が結び付いて顕在化するもの」(2006年1月31日答弁7号 対照屋寛徳衆院議員)としてきた。

我が党の先軍政治

では、北朝鮮に日本侵略の「意図」はあるだろうか。北朝鮮の公式文献である朝鮮労働党出版社『我が党の先軍政治(増補版)』(2006年)は、小泉純一郎首相(当時)と金正日の会談について次のように書いている。

「偉大な将軍は、…誰であっても我々を侵害しない限り我々は決して武力行使しないこと、日本が我々を敵対視せず、友好的に対するならば我々の国防力強化について少しも憂慮することはないものであることについて、明らかになさった。・・・朝日関係において根本問題は、謝罪補償、過去清算問題であるとされながら、これさえ解決されれば、敵対的な朝日関係が友好協力関係に転換でき、そうなれば、日本が憂慮する安保問題は、自然に解決されるとおっしゃった」。

実際、2002年9月17日の日朝平壌宣言には、「双方は、国際法を遵守し、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認した」という文言が盛り込まれた。2003年、久間章生自民党政調会長代理は、「北朝鮮が先に攻めてきたり、侵略してくることは現実的にはないと思う」(『朝日新聞』同年6月30日)と発言。2004年、政府は「不審船、工作船、これについては、〔金正日国防委員長は〕一回目の会談で今後このような問題は一切発生をさせないということを言われたわけですけれども、その後発生をしていない」(参院外防委 同年5月27日川口外務大臣)とし、今日現在も発生していない。2006年、政府は、「北朝鮮が・・・今我が国を攻めるという・・・意図があるか・・・はややまだ疑問で・・・、脅威としては実感をしていない」(同年11月7日衆院安保委 久間防衛庁長官)と答弁。2009年、久間氏は、「どんなに考えても今、北朝鮮が日本めがけて撃つはずはありませんから」(『朝日新聞』同年4月11日)と発言。政府は意外と冷静だった。

戦時事業細則

なお、取扱いは慎重にすべきであるが、北朝鮮から流出した2004年4月7日付の朝鮮労働党中央軍事委員会委員長金正日『朝鮮労働党中央軍事委員会指示第002号』(絶対秘密)と付属文書「戦時事業細則」〔写真参照〕がある。内容は、全党、全軍、全民が総動員して、戦争準備をより一層完成することで、金日成の祖国統一遺訓を必ず実現することを指示したもので、「有事」の際に行うべき行動の計画である。韓国に墜落した無人飛行機による偵察も記載されている。だが、北朝鮮が日本に戦争を仕掛けるシナリオは書かれていない。2012年の改正では、戦争が宣言される場合として、「米帝と南朝鮮の侵略戦争の意図が確定されるか、北半部(北朝鮮)に武力侵攻した時」、「南朝鮮愛国力量の支援要請があるか、国内外で統一に有利な局面が生じた時」、「米帝と南朝鮮が局部地域で起こした軍事挑発行為が拡大する時」を挙げているとされる(『東亜日報』2013年8月22日付)。

互いの安全を脅かす行動をとらない」とした日朝平壌宣言について、2012年9月17日、朝鮮中央通信は、「朝日平壌宣言を最後まで履行しようとする共和国政府の立場には今日も明日も変わりがない」としている。「日本がそういう安全を脅かす行動を取らないことは自明」(2002年9月26日参院決算委外務省アジア大洋州局長)ならば、集団的自衛権の行使をして日本を攻撃していない北朝鮮を脅かすことは許されないだろう。

小泉首相(当時)はいう。「私は、何とかこの〔北朝鮮と日本の〕敵対関係を協調関係にしたい・・・。不審船、工作船・・・これもこれからは二度としませんと金正日氏ははっきり言明したんですよ。・・・外交努力によって今の敵対関係が協調関係になれば、そういう装備、不審船対策の装備船を充実する、何隻もつくるということなくして安全は確保されるわけですよ」(2002年12月6日衆院決算行監委)。安倍政権の政策は、これとはまったく逆の方向を歩んでいる。

いま日本を「攻める」と想定されているのはアジアの国々である。それらの国々をかつて日本は侵略したという事実さえ否定する無邪気で無神経なナショナリズムの突出と、「もし攻められたら」という視野の狭い、歴史の反省を欠いた「一国安全思考」とが結びつくとき、アジアの人々にとっては、日本の傲慢・不遜なエゴと映る。「もし攻められたら」という視点を維持する限り、「問題を抱えた国々」との外交的な問題解決も困難となるだろう。武力行使で解決するのではなく、あらゆる手段による紛争の平和的解決をはかるべきである。


《付記》韓国語・朝鮮語からの翻訳は、韓国・北朝鮮に詳しい私の早大での授業の元受講生の協力を得た。また、今回掲載した北朝鮮の紙幣は、この元受講生が38度線で入手したものである。これは北朝鮮がデノミ政策で使った新紙幣という。

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